●憲法(的価値)に抵触していると考えられる条例の例
ア 空き家になったら、すぐにその建物を取り壊さなければならないという条例
財産権(憲法29条)への過度な規制であると考えられます。空き家対策の必要性を超えた規制です。
イ ペットの火葬場をつくる際には、周辺住民の同意を得なければならないという条例
個人的な思惑や都合(周辺住民の同意)によって、財産権の行方が決められてしまいます。法の下の平等(同14条)にも関わる問題です。
ウ 条例を遡及適用して現にある施設を取り壊すよう義務付けている条例
当時は適法であった行為に対して、条例を不利益に遡及することはできません。
また、最近は、景観保護の観点から、太陽光パネルを規制する条例がいくつかの自治体で制定されています。そこでは、以下のような規定が見られます。
第○条 事業者は、事業を施行しようとするとき又は施行している事業を変更しようとするときは、市長の同意を得なければならない。
この条例の規定は、太陽光パネルの「設置」ではなく、太陽光パネルによる「事業」を規制しています。設置を対象とした立地規制であれば、自治体(地域)の事情を反映する条例の規制に比較的なじみます。しかし、事業、つまりは経済活動に関する政策は、通常は国レベルの課題であり、条例で規制することは困難ではないかと考えられます。少なくとも、条例による経済活動に対する規制については、その正当性についてかなり高度な説明責任が課されることは間違いないでしょう。
② 条例は「目的」が大切
単に条例で商店組合への加入促進を規定しただけでは、特定の団体に肩入れしていることにしかなりません。条例が本来のあるべき形である「まちづくり契約」になっていないのです。このままでは(5条だけでは)、住民から預かっている実印は押せませんね。
そこで、北九州市商店街の活性化に関する条例1条では、商店街がまちづくりに果たしている、
・地域経済の発展
・地域のコミュニティの維持及び強化
という役割の重要性をうたっています。これによって、加入率の低下が商店組合内部の問題にとどまるものではなく、条例で規定すべきまちづくり全体における課題であることを確認しているのです。
(目的)
第1条 この条例は、商店街が地域経済の発展並びに地域のコミュニティの維持及び強化に果たす役割の重要性に鑑み、(略)商店会、事業者、市、近隣事業者、経済関係団体及び建物所有者等の責務等を明らかにすることにより、商店街の活性化を図り、もって市民生活の向上に寄与することを目的とする。
③ 条例で利益を受ける当事者の努力も大切
さらに、北九州市商店街の活性化に関する条例4条で、商店主に商店組合への加入促進を促すだけではなく、商店組合の側にも、 ・まちづくりに一層、貢献するよう活動すること
・加入促進に値する公明正大な団体であり続けること
・自らも商店主の加入促進に頑張ること
を規定しています。この商店組合に対する規定は、商店主に対する加入促進を規定した5条よりも先に規定されています。条例における条文の順序は、法的な効力には関係ありませんが、まずは、当事者である商店組合の頑張りが一番大切であるということを辞書的に示しています。
(商店会の責務)
第4条 商店会は、商店街を活性化する事業に積極的に取り組むことによって、魅力ある商店街の形成を図り、もって、商店街が地域経済の発展並びに地域のコミュニティの維持及び強化における役割を積極的に果たすことができるよう、努めるものとする。
2 商店会は、その事業及び経理の内容を明らかにするよう努めるものとする。
3 商店会は、商店街内の空き店舗の状況その他商店街の実態を把握するとともに、その組織の基盤を強化するため事業者の商店会への加入の促進に努めるものとする。
こうして、住民が納得するバランスのとれた、そして実行可能な条例ができ上がるのです。特定の住民の「困っていること」をどのようにしてまちづくり全体の問題であると位置付けることができるか、そして、当事者にも条例で応援してもらえるだけの資格を獲得するように促すことができるかが、条例創りの大きなポイントのひとつです。