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2017.12.11 政策研究

規制に向け条例策定 都市部は地域で制限 地方部は誘致に活用 ~特集「民泊新法施行へ」~

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一般社団法人共同通信社編集委員兼論説委員 諏訪雄三

 マンションや一戸建て住宅の空き室に旅行者を泊める「民泊サービス」を解禁する住宅宿泊事業法(民泊新法)が2018年6月15日に全面施行される。これに向けて地方自治体が条例で、民泊を独自に規制する動きが活発化している。
 大きく分類すると、都市部は規制強化、地方部は外国人旅行者の誘致もあって法律の範囲内で独自色を出そうとしている。これに対し、2020年には訪日外国人観光客4000人を目指す政府としては、過度な規制を警戒している。
 石井啓一国土交通相は12月1日の閣議後の記者会見で「民泊新法は、特に必要な区域に限って制限できると規定しており、この趣旨を踏まえて検討することが必要だ」と述べ、懸念を示した。
  ただ、民泊新法の運用を示した観光庁のガイドライン(指針)はまだ示されておらず、対応に迷っている自治体もあるようだ。各地の動きを紹介しよう。

上限は180日

 まず、民泊新法の全体像を説明する。180日を超えない範囲で住宅に人を宿泊させる「住宅宿泊事業」を営もうとする場合、都道府県知事(保健所設置市、特別区の長も含む)への届け出が必要となる。
 上限となる年間提供日数は180日だが、自治体が条例によって実施を制限できる。今、各自治体で検討が始まっているのが、この制限のことだ。
 住宅宿泊事業者の主な責務としては、①届け出た住宅に事業者の緊急連絡先などを記した標識を掲示する、②周辺地域の生活環境への悪影響(騒音、ごみの処理、火災など)を防止するよう宿泊者に説明する、③周辺住民から出た苦情などに対応する、④宿泊者名簿を備え付けて3年間保存し、宿泊させた日数などを2カ月ごとに定期報告する―ことを求めている。
 新法ではこのほか、家主不在型の住宅宿泊事業者に対しては「住宅宿泊管理業者」に管理の委託を義務付け、管理業を営もうとする場合は国土交通大臣への登録が必要とするとした。さらに、宿泊者と住宅宿泊事業者との間の宿泊契約の締結を仲介する事業者は観光庁長官の登録が必要とするなどとしている。
 宿泊の実態を把握するため観光庁は、インターネットを使ったシステムを構築する。民泊の事業者からの報告に加え、「エアビーアンドビー」など仲介サイトの事業者にも同様の報告を要請。この二つを突き合わせることで、営業日数が上限を守っているかをチェックする。営業日数の上限に達した民泊事業者については、ウェブサイト上では見えない「非表示」扱いにするよう仲介サイト側に要求する。
 民泊新法の施行については、知事への届け出や国への登録という準備行為については、2018年3月15日から始まる。
 自治体が実施を制限する条例の基準は、10月27日に民泊新法の施行令として出されている。この中では、①区域ごとに、住宅宿泊事業を実施してはならない期間を指定して行う、②区域の指定は、土地利用の状況その他の事情を勘案して、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止することが特に必要である地域内の区域について行う、③期間の指定は、宿泊に対する需要の状況その他の事情を勘案して、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止することが特に必要である期間内において行う―となっている。これらを具体的に示したのがガイドラインとなる。
 厚生労働省が10月に発表した調査結果では、旅館業法に基づく営業許可を得ていない疑いがあるとして自治体が施設の調査などを行った件数が、2016年度は全国で1万849件に上った。2015年度の1413件から急激に増えており「民泊」の深刻な影響が浮き彫りになった。法による民泊の全体像の把握と、違法民泊の一掃は待ったなしの状況だ。

