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2017.01.13 議会改革

議会基本条例の制定効果と今後の議会改革の方向性

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首都大学東京 長野基

1 研究の目的

 2016年は2006年5月の北海道栗山町議会基本条例から始まる「議会基本条例の10年」の節目の年であった。議会基本条例は2015年末時点で724議会(全1,788自治体に占める割合:40.5%)で制定されるまでに拡大を見るが(長野 2016)、一方、議会基本条例に対しては、政治的な意味での「制裁」を加える機能がないため、具体的に議員行動を変える能力はない、という批判(1)も行われている。
 では、10年間の“改革の蓄積”の中で、議会基本条例の制定は、自治体議会の具体的な活動をどのように変えたのであろうか。とりわけ、地方政府の立法機関としての「政策出力」向上に結び付いたのであろうか。本報告では、市町村議会を対象(2)に活動実態アンケートのデータより議会基本条例の制定効果を分析するとともに、今後の自治体議会改革の方向性の考察を試みるものである。
 分析に用いるデータは「自治体議会改革フォーラム」(3)が2007年から実施している「全国自治体議会の運営に関する実態調査」(全自治体議会対象の郵送自記式調査。以下「全国調査」という)の回答結果である(4)。各年次調査の集計結果と各議会の回答一覧は廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編『議会改革白書(各年版)』(生活社)(5)にて公開されている。分析にあたっては設問項目の統一性を踏まえ、2008年の活動を対象とする調査(2009調査)以降の2期8年分のデータ(表1)を用いて探究を進める。
 以下、第2章では、議会基本条例の条文分析から制定内容の変化を概観し、第3章では、アンケート調査より、具体の議会活動の変化を概観する。続く、第4章と第5章では、統計解析から議会基本条例制定のインパクトを分析する。具体的には、第4章では、議会基本条例を制定している議会と制定していない議会で、どのような違いがあるのかを共時的に分析し、第5章では、議会基本条例の制定前後で、どのような違いが生じているのかを通時的に分析する。そして、第6章では、議会改革の取組と議会としての政策立法の関係の構造解析を行い、以上を踏まえ、終章にて、今後の議会改革の方向性を展望する。

表1 自治体議会改革フォーラム「全国自治体議会の運営に関する実態調査」(2009年~2016年)表1 自治体議会改革フォーラム「全国自治体議会の運営に関する実態調査」(2009年~2016年)

2 議会基本条例の制定内容の変化

 議会基本条例制定の第1号である栗山町議会基本条例の基本設計となったのが、北海道自治体学会議会研究会報告書における「議会基本条例試案」(2004年)(6)であった。これに宮城県本吉町(現気仙沼市)で実践されていた「議会報告会」の取組が“新結合”(シュンペーター)され、“栗山町モデル”が成立する。以降、栗山町を“ベースフォーマット”に、各地で挑戦的な取組が議会基本条例に盛り込まれていった。その中の一つが、福島県会津若松市議会基本条例(2008年)から始まる“市民と議会をつなぐ役割”を担うと同時に、議会としての“政策審議の司令塔”となる「広報広聴委員会」の制度化であった(長野 2014a)。
 2015年に制定された議会基本条例の中では、いわゆる“号泣県議”の地元となった兵庫県西宮市議会が基本理念の一つに「質の高い議会活動と質の高い広報活動を行い、そのことによって高まる関心や信頼がさらに議会や議員の質を高めるという相乗効果を生み、その結果、投票基準の変化や投票率の向上につながることをいう」(西宮市議会基本条例2条3号)を掲げ、有権者の投票行動の変化を議会改革の最終成果とすることを明記した。これは有権者によって選ばれた“現在の議員”の正統性問題にも言及したものであり、大変重い提起といえる(長野 2016)。
 次に、議会基本条例制定をめぐる動向を知る上では、以上で見たような先鋭的な取組に注目するのと並行して、制定内容の全体的傾向を見ることも重要であろう。そこで、“改革の10年”の後半である2012年から2015年の4年間に制定された議会基本条例(都道府県、政令市、特別区、一般市町村対象)の内容について、改革の基本的な取組とされる項目(市民参加、議会討議、情報公開)に注目して整理したものが表2である。
 第1に市民参加の項目では、“意見交換の場としての議会報告会を設ける”とする場合もあり、厳密に分類できるわけではないが、「住民・NPO等との意見交換の場」を設ける規定を持つ条例が毎年約8割強、「議会報告会」実施を定めるものが約7割前後、という割合でおおよそ安定的に推移してきている。
 第2に議会討議の項目では、「議員間討議」を規定する条項を持つ条例が各年ともに95%以上となっている。一方、首長等に何らかの形での反問(逆質問)権を認める条項を持つ条例の割合は年次間での変化が大きく、2012年制定条例での92.5%から2015年制定条例での84.3%と“漸減”してきている。
 最後に、議会の情報公開の項目として、議案に対する議員個人の賛否公開を定める規定を持つ割合を見ると(7)、2012年(49.5%)を最高値に、そして、2013年(39.9%)を最低値として、この間の値を上下動している。反問(逆質問)権のような“漸減”傾向ではないが、水準としては上記の他の項目よりも“低位安定”といえる。

表2 議会基本条例の規定項目表2 議会基本条例の規定項目

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この記事の著者

長野 基

首都大学東京都市環境学部准教授
1975年東京都生まれ。早稲田大学都市・地域研究所客員研究助手、早稲田大学政治経済学部助手、跡見学園女子大学マネジメント学部専任講師を経て、2011年10月より現職。「市区町村議会の改革とその成果に関する計量的分析」(『自治体学』25(1)、2012年3月)にて自治体学会「自治体学研究奨励賞」を受賞。近年の主な著作に「討議民主主義に基づく市民参加型事業アセスメントの取り組みの研究ー東京都新宿区『第二次実行計画のための区民討議会』を事例として」(日本行政学会『年報行政研究』(49)、2014年5月)などがある。現在、埼玉県さいたま市「しあわせ倍増・行革推進プラン市民評価委員会」委員長職務代理、埼玉県戸田市「外部評価委員会」副委員長、東京都中野区「外部評価委員会」副委員長なども務める。連絡先:nagano@tmu.ac.jp

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