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特集 進化する議会改革

2017.01.13 議会改革

議会基本条例の制定効果と今後の議会改革の方向性

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7 結語

 本報告では10年間にわたる議会改革の“蓄積”の中で、議会基本条例の制定は、自治体議会の具体的な活動をどのように変えたのであろうか、とりわけ、地方政府の立法機関としての「政策出力」向上に結び付いたのか、という問題を2008年から2015年を対象とするパネルデータの分析から考察してきた。
 現時点のデータセットから導かれる結論は、マクロレベルで見れば、議会基本条例の制定は確実に議会活動を変えている―「市民との対話の場」を拡大させ、「議員間討議」が行われるようにし、議員個人の「議案賛否の公開」を、より当たり前のものにする―が、ただし、議会基本条例を制定したからといって議会としての「政策出力」が向上するわけではない、というものである。
 このことは、議会基本条例の制定が「無意味」であるということを示すものではない。議会基本条例を通じて、どのような議会(議会活動)が常態化しているかが、重要なのである。
 パス解析結果が示す内容は、「市民との対話の場」の経験の大きさは、それ自体が「政策出力」に作用するだけではなく、「議員間討議」と「賛否公開」を通じても作用しているというものであった。中長期的には「市民との対話の場」、「議員間討議」、「公開性(賛否公開)」の経験の蓄積は合成して「政策出力」に貢献するのである。これは今後の議会改革において―ある意味では、従来から唱道されてきたことでもあるが―「市民との対話の場」を充実化させていくことが改革の立脚点になるといえよう。
 一方、改革のシンボルともされてきた「議会基本条例」は、それ自体で議会の「政策出力」を高めるわけではなかった。現在のところ、「対話性」、「討議性」、「公開性」の改革の“成果”なのである。ここからの含意は、議会基本条例を制定する中で“市民参加”、“議会審議”、“公開性”の水準を向上させ、日常の議会活動において“常態化”させることが必要ということであり、そのためには、議会基本条例策定過程において、こうした要素を高めるような慎重な手順を踏むことが重要だということであろう。

【謝辞】
 「自治体議会改革フォーラム」による「全国調査」資料利用に当たり、様々に便宜を図ってくださった同フォーラム事務局(「市民と議員の条例づくり交流会議」)様に厚く御礼申し上げます。なお、本稿はJSPS科研費26285033の助成を受けたものです。


