(3)2つの議会は住民自治を推進するのか
すでに示唆したように、報告書について好意的に評価する者もいるであろう。今までの議論を踏まえて、この点について検討しておきたい。
① 議会像を明確にし、議会改革の方向を指し示したことを評価。極端な議会像だとしても、各議会の改革方向素材になるという意味では理解できる。しかし、「不可分のパッケージ」とすることは、すでに指摘したような「国からの改革」、「集権制」の強化、「行政体制強化」や、「議事機関」を弱体化させるという基本的問題がある。
② 従来不可能であったものが法律改正の提案によって可能となったことを評価。報告書では、「公務員の立候補退職後の復職制度」、「立候補に係る休暇の取得等について不利益取扱いを禁止」、「議会参画員の活用」、「契約・財産等に関する議決事件を除外」、「請負禁止を緩和」、「他の自治体の常勤の職員との兼職可能」、「立候補及び議員活動(夜間・休日中心)に係る休暇の取得等について不利益取扱いを禁止」といった法律改正が提案される。筆者は、契約と財産の取得処分の議決事件からの除外は、不必要だと考えているが(緩和は必要)、それ以外は、従来から提案されてきたものである。その意味で評価できるともいえる。しかし、それらは何も2つの議会に限ってではなく、広く市町村議会や都道府県議会を含めて地方議会には必要である。つまり、2つの議会だけの改正の意味はない。慎重に議論した上での地方自治法改正が必要である。
③ 抽選制で選出された議会参画員が議会の議論を補完する新たな試みを評価。議員を少数とする場合、多様な意見の表出に障害が生じる。そこで、多様な住民によって構成される意見表出と討議の場が必要となってくる。こうした制度を設置しようという意図は評価できる。そこで構想されたのが、裁判員制度を参考とした議会参画員である。抽選制による討議空間の設置は、すでに自治体において定着している。市民討論会などである。市民討論会を参考に制度化したものである。その際、裁判員制度を踏まえたものとなっている。議会参画員制度は、主体的に政治に参加する住民を育成することも目的となっている。つまり、主権者教育の意味がある。ただし、義務的な参加制度は住民自治の推進にとって有効なものか慎重な議論が必要だろう。そもそも、制度設計に当たってヒントとなっているであろう長野県飯綱町議会の政策サポーター制度(後述)は自主的なものである。後述するように、実現性についても問題を抱えている。
④ 選択制による地方自治制度の多様性を推進することを評価。日本における地方自治制度、地方政府形態は画一的である。そこで、住民自治の進展にはその多様性を高めることが必要だという議論がある。筆者も異存はない。しかし、この報告書は「選択制」を強調しているものの、多様性を否定・軽視する論理に基づいている。画一的な制度であっても、すでに多様な議会がつくり出されている。先駆議会もあれば、「居眠り議会」もある(議会改革の進展によって「居眠り議会」は少なくなっているが)。先駆議会が提案する法改正によって、さらなる多様化と底上げは進む。先駆議会が提案する法改正を無視することは多様化に逆行する。このことはもう1つの問題を引き起こす。報告書は現行制度も存続させるとしているが、新たな制度はなぜこの2つなのか。その間には、多様な議会が存在する。何度も繰り返すが、イメージとして2つの議会を提案することは理解できる。しかし、パッケージとして2つの議会だけを提示することは、その間の多様な議会が排除される。
【附記】 筆者は、総務省「町村議会のあり方に関する研究会」構成員として報告書作成にかかわる機会を得た。構成員や事務局との長時間の真摯で熱き「刺激的な」議論が行われた。各構成員の「何とかしたい」という熱き思いも感じることができた。報告書が公開されると大きな反響を呼んだ。今後の議会制度、住民自治を考えるに当たっての重要な素材となる。議論が巻き起こると思われるし、そうなってほしい。筆者は、研究会の中でいくつかの論点を提案したが、残念ながら基本的な事項は報告書に盛り込まれていない。報告書が公開された今、筆者の基本的な考え方を公にする。なお、研究会の議論の詳細が公開されているわけではない。本稿を執筆するに当たっては、それらを活用せず、報告書そのものに即して議論している。
(1) 「町村議会のあり方に関する研究会 開催要綱」では、「議員のなり手不足等により特に町村の議会運営における課題が指摘されていることにかんがみ、小規模な地方公共団体における幅広い人材の確保、町村総会のより弾力的な運用方策の有無その他の議会のあり方に係る事項などについて具体的に検討を行うため、『町村議会のあり方に関する研究会』(以下「研究会」という。)を開催する」となっている。
(2) 「地方議会のあり方に関する研究会 報告書」、「地方議会・議員に関する研究会 報告書」、「地方議会に関する研究会 報告書」がある。主要な提案である議会議員選挙制度の改正は、選挙制度審議会の設置とその答申を踏まえた公職選挙法の改正という高いハードルを越えなければならない。選挙制度審議会は、衆議院議員選挙の小選挙区制廃止や中選挙区制復活といった大きな政治的争点を抱え込むことになるため、早計には設置できない。それに対して、今回の報告書は、地方制度調査会の設置とその答申を経れば国会への議案提出が可能となる。