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シリーズ自治体の災害政策

2017.02.10 政策研究

東日本大震災復興における自治体財政と復興格差

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静岡大学教授 川瀬憲子

はじめに

 2011年3月11日に発生した東日本大震災(以下「大震災」という)から今年で6年目を迎える。すでに5年間の「集中復興期間」が終了し、「復興・創生期間」に入っている。大震災からの復旧・復興をめぐっては多くの課題が残されているが、その1つが復興財政と構造的な復興格差の問題である。本稿では、復興格差の問題を次の3つの側面から見ていくこととしたい。
 第1に、防潮堤や幹線道路などの大規模なインフラ整備などが先行的に進められる一方、生業(なりわい)や住まいなど被災地域の再生や被災者の生活面での復興すなわち「人間の復興」(1)が遅々として進まないことから生ずる格差の問題がある。「人間の復興」とは震災によって失われた生存機会の復興を指すが、「集中復興期間」には、約26兆円もの政府復興予算がつぎ込まれてきたにもかかわらず、6年近くたった現在でもなお、多くの被災者が仮設住宅等での生活を余儀なくされており、社会的弱者の多くが復興過程で取り残されるといった現状が顕著となっている(2)
 第2に、復興交付金事業を含む復興関連事業に伴う問題についてである。大震災後、復興庁が創設され、5省40事業による復興交付金事業として多額の財政を投入して災害公営住宅、防災集団移転事業、区画整理事業などが進められているが(3)、進捗状況を見ると2016年11月現在で約2万1,000戸が完成しているものの、岩手県と宮城県では計画の約75%であるのに対して、福島県では計画の半分程度にとどまっている。特に、福島第一原子力発電所周辺の自治体では、原発避難者の帰還者向け災害公営住宅の計画すら公表されていない状況にある。
 第3に、復興過程における地域格差の問題が挙げられる。被災地の中には石巻市など「平成の大合併」期に広域的な合併を行った自治体も含まれており(4)、「選択と集中」やコンパクトシティ化政策の展開過程で中心部と周辺部との復興格差が際立ってきている。こうした問題は広域的な合併を行った自治体で顕著に表れており、その現状と課題を浮き彫りにする必要があろう(5)。そこで本稿では、宮城県下自治体財政、特に石巻市財政に着目しながら復興格差の現状と課題について見ていくことにしたい。

1 政府復興構想会議による復興計画と「創造的復興」

 政府の復興政策は、2011年4月に政府復興構想会議による「基本方針」として打ち出された項目の中に「単なる復興ではなく、創造的復興を期す」という文言が入っていることからもうかがえるように、「創造的復興」を全面的に押し出す形で進められてきた。「東日本大震災復興基本法」では、復興の基本理念や復興資金、特区制度、復興庁の設置などに関する基本事項が定められ、「東日本大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生を図る」ことを目的として、①被災地域の復旧・復興及び被災者の暮らしの再生のための施策、②被災地域と密接に関連する地域において、被災地域の復旧・復興のため緊急に実施すべき施策、③全国的に緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災、減災のための施策に対して、復興予算を計上することが決定された(6)。特に緊急防災・減災については、被災地以外にも復興予算の適用範囲を広げたものであり、流用問題として問題視された施策でもある(7)。さらに「東日本大震災復興特別区域法」(2011年12月施行)では、復興交付金事業計画、復興推進計画、復興整備計画が定められた。
 こうした政府の計画を受けた形で、被災3県の復興委員会が設けられたが、岩手県の委員がオール岩手で構成され、地元市町村の意向を尊重するといった立場であり、福島県でも地元研究者などが座長を務めるなど地元が中心となってボトムアップ型の復興政策を進める方針を打ち出していた。これに対して宮城県では、議長である三菱総合研究所理事長や野村総合研究所などのメンバーが名を連ねており、地元の研究者らの参加がなく、トップダウン型の「創造的復興」を掲げるといった特徴を持つ。その意味では、宮城県のケースは創造的復興に伴う復興格差の問題を象徴的に示す事例であるといってよい。
 ところで、大震災による死者・行方不明者は合わせて約1万8,000人(さらに震災関連死は約3,500人)、全壊家屋約12万2,000棟にも上る。宮城県だけでも死者・行方不明者約1万2,000人、全壊家屋約8万3,000棟、被害額は9兆2,277億円(2016年12月11日現在)とされる(8)。大震災から2年後(2013年3月)には、家屋等流出地域を除いてライフラインはほぼ復旧し、宮城県管理分の幹線道路の復旧率約99%などといったように、幹線道路、空港、主要港湾の復旧は早い段階で進められた。また、防潮堤や防災林予算は膨張を続けている。予算面では、気仙沼市小泉地区では2015年度予算にて226億円から336億円にまで1.5倍、仙台地区では88億円から213億円と2.4倍にまで跳ね上がった。2016年8月現在、382地区海岸のうち約7割に当たる279地区海岸で防潮堤の工事を着工しており、243キロメートルのうち約24%が完成している。このように、幹線道路などは比較的早い段階で復旧し、防潮堤などの計画が急ピッチで進められているといった現状がある。
 しかし、大震災から6年近くたった2016年12月現在、全国の避難者数は約13万人、応急仮設住宅などの入居者は11万2,000人に上る。岩沼市などのように5年で仮設住宅を終了させるところもあれば、石巻市、気仙沼市、南三陸町、女川町などのように一律6年に延長しているところもあるが、生活の目途が立たずに追い込まれている被災者も多い。阪神・淡路大震災では5年ですべての住民が災害公営住宅などに移住した事実と比較すると、かなり長期にわたって避難生活を余儀なくされる住民が多いことが分かる。以下、石巻市を事例にさらに詳しく見ていくことにしよう。

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