おわりに
「集中復興期間」が終了し、2016年度からは「復興・創生期間」に入っている。「創造的復興」という名のもとに進められている復興関連事業だが、「人間の復興」という点では先が見えない状況が続いている。石巻市では中心部と周辺部、特に半島部との復興格差が拡大しつつある。全体的に大規模なインフラ整備に比べて暮らしの復興は遅れる傾向にあるが、石巻市ではその特徴が顕著であり、周辺部での過疎化が加速している。その一方で、東松島市のように、住民主体でコミュニティ重視の復興が進んでいる地域もある。
石巻市の事例で検証したように、復興交付金事業を中心としたトップダウン型の復興事業により巨額の財政を投入しても、地域が再生できない最大の要因は、コミュニティにおける住民主体のきめ細やかな復興計画とそれに見合った復興事業が展開できない点にある。ハード面のみならずソフト面や生活者の視点に立った復興のあり方が求められているといえよう。
(1) 「人間の復興」とは大震災によって破壊された生存機会の復興を指す。「人間の復興」について詳しくは、岡田知弘=自治体問題研究所編(2013)『震災復興と自治体―「人間の復興」へのみち』自治体研究社、綱島不二雄=岡田知弘=塩崎賢明=宮入興一編(2016)『東日本大震災復興の検証―どのようにして「惨事便乗型復興」を乗り越えるか』合同出版などを参照。
(2) 2016年度からの5年間は「復興・創生期間」(約6兆円)とされている。
(3) 市町村合併と大震災による石巻市財政への影響については、拙稿(2014)「震災復興財政の現状と課題―石巻市の事例を中心に」『経済研究』静岡大学、20巻1号、37-57頁、同(2013)「被災者・被災地支援と市町村合併」岡田知弘=自治体問題研究所編・前掲書65-86頁等を参照。また、復興格差については、拙稿(2015)「市町村合併と復興格差をめぐる現状と課題―宮城県下市町の事例を中心に」『環境と公害』岩波書店、45巻2号、26-31頁及び同(2016)「大震災後の復興交付金事業と復興格差をめぐる諸問題」綱島不二雄他編・前掲書115-136頁などを参照。
(4) 市町村合併による自治体財政への影響については、拙著(2001)『市町村合併と自治体の財政―住民自治の視点から』自治体研究社、同(2011)『「分権改革」と地方財政―住民自治と福祉社会の展望』自治体研究社などを参照。
(5) 市町村合併による防災力空洞化については、室崎益輝=幸田雅治編著(2013)『市町村合併による防災力空洞化―東日本大震災で露呈した弊害』ミネルヴァ書房が詳しい。
(6) 政府復興予算と震災復興や地方財政の関係については、日本地方財政学会編(2013)『大都市制度・震災復興と地方財政』勁草書房、同(2014)『政令指定都市・震災復興都市財政の現状と課題』勁草書房のシンポジウム(宮入興一=清水修二=川瀬憲子=井上博夫=武田公子「東日本大震災・原発災害と市町村財政」)でも詳しく論じている。
(7) 例えば、2012年度の復興予算17兆円のうち1.2兆円が流用可能とされた。具体的には、被災地以外でも使用可能な基金として、森林整備・加速化・林業再生基金(農水省)1,399億円、定置用リチウムイオン蓄電池導入支援事業(経産省)210億円、重点分野雇用創造事業(厚労省)2,000億円、住宅用太陽光発電高度普及促進復興対策基金(経産省)323億円などがある(復興庁資料)。
(8) 宮城県ヒアリング調査提供資料(2012年)及び宮城県「復興の進捗状況」(2016年12月11日)。
(9) 「半壊でも仮設住宅対象外」『朝日新聞』2011年6月11日付朝刊。
(10) 石巻市ヒアリング調査による(2015年7月9日実施)。
(11) 石巻市では「災害公営住宅」ではなく、「復興公営住宅」という表記になっているため、ここでは「復興公営住宅」とする。
(12) 雄勝総合支所によれば2016年度末には620世帯(1,400人)になるとされている(石巻市雄勝総合支所の資料による)。
(13) 『毎日新聞』2014年9月7日付朝刊。
(14) 『河北新報』2015年5月25日付朝刊。
(15) 「巨大防潮堤 何守る」『朝日新聞』2016年1月31日付朝刊。
(16) 東松島市ヒアリング調査提供資料による(2015年7月)。