以下、表2の「政策具体化条例のチェックポイント」①~⑫に従って、この条例の内容と制定過程を検証してみます。
〔①政策性〕子どもの読書活動の推進を通した子どもの学力向上を目指した具体的な政策を規定した。
A 子ども読書活動推進計画の義務化(6条)
B 子ども図書館の設置(9条1項)
C 学校図書館支援センター事業の実施(9条2項)
D 家庭、地域、学校での取組・連携体制の整備(11条~14条)
E 子どもの読書活動を推進するための年間指導計画の策定(13条1項1号)
F 学校図書館の常時開館(13条1項2号)
G 図書館司書の各学校への配置(15条)
H 北九州市子ども読書活動推進会議の附属機関化(17条)
I 施策の検証・条例の見直し(18条)
〔②総合性〕特定の事項だけではなく、子どもの読書活動の推進ために必要な市の施策や関係団体、住民の責務等を総合的に規定している(D)。
〔③実現性〕条例案制定の過程で、執行機関と予算、人員の確保が可能であることを確認している。
〔④法規性〕関係法との適合を確認し、法律に上乗せした内容を置いた。また、条文の正確さを備えている。
〔⑤検証性〕5年を超えない期間ごとに、条例の必要な見直しだけではなく、市の施策が本条例の趣旨に沿って推進されているかどうかを評価し検討を行うことを義務付けている(I)。
〔⑥提案性〕現行の施策に不足している施策を新規事業として具現化している(B、C、E、G)。
〔⑦規正性〕現行の施策を変更・修正・強化すべきものを規定している(A、D、F、H)。
〔⑧整合性〕執行機関との情報交換や議会独自の調査・研究によって既存の条例・規則との整合(既存の条例・規則の改正を含む)を確保している。
〔⑨実効性〕予算措置を伴う具体的な事業を規定し、実効性を確保している(A~H)。
〔⑩表現性〕目的規定とは別に、条例制定の経緯や現状を分かりやすく述べた前文を置いた。また、本文も従来の条例よりも市民に分かりやすい表現を用いている。
〔⑪前進性〕理念条例であった本市における過去の議員立法の経験を生かしている。
〔⑫先進性〕議会が提案すべきではないと考えられていた「公の施設の設置」や「附属機関」について規定した。また、法律では努力義務となっている子ども読書活動推進計画の策定等を義務化している(A、B、H)。
② 議員立法において特に大切な項目
上記①~⑫のチェックポイントのうち、特に大切なのが⑦規正性と⑨実効性です。
まず、⑦規正性についてですが、自治体における大半の政策や事業は、条例ではなく計画や要綱などで規定されています。議会が計画等の内容を変更する権限はありませんから、市の政策等に議会の意思を反映させることは困難なのが現状です。そこで、既存の計画等を条例化し、その中で議会が志向する方向へ自治体の政策や事業を誘(いざな)うことができます。
次に⑨実効性についてですが、長から提案される条例案は、具体的な事項のかなりの部分は規則に委任されています。それは、提案する長自らが立案し、自らが執行することが前提となっているからです。時代の変化に耐えうるだけの規定の普遍性の確保には、当然配慮しなければなりませんが、議会からの政策提案の具体化である議員立法においては、長が制定する条例よりも条例自体に具体的な内容を規定する必要があります。