1 研究会設置の目的と報告書の概要
(1)研究会設置の背景と目的
研究会は、①幅広い人材確保、②町村総会のより弾力的な運用方策の有無、③その他議会のあり方にかかわる事項などについて検討することを目的として設置された(1)。また、報告書は、これまで総務省に設置された地方議会にかかわる他の研究会報告書とは異なり、法改正に至る可能性があり、単なる研究会報告書とは異なる特徴を有している(2)。そこで、本稿では、報告書の課題・問題点を探ることにしたい。
深刻な小規模議会議員選挙におけるなり手不足の現状、それを踏まえた高知県大川村によるなり手不足の解消の1つの手法としての町村総会の検討の動向は、喫緊の課題として総務省においても認知され、緊急に研究会が設置された(高市早苗前総務大臣の下に設置された)。その報告書は、なり手不足の原因の探求から始まり、町村総会の弾力的運用の有無の検討(結論は「無」)、そして様々な議会の試みは評価しつつも、新たな2つの議会(集中専門型、多数参画型)の提案、それを実行する際の留意点(住民参画、公務員の立候補の支障の緩和、議決事件の限定と請負禁止の緩和)、という構成になっている。
なり手不足の広がり、大川村の町村総会の検討に触発された研究会の設置経緯からすれば、このような報告書の構成は至極当然と映る。しかも、議会が悩んでいる課題に緊急に取り組む意欲は評価できる。しかし、報告書には地方自治を進める視点から看過し得ない論点が内在している。結論を先取りすれば、次のような課題がある。
① なり手不足の解決方策の検討が不十分・不適切なこと。町村総会を「困難」と結論付けるが、どのような調査を踏まえたものか。町村総会は困難だとしても、議会との併置の可能性も閉じられた。また、なり手不足問題に取り組んできた、いわゆる先駆議会が提案した法改正についての検討はほとんど行われていない。
② 報告書の内容からは、多様性・選択制をイメージしやすいが、実は総務省が想定するパッケージの押しつけになること。2つの極端な議会をイメージ(単なる方向性)としてではなく「不可分のパッケージ」(選ぶならこの型に!)として提案している。課題を抱えている議会は、先駆議会が提起した法改正がないことで、結局新たに提案された2つの議会のいずれかを選択することを迫られる。多様な運営を育む視点ではなく、極端であるとともに強固に決められたパッケージの議会を強いている。これまで、創造的な議会改革を行ってきた議会では、なり手不足問題にも取り組んでいる。そこでは、連続的、いわば多様な議会が模索されている。その実践の中で提起された法改正が実現すれば、さらに充実した議会改革、なり手不足問題の解消の一端が可能となる。報告書の提案する選択制(多様性)を評価する方もいるかもしれないが、実際にはこの間実践されてきた意欲ある議会の多様性を無視することになる。総務省が提案する2つの議会のどちらかに向かわせるものである。現実の議会は多様である。
③ 議事機関としての議会像の転換が行われること。憲法は、地方公共団体の議会を必置の議事機関として規定している。英語訳では、この議事機関は、deliberative organ(討議する機関)である。憲法下の議会改革は、常にこれを意識して進めることが前提である。報告書が提案する2つの議会像は、この認識が極めて低い。一方で、首長と一体となった、したがって監視が効かない議会、他方で「片手間」で行う、したがって首長主導型の地域経営における議会の提案となっている。
こうした基本的問題とともに、提案された2つの議会の実現性や、その提案がなり手不足解消の有効な方策となるかどうかについての疑問もある。
そこで、本稿ではその内容とともに、その課題・問題を確認する。なお、課題・問題を中心に検討するが、兼業(請負)禁止の緩和(報告書の「緩和」は「廃止」の意味であるが、ここでは本来の意味の「緩和」)、「立候補に係る休暇の取得等について不利益取扱いを禁止」、「立候補及び議員活動(夜間・休日中心)に係る休暇の取得等について不利益取扱いを禁止」等、報告書の中のいくつかの法改正の提案は、小規模市町村議会を超えて実現すべき事項だと思われる。