(1) こうした批判の代表例がヒジノ 2015によるものである。ここでは、「現行の議会基本条例などは多分に地方政治家の動機について性善説に立ち過ぎている」とし、「必要なことは、明確な選択ができるシステムであり、必要な情報へのアクセスの容易さであり、公約を破った場合、議会と個々の議員が責任をとるしくみである」として、議員を“落としやすくする”ための大選挙区制からの選挙制度改革、そして、有権者が“選びやすくする”ための政党組織による規律化を中心とした改革案が提案されている(ヒジノ 2015:152−153)。
(2) 自治体議会の行動分析には基本的な制度の違いを統制しなければならない。その代表が選挙区制度の違いであり、もう一つは各種の政策立案の前提となる財政制度の違いである。前者より小(中)選挙区制度を採用する政令指定都市を対象外とし、後者の点から、地方交付税制度の枠外となる(都区財政調整制度での財源配分)特別区を除外している。
(3) 「自治体議会改革フォーラム」(呼びかけ人代表:廣瀬克哉・法政大学法学部教授)ウェブサイト(http://gikai-kaikaku.net/index.html)(2016.11.18)。
(4) 筆者も調査運営スタッフとして「全国調査」に参加しているが、本論文での見解はあくまでも筆者個人によるものである。
(5) 「自治体議会改革フォーラム」ウェブサイト「議会改革白書シリーズ」(http://www.gikai-kaikaku.net/gikaikaikaku_hakusho.html)(2016.11.18)。
(6) 渡辺 2013参照。栗山町議会基本条例制定時に議長を務めた橋場利勝氏は議員退任後の講演の中で「それで条例の検討に入ろうかと思うときに、たまたま(議会事務)局長のほうで、北海道自治体学会の議会研究会の班が、札幌市をモデルにした議会基本条例の試案が出ることになったのです。それを見ると、栗山町の議会に合う、もう少し手直しをすればいいということで、それを手直ししました」と述べている(栗山町議会「議会基本条例制定10周年記念事業」2016年8月28日、於:栗山町カルチャープラザ「Eki」)。
(7) 「すべての議案に対する賛否公開」を議会改革のメルクマールとすることに対しては、議会実務上から見ての問題点が存在する。田口一博・新潟県立大学准教授のご指摘によれば、①議案件数の多くを占める国法改正に伴う技術的な条例改正も対象としていることに政治的な重要性がどれだけあるのか、②起立採決やいわゆる「異議なし採決」の場合、議員個々の行動を記録することが技術的にできないため、記録の正確性がどれだけあるのか、という2点に要約される(日本地方自治学会2015年研究大会・分科会Ⅲ「公募セッション(自由論題)」内での発言より。参照:田口 2015)。このような大きな課題があるが、改革の動向を端的に表すという観察の容易性を重視して本稿では採用している。
(8) 設問「20xx年1月1日~12月31日の間に、議員個人・会派主催ではなく、議会や委員会主催の意見交換会、懇談会、議会報告会等、議会として市民と直接対話する機会は、何回ありましたか?(記入回答:なかった場合には『0(ゼロ)』回とご記入いただき、次の設問へお進みください)」に対して、回答された実施回数を計測している。
(9) 設問「20xx年1月1日~12月31日の間に、本会議または委員会で、首長提出議案の審査を行う際に、議員間で議論を尽くして合意形成に努めるための『議員間の討議(自由討議)』を行いましたか?(複数回答:該当するものをすべてお選びください)」に対して、「『質疑』の時間帯に、議事をとめて(暫時休憩等)行った」、「『質疑』の時間帯に、議事をとめずに行った」、「『質疑』の時間とは区別して、議長・委員長の判断または議員の動議等により、議事をとめて、『議員間の討議(自由討議)』の場を設定して行った」、「『質疑』の時間とは区別して、議長・委員長の判断または議員の動議等により、議事をとめずに、『議員間の討議(自由討議)』の場を設定して行った」、「『討論』の時間帯に、議員同士で賛否をめぐって相互に質問、反論する事実上の『議員間の討議(自由討議)』を行った」のいずれかの選択肢が回答された場合に「実施あり」とした。
(10) 設問「起立または挙手などによる表決を行った議案に対する賛否(各議員または会派の対応、採決態度)を議会報や議会のホームページで公開していますか?(単数回答:1つお選びください)」に対して、選択肢「すべての議案について、各議員個別の賛否(対応、採決態度)を公開している」が選ばれた場合に「実施あり」とした。
(11) 2015年1年間での「市民との対話の場」の実施回数にはt検定を実施し、「議員間討議」、「首長等からの反問(逆質問)」、「全議案に対する議員別賛否公開」の実施の有無に対してはχ二乗検定を実施した。
(12) t(776.3)=16.05,p<.001
(13) 対象抽出方法は自治体コードでの名寄せである。なお、調査対象期間内に政令市に移行した岡山県岡山市(2009年4月1日移行)、神奈川県相模原市(2010年4月1日移行)、熊本県熊本市(2012年4月1日移行)は調査期間全体を通じて政令市であると見なして分析から除外している。
(14) 委員会提案である場合を含む。
(15) t(66)=9.19,p<.001
(16) t(66)=1.90,p=0.062
(17) 「全国調査」設問項目の年次間整合性の問題から、本項目のみ「2010調査」以降を対象に計測している。

〔引用参考文献〕
◇田口一博(2015)「議会活動の実態を知るためには」日本地方自治学会2015年研究大会、2015年11月8日、明治大学
◇長野基(2016)「条文分析 2015年制定の議会基本条例に見る議会改革の動向」廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2016)『議会改革白書2016年版』生活社、PP.95-124
◇長野基(2015)「条文分析 2014年制定の議会基本条例に見る議会改革の動向」廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2015)『議会改革白書2015年版』生活社、PP.94-130
◇長野基(2014a)「議会基本条例の変化・展開を考える―『改正内容』の分析から」廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2014)『議会改革白書2014年版』生活社、PP.85-97
◇長野基(2014b)「条文分析 2013年制定の議会基本条例に見る議会改革の動向」廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2014)『議会改革白書2014年版』生活社、PP.98-105
◇長野基(2013)「条文分析 2012年制定の議会基本条例に見る議会改革の動向」廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2013)『議会改革白書2013年版』生活社、PP.74-93
◇ヒジノ ケン・ビクター・レオナード(2015)『日本のローカルデモクラシー』芦書房
◇廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2009)『議会改革白書2009年版』生活社
◇廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2010)『議会改革白書2010年版』生活社
◇廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2011)『議会改革白書2011年版』生活社
◇廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2012)『議会改革白書2012年版』生活社
◇廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2013)『議会改革白書2013年版』生活社
◇廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2014)『議会改革白書2014年版』生活社
◇廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2015)『議会改革白書2015年版』生活社
◇廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2016)『議会改革白書2016年版』生活社
◇北海道自治体学会議会研究会(2004)『北海道自治体学会議会研究会報告書(「議会基本条例要綱試案(修正版 平成16年3月1日)」)』(北海道自治体学会議会研究会)
◇渡辺三省(2013)「議会基本条例の源流に遡って―議会基本条例試案(2004年)を振り返る」廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編(2013)『議会改革白書2013年版』生活社、PP.60-65

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