(2)町村総会の非現実性という違和感
すでに指摘したように、報告書は「住民が一堂に会する町村総会については、現在、実効的な開催は困難である」と断言している。筆者も、町村総会の実現性には疑問があるとともに、住民自治の視点から問題があると指摘している(2)。つまり、町村総会が成立したとしても、討議空間として機能せず、首長主導型地域経営となってしまうおそれがある。また、定足数、兼職禁止・請負禁止といった地方自治法規定の準用(自治法95)から実現が困難であることを想定している。
こうした疑義や問題があるとしても、すべての自治体で町村総会がまったく困難であるかどうかは検討を要する。報告書で例示されている東京都青ヶ島村は、「東京都青ヶ島村においても有権者数は144人(平成29年12月1日現在)であり、うち65歳以上の者が24人(13.5%)」である。しかも、居住地域が1か所にほぼ集中している。これらのことを考慮すれば、町村総会の成立の条件が皆無かどうかは慎重に検討すべきである。
また、研究会では「町村総会のより弾力的な運用方策の有無」の検討をすでに指摘した3つのバージョンのみ検討し、現行法では「議会に代えて」町村総会を設置できる規定を改正して、議会との併置を行った上での町村総会の設置の検討は行っていない。条例に基づいて、議会と住民総会の権限配分を行えば、現実性とともに住民自治は進化する。総務省地方行財政検討会議が提案した「少人数議会と多人数議会(町村総会)」モデルを想定するとよい。筆者は、この可能性を提案している(自治法94を改正し、議会の併置とその関係を条例で規定できるよう定める)。
(3)小規模市町村に限定する違和感
報告書は、小規模市町村を対象としているが、「小規模」についての定義はない。第29次地方制度調査会答申で1万人未満が例示されているものの、報告書では1,000人未満、5,000人未満、1万人未満の実態が示され、「これらとあわせ、各方面の意見を踏まえて検討する必要がある」と指摘している。当初、研究会の名称にもあるように「町村」を対象とするはずであったが、「小規模市町村」に変更されている。人口が約4万人の町村もあれば、1万人を切っている市もあるからであろう。
様々な理由によって人口規模基準を設定する議論はある。西尾私案(第27次地方制度調査会)のように、小規模自治体を「特例」自治体とみなし、特例制度をつくり出そうとする試みは登場している。もちろん、小規模自治体が(正確には「も」)単独で行政サービスを担うことは困難である。したがって、第30次地方制度調査会答申でも、連携協約(定住自立圏や地方中枢拠点都市(連携中枢都市圏))とともに都道府県による補完も次のように強調されている。「小規模な市町村などで処理が困難な事務が生じた場合において、地方中枢拠点都市や定住自立圏の中心市から相当距離がある等の理由から、市町村間の広域連携では課題の解決が難しいときには、当該市町村を包括する都道府県が、事務の一部を市町村に代わって処理する役割を担うことも考えられる」。
現行制度の問題と改革方向を示した後、「なお」として、「小規模市町村における事務処理の確保を考えるに際しては、各市町村の地理的条件や社会的条件が多様であることに鑑み、行政の効率化等の観点のみにとらわれることなく、地域の実情を十分踏まえることが必要である」と追加している。重要な視点である。
小規模自治体は、地域振興に努め、人口増にも大いに貢献している。島根県海士町(2,500人)、長崎県小値賀町(3,500人)、高知県大川村(400人)などを想定するとよい。議会では、北海道栗山町(1万3,000人)、同福島町(約4,000人)などが議会改革を先駆的に実践している。議決事件の追加(自治法96②)を2000年に行ったのは町村議会である(福島県月舘町議会)。
意欲ある議会が改革を自主的に試みることのできる制度設計が必要である。市町村全体にかかわる法改正を行って、つまり市町村全体に網をかぶせて、できるところはそれを活用することが自治にとっての前提であろう。
(4)先駆議会が目指す議会
現行制度を含めて3つに収斂(しゅうれん)されるものではないことの確認を踏まえて、ここではパッケージのそれぞれの要素を活用することが重要であること、つまりパッケージには収斂しないことを確認する。2つの方向と今日の議会改革の現状を考慮すれば、集中専門型は、議会参画員の設置の義務付け以外、実際に作動させる上で議員報酬や小人数制は別として、先駆議会が目指したものである。
より詳細に先駆議会の動向を踏まえれば、次のようになる。つまり、2つの方向のそれぞれの要素を組み合わせて活用している。なお、(a)~(g)は「2つの議会のあり方イメージ」(表2〔前回〕)の事項である。集中専門型は(専)、多数参画型は(多)として略記している。
(a) 議員活動では、「主たる職務として専業的に活動」(専)
(b) 権限では、「地方自治法96条1項を維持(積極的に同条2項を活用)」(専)
(c) 議員報酬・定数などでは、「生活給を保障する水準」を目指しつつも「生活給保障なし」であり、多数者ではないが少数者でもない(専)(多)
(d) 兼職禁止・請負禁止では、請負禁止の緩和を提言(多)
(e) 議会運営では、「通年会期制による審議日程の分散」、「夜間・休日中心」(多)、通年議会、現行どおり(専)でも閉会中審査の充実
(f) 勤労者の参画では、先駆議会でも検討が希薄な要素
(g) 住民参画では、「議会参画員」(専)ではないが政策サポーター制度、議会モニター制度などを積極的に開発・導入、といった要素の活用
このように、先駆議会は悩みながら、それぞれの議会に適合した要素を選び取っている。そして、突破できない課題については、すでに指摘したように各議会として意見書・要望書を、議長会として要望書を提出している。
なお、町村議会の中には「生活給を保障する水準」を目指したい議会もあるが、実際には実現していない。
【附記(再録)】 筆者は、総務省「町村議会のあり方に関する研究会」構成員として報告書作成にかかわる機会を得た。構成員や事務局との長時間の真摯で熱き「刺激的な」議論が行われた。各構成員の「何とかしたい」という熱き思いも感じることができた。報告書が公開されると大きな反響を呼んだ。今後の議会制度、住民自治を考えるに当たっての重要な素材となる。議論が巻き起こると思われるし、そうなってほしい。筆者は、研究会の中でいくつかの論点を提案したが、残念ながら基本的な事項は報告書に盛り込まれていない。報告書が公開された今、筆者の基本的な考え方を公にする(時間の関係もあり研究会においてすべての内容を発言しているわけではない)。なお、研究会の議論の詳細が公開されているわけではない。本稿を執筆するに当たって、それらを活用せず、報告書そのものに即して議論している。
(1) 江藤俊昭「魅力ある議会の創造こそが『解消』の正攻法──なり手不足問題の解消の道を探る(下)」『地方議会人』2017年11月号。
(2) 江藤俊昭「住民総会による議会廃止(の検討)から住民自治を考える──なり手不足問題の解消の道を探る(上)」『地方議会人』2017年10月号、参照。