大都市は規制の方向

 では、実際の自治体の規制がどうなりそうなのか。いくつか例を見てみよう。
 まず東京都中野区は11月22日、「住宅宿泊事業の適正な実施に関する条例案」を公表した。パブリックコメントを経て、2018年2月の区議会に提出する方針だ。網羅的な内容になっており、詳しく紹介することで規制の全体が分かると思う。
まず、住居専用地域での平日の実施は不可とし、金、土、日、祝は実施可とした。ただ、これらの日は年間160日から170日あり、日数の大幅な制限ではなく、地域を限定したということだ。区は届け出を受け付ける際には、マンション管理規約などで民泊が禁止されていないことを確認するとし、当該マンションの管理組合らにその旨を通知するとした。
 住居専用地域で事業を実施する者は、家主居住型では近隣の住民に事前に周知することを求め、家主不在型では周知に加えて、最寄りの区民活動センターでの事業説明会の開催を義務付ける。事業の実施に伴い発生した廃棄物は事業系ごみとして適正な処理を求めるとした。
 区は事業の届け出があったときは、住宅ごとに事業者らの商号、名称、氏名、住所、連絡先などをホームページで公表するとしている。
 このほか東京都新宿区は「住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例案」を11月29日からの議会に提出した。その基となる「新宿区ルール」の中では「住居専用地域では月曜から木曜までの民泊営業はできない」としている。
 さらに住宅宿泊事業を営もうとする者は、事業の届け出をする7日前までに、近隣の住民に対し、商号、名称または氏名、連絡先、事業開始日などについて書面で周知するよう求めた。苦情が発生した際の対応について記録を作成し、3年間は保存するとしている。
 新宿区が規制に動くのは、民泊に関する苦情が急増しているのが要因だ。2014年度に6件だった苦情は、2015年度が95件、2016年度が246件などとなっており、観光客の増加によって住宅地の平穏が保たれないという恐れが現実のものとなっている。
 大田区も11月29日に住宅宿泊事業法施行条例案を議会に提出しており、曜日の制限はないが、住居専用地域、工業地域、工業専用地域、文教地区、田園調布地区などの地区計画を定めている地域での営業を禁止。さらに、周辺住民への事前周知に努めるよう求めた。
 世田谷区も11月28日から条例の骨子案を公表、区面積の78.4%占める住居専用地域での「月曜の正午から土曜の正午まで」(祝日の正午からその翌日の正午を除く)の事業の実施を制限するとしている。
 このほか横浜市も低層住居専用地域では祝日を除く月曜から木曜までの民泊はできないとしている。新幹線の開業で観光客が増えている金沢市も土日を中心に年間60日程度に制限する案が検討されている。

都道府県は様子見

 都道府県は保健所を設置していない市町村と調整して条例をつくる役割がある。これまでは具体的な動きは乏しい。
 北海道は8月30日に「住宅宿泊事業法に基づく条例に関する有識者会議」をつくり、対応策を検討している。10月30日の第3回会合では、民泊の営業を制限できる区域と制限する時期については、①小中学校周辺=概ね100m以内で祝日、土日など休業日を除く日、②別荘地=別荘所有者が多数滞在する時期、③道路事情が良好ではない集落=紅葉時期など例年道路渋滞が発生すると想定される時期、④住居専用地域=平日の営業―の4類型を示した。
 今後、国や市町村と協議し、市町村ごとに具体的な制限対象区域を書き込んだ条例案を2018年2月の議会に提出する予定だ。
 長野県も同様に条例を準備しており、市町村の意見を聞いて区域や曜日、期間などを制限する方針。一方、同県の軽井沢町は「民泊施設、カプセルホテルその他これに類する施設」の設置については町内全域において認めないとする方針を今年4月に表明している。
小規模自治体でもその個性に応じて、民泊の取り扱いは大きくことなりそうだ。
 地域振興に結び付けようとする動きでは、千葉市の例がある。国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業条例に基づく特区民泊の事業者説明会が始まっている。こちらは「緑」「里」「農」をキーワードにして、千葉市の緑区、若葉区の市街化調整区域、住居専用地域の古民家や空き家で民泊を実施するという方針だ。1回の使用期間は条例で2泊3日以上と規定している。農業体験といった「コト消費」につなげる狙いがある。

