(2)石巻市財政と復興交付金事業――防災集団移転事業、復興公営住宅(11)
次に、震災復旧・復興過程に伴う課題を財政面から見ておきたい。基本的に「公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法」に基づいて、被災前の原形復旧のために実施される旧公共土木事業が、災害復旧事業である。災害復旧事業については、事業ごとに補助率が異なっており、産業基盤整備等に対する補助率は高いのに対して、生活関連整備に対する補助率は低いのが特徴である。東日本大震災では、震災復興特別交付税という形で、通常の特別交付税とは別枠で全額措置される仕組みが設けられたため、基本的に自治体負担はない。こうした災害復旧事業以外、あるいはその上乗せの事業に対して設けられているのが、復興交付金事業である。
石巻市における主な復旧・復興事業全体を見ると、2011年度から2020年度までの10年間で約1兆円規模となっており、復旧に約3,695億円、復興に約5,322億円、その他968億円という内訳となっている(表2)。復興交付金事業には、復興公営住宅、防災集団移転事業、土地区画整理事業などが数多く列挙されていることがうかがえる。
表2 石巻市における「主な復旧事業」と「主な復興事業」(2011~2020年度)
ところで、石巻市目的別歳出の当初予算と決算の推移(通常分と震災関係)を見ると、震災後の2011年度当初予算と比べて、決算では下方修正を余儀なくされているといった現状が浮かび上がってくる(なお、表については紙面の都合により省略している)。2011年度決算は約1,800億円(そのうち震災分は1,258億円)であり、民生費は441億円(そのうち震災分は272億円)、衛生費は680億円(震災分は619億円)などとなっている。2012年度には当初予算規模が2,632億円であるのに対して、決算額では3,220億円にまで上方修正されていることがうかがえる。その内訳を見ると、総務費と民生費が大幅に上方修正されているのに対して、土木費や災害復旧費が下方修正となっていることに注目すべきである。復興交付金事業がハード面中心に計画されているのに対して、実際には執行面で処理しきれない状況となっている。つまり、復興交付金事業費の半分が積立金に計上されているのである。
一方、歳入面では、2011年度の市税収入は当初予算の171億円から決算では92億円程度にまで半減した。2012年度には123億円にまで税収が回復しているが、依然として低い状況にあった。2014年度には市税収入は162億円にまで回復している。地方交付税は、2010年度には214億円であったのが、2011年度には520億円、2012年度には550億円と2倍以上になっている。震災復興特別交付税は、341億円と普通交付税の1.5倍である。また、国庫支出金も2011年度決算額が770億円であったのに対して、2012年度には2,000億円近くにまで増額されている。さらに県支出金も2012年度には4,500億円にもなり、県支出金の影響も大きいことがうかがえる。
そこで、震災復興交付金事業の中で、最も金額的に見て大きい事業である防災集団移転事業(1,211億円)、復興公営住宅(1,001億円)の2つに焦点を当てて見ていくことにしよう。金額的にはこの2つの事業で2,200億円を超える規模になる。ここで問題となるのが、なぜこれほどまでに多額の財源が投入されているにもかかわらず、「人間の復興」といえる状況にならないのかといった点である。
まず、防災集団移転事業から見ておこう。防災集団移転事業の対象となるのは、「危険区域」に指定されている住民である。自治体が浸水区域の土地を住民から買い上げ、居住に適しない区域に建築制限をかけて、移転先の高台や内陸部の宅地造成や道路工事などを行うといった事業である。東日本大震災では、補助対象となる移転規模は原則10戸以上であったが5戸以上に緩和され、現在ではこの規制も緩和されている。住民は、移転先で住宅を自費で建てるか、復興公営住宅に入居するかのどちらかを選択することとされ、自力再建の場合には住宅再建支援金制度と利子補給(最大で708万円)が適用されることとなっている。2015年5月末現在、宮城県全体で195地区すべてにおいて工事が着工され、石巻市では56地区すべてで着工されているが、住宅などの建築工事に着工されているのは3割にすぎなかった。
防災集団移転事業で最大の問題は、住宅建設にかかる経費の個人負担である。二重ローンになるケースもあり、最初の希望区画数9,964区画が、2014年7月には7,309区画へと3割減となるなど、工事開始後にキャンセルが出るケースもあった。また、造成地が完成するまでに3年から4年もかかるケースもあり、長期にわたる仮設住宅生活を余儀なくされるケースも出ている。例えば、二子地区では2017年度に造成地が完成予定であり、その後に住宅を建築し始めることとなれば、完成するのは2018年以降になる。
次に、復興公営住宅の建設について見てみよう。自力再建が不可能な場合などは、復興公営住宅を希望する住民も多い。石巻市では、4,500戸の計画に対して、2015年5月末現在で3,308戸で着工しており、完成戸数は全体の2割に当たる929戸であった。当初は4,000戸の計画であったが、希望者が多いため、4,500戸に上方修正されたのである。事前登録世帯は4,500戸を超えたという。
復興公営住宅供給の内訳を見ると、市街地(主に旧石巻市)は3,850戸、半島部は650戸となっている。旧石巻市の大街道地区や蛇田地区などで上方修正されているのに対して、半島部の供給計画は下方修正されているのである。2016年11月現在、全体の67%に当たる約3,000戸が完成したが、市街地部が2,800戸(73%)であるのに対して、半島部は180戸(28%)にとどまっている。