劇場型知事の検証を
地方自治体は一連の地方分権を通じて確かに権限を得たものの、人口の減少と集落の消滅、社会保障費の増大といった目の前の事象の後片付けに追われている。安倍政権による中央集権的、言い換えれば富国強兵の政権が出す、成功の裏付けも乏しい地方創生や中央省庁移転といった宿題をこなすことに忙殺されている。
問題なのは、権限を得たとしても、それに見合う予算が得られていないことだ。国からの補助金が得られなければ何もできない。今は権限で縛られるのではなく、予算で縛られている。首根っこを国に押さえられている状況は形を変えて厳然と続いているのである。
さらに地方自治体の仕事を一つのステップアップの場にする知事が増えてきた。東国原氏や橋下氏らのことだ。国政への進出などのため、地域政党や国の政党づくりに精を出し、自分たちの政策を成果以上に大きく見せようとするため、自治体職員のことを余計に悪く言ったりする。
昨年7月に当選した東京都の小池百合子知事にも同じ傾向が見える。築地市場への豊洲移転をいったん中止したり、東京五輪会場の見直しを急に提案したりと、都がこれまで続けてきたことを簡単に覆す。都官僚をスケープゴートにすることで小池氏の人気は高まるが、住民までが役人を軽く見るようになってしまえば、住民との信頼をつくることができなくなり、長期的に見れば都政にとっては大きなマイナスだ。
小池氏は政治塾「希望の塾」を立ち上げ、4,000人近くを集めた。夏の都議選には小池氏を支持する都議らが設立した政治団体「都民ファーストの会」の公認として、希望の塾から立候補させる予定だ。新党も視野に入れているといわれるが、1月9日段階では設立を明言していない。安倍政権と真っ向から対決することは避けながらも、都議会では公明党や民進党などと知事与党を形成することで、都議会自民党は排除する戦略だ。したたかな政治力は将来、暴れ馬として、首相候補に躍り出る可能性さえ漂わせる。
就任から100日間の蜜月期間も終わり、メディアの論調も厳しくなってきた。問題提起だけでなく、具体的な成果が求められるタイミングになってきた。メディアを味方につけながら、東京大改革の実績を積み重ねないと、移ろいやすいふわっとした都民にそっぽを向かれる恐れもある。
小池氏ら実務的な知事とは異なる、自己実現の道具として知事職を使っている劇場型の政治家が増えてきた。威勢のいいこれらの首長が、住民の本当の満足につながるのか検証する必要もありそうだ。
全国知事会は昨年末、地方創生や格差の是正に役立つ改革の在り方を探る研究会を設置し、今年7月の全国知事会議までに方向性を示す方針だ。沖縄県に集中する基地負担の軽減を目指す研究会もつくっている。
筆者も地方分権の研究会に参加しているが、地方分権は権限移譲という点では進んだものの、住民の幸福にはつながっておらず、国と自治体の官僚間の闘争に終始していると指摘している。
地方自治が目指すべき今後の方向性は、住民の参画の下で、本当に有効な施策を決定できる環境を整えることである。そのためには国から地方への権限移譲の論議だけでなく、自治体が自由に使える財源を増やすことが重要だ。地方交付税といった国の財源調整に依存することは、自ら調整能力がないことを吐露し、国に急所を握られることと同じである。
今後は地方間の独自の財源調整の仕組みをつくり上げることや、ホテル税や森林税、廃棄物排出税といった地方共通税を導入することも検討すべきだろう。
地方自治では国―都道府県―市町村というフルセットの行政による3層構造を見直し、都道府県と市町村の間については、市町村の業務を都道府県が代行したりする垂直補完や、自治体同士の協力といった水平補完を導入する。
住民が自主的に取り組んでいる自治組織を活用して行政への参画を促すなど、効率的で住民に役立つ多様な自治制度に移行すべきである。むろん、そのためには政務活動費の不適切な使用を問われるような議員をなくし、職員の質を向上させ、政策立案の能力を高めることが前提であることはいうまでもない。
自治体が住民の最大限の幸福のため協調して国に対峙(たいじ)していく。国の表層的な政権を維持することを最優先するような政策とは異なる、痛みを分かち合っても地域を維持する政策を進めるような地方側の気概が待たれている。