京都は府・市で立場分かれる

 国内でも最も外国人観光客をひきつける街の一つ、京都は、市部とそれ以外の地域で対応が分かれている。京都市は9月に「京都市にふさわしい民泊の在り方検討会議」を設定、民泊ルールを議論している。この中では、①住居専用地域での営業は1、2月の約60日に制限する、②上限180日を容認するのは町家と家主居住型の施設に限定する―との考えだ。
 さらに、民泊でのトラブルに備えるため10分以内に客室に駆け付けられるように半径800m以内に管理者らの駐在を義務化する「駆け付け要件」も示した。このように厳しい制限を打ち出したのは、旅館業法の許可を得ていない違法民泊が市内に3000件あると推定されるからだ。
 無許可営業の疑いで調査した施設が2017年4月からの7か月間で計1134件に上っている。「ごみ出しができていない」「隣りがうるさくて眠れない」などの住民からの苦情や不安が強く出されている。ホテルが満室の期間が長かったり、宿泊費が上がっていることから、中国人らによる民泊施設の運営もあるという。
 市内では新しい5つ星ホテルの立地も続いており、高級な観光地としてさらに売り出すためにも規制はやむを得ないという考えだ。
一方で、「京町家の保存および継承に関する条例」が11月2日に成立している。京町家の有効な保全や活用策の一つとして民泊の活用も考えられるだけに、町家での民泊には制限をしないという政策判断をしたようだ。
 このように差し迫った民泊の課題は京都市に集中している。これに対し京都府は、民泊を促進する方針を示している。府と市で複雑な立ち位置にあると言えるだろう。具体的には、優良民泊を認証する条例を制定する考えで、2018年2月の議会に提出する方針だ。
 民泊事業者に対して、条例で上乗せの安全や衛生などの義務・努力基準、地元商店や産品の積極利用など推奨基準を課し、それらを満たせば認証するという仕組みだ。
 この京都府の条例の考えは、今後、外国人観光客を誘致しようとする他の自治体の参考になるのではないか。
 
◎主な資料一覧
【東京都中野区】
・パブコメ
http://kugikai-nakano.jp/shiryou/171127181724.pdf
 
【新宿区】
・議案一覧
http://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/file08_05_0003820171116.html
 
・会議資料
http://www.city.shinjuku.lg.jp/whatsnew/pub/2017/1115-01.html
 
・新宿区ルール
http://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/kikaku01_2901102_5222122.html
 
 
【東京都大田区】
・条例案
https://www.city.ota.tokyo.jp/gikai/honkaigi_iinkai/honkaigi/h_29/4teirei/2904kuchoteisyutu.files/2904_kuchogian75-80.pdf
 
【東京都世田谷区】
・パブコメ
http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/107/160/784/d00156535.html
 
 
【横浜市】
・パブコメ
http://www.city.yokohama.lg.jp/bunka/kancon/shiminikenbosyu/pdf/minpaku-c.pdf
 
【北海道】
・会議資料
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/ssa/minpaku/experts_meeting.htm
 
 
【軽井沢町】
・HP
http://www.town.karuizawa.lg.jp/www/contents/1458017665354/index.html
 
 
【千葉市】
・条例概要
http://www.city.chiba.jp/somu/shichokoshitsu/hisho/hodo/documents/170901-01-01.pdf
 
 
【京都市】
・HP
http://www.city.kyoto.lg.jp/menu2/category/22-11-2-0-0-0-0-0-0-0.html
・京町家の保存および継承に関する条例
http://www2.city.kyoto.lg.jp/shikai/img/honkaigi/gian/H29-9/G29-80.pdf
 
 
【京都府】
・予算資料
http://www.pref.kyoto.jp/koho/kaiken/documents/29020601.pdf
 
 

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