イ ごみの撤去の強制的手法の合理性
京都市では、現に、指導→勧告→命令→行政代執行の手続がとられ、長年解決できなかった問題が解決し、有効な手法であることが実証された。こうした強制的な手法を用意しておかなければ、京都市の行政代執行の事例のような深刻な問題に対処できないことも実証された。京都市条例は、行政代執行を行う場合でも廃棄物とその他の物を分別するとしていることから、撤去した物はいったん市の別の場所で保管し、少しずつ時間をかけて原因者本人と一緒に分別をしたうえで、しかるべき処理を行ったということであり、本人の意思に配慮している。コスト面でも、市職員が直接撤去作業を行うことを原則としており、ごみ袋の費用程度のものを本人負担とすることが執行の妨げにならないことも確認された。なお、代執行費用として市職員の人件費を請求しないことについては異論もあると思われるが、そうした作業を通常の業務の一環として職員が職務として行うことが事務分掌上決定されているのであるから、その人件費部分の負担を公費で賄うことは、オーソライズされたものとして問題ないと考えられる。
大阪市は、強制的手法については、最終的な手段であり、あくまで原因者本人との対話と説得が基本であるとして消極的ではあるが、行政代執行を行う場合には、京都市と同様に撤去した物をいったん別の場所で保管して、本人に引取りの機会を保障するという方針を立てている。ただし、代執行費用については、撤去業務を業者委託した場合には高くつくことになり本人に負担させることが困難になることが予測され、このことが代執行の妨げとなるおそれがある。
ウ 条例上「本人支援」の規定を置く合理性
本人の同意を取り付けてごみの片付けを行う「本人支援」は、条例の根拠がなくても行うことができるが、京都市条例はあえて「本人支援」の規定を置いている。この本人支援は、行政当局が自治組織や関係機関と協力して行うものであり、条例の目的である「市民が相互に支え合う地域社会の構築」を実現するための手法としても意義がある。
また、この本人支援は「地域あんしん支援員」制度と連動しており、京都市では、条例の施行に併せて、この支援員制度を立ち上げた。現に本人支援の成果として上記アの(ⅰ)で前述した12件のうちには、この支援員が中心的役割を担ったものがいくつもあった。条例上、他の保健福祉施策につなげていくとする本人支援の規定も、この支援員の働きに期待するところが大きい。本人支援の規定は、こうした地域福祉活動にインセンティブを与えるものである。
エ 経済的支援の規定の合理性
一方、大阪市条例は、経済的支援の規定をもって本人支援に代替させようとしている。しかし、要綱等で定める支援の要件が厳格であるうえ、業者委託や地域関係者への謝礼金の支払いといった人件費の支出を伴う大仰な仕組みとなっている。京都市の本人支援の場合は、原則として人件費の負担を伴わないこととしているのに比べ、使い勝手が悪くなっている。しかも、事前に審議会からの意見聴取の手続を踏まなければならず、さらにハードルの高いものとなっている。これまで利用されていないこともうなずける。結局、各区役所は、経済的支援の規定を用いることはせず、条例外で従来どおりのごみの片付けの支援を行っているものと推測される。
オ 審議会等の意見聴取手続の合理性
大阪市条例では、経済的支援にまで審議会の意見聴取をしなければならないことが、本人支援のネックになっているのではないかということは上記エでみたとおりである。京都市条例では、ごみの撤去の命令の前にだけ意見聴取が必要とされているが、議会の付帯決議で、即時執行としての緊急安全措置や軽微な措置の前にも意見聴取手続を履行しなければならないとされたことは、即時執行の意義を減殺させてしまったといえる。特に軽微な措置は、本人の健康被害を防ぐためにも臨機に行う必要があるのに、できなくなってしまっている。実践の中で専門的知識を培っている行政職員の判断よりも、常に学識経験者の判断が優先するという発想は改められるべきではないかと考える。
カ 罰則と氏名公表の合理性
ごみ屋敷の原因者本人には、近隣への害意を持っているような場合もあり得る。近隣住民の生活環境に重大な影響を与えているにもかかわらず、行政職員や関係機関の説得に応じない場合もある。コミュニティソーシャルワーカーの取組みに期待がかかるが、そうはいっても解決に何年もかかるといった状況は放置できない。そうした場合に、立入調査を拒んだり、ごみの撤去命令に従わなかったりした者を、罰則や氏名公表の対象とし、そうしないように促すことには合理性があるといえる。