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立法事実から見た条例づくり

2016.10.11 医療・福祉

いわゆる「ごみ屋敷」対策のための条例 大阪市の場合と京都市の場合(下)─ごみの撤去か人への福祉的支援か─

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滋賀大学客員研究員 提中富和

5 条例の立法事実の検討

 大阪市条例と京都市条例とは、異なるところが多いし、掲げる目的にも広狭の違いがある。条例の目的は、条例の必要性を語るものである。その必要性は立法事実によって裏づけられる。

(1)条例の必要性
ア ごみ屋敷の実態把握
 大阪市では、プロジェクトチームが2013年3月に、24区すべての区役所に対して、その把握しているごみ屋敷の実態についてアンケート調査を行っている。把握件数は、15区で77件であった。同調査によれば、その把握するに至ったのは、地域福祉の関係機関からの報告が最も多く、近隣住民からの相談や苦情もある。原因者については、70歳代が最も多く、次に60歳代と続く。独り暮らしや近隣との関わりがない人がかなり多いし、認知症や障害があったりすることも少なからずある。原因者本人は「迷惑をかけているとは思っていない」という場合が多い。ごみの堆積状況は、建築物の中にとどまっているのが大半であり、敷地外まで堆積しているのはそれほど多くない。大阪市の場合は、集合住宅の割合が多いことと関係しているのかもしれない。建築物の中にとどまっていても周辺まで問題になっているということは、建築物の中はかなりひどい状態になっていると推測されている。ごみ屋敷に至った原因は、ごみを自分で捨てられないことが多いが、自分で集めてくる場合も少なからずある。原因者自身への影響は、ごみにより生活スペースが圧迫されているのが最も多く、衛生状態の悪化により健康被害があるというのもかなり多い。周辺住民への影響は、通常生活に支障があるとするのが最も多く、その支障の多くは、悪臭被害と害虫被害であり、周辺住民は、窓を閉め切ったり、消臭・虫除けスプレーで対策したりしているとのことである。また火災発生の不安などの影響もある。
 京都市では、2014年11月の条例施行以降半年間で108件のごみ屋敷を把握している。原因者については、60歳以上が大半で、独り暮らしがかなりの割合を占め、認知症や障害があったりするケースがあるとしている。ごみの堆積が敷地外にまではみ出しているものもかなりあるとしている。
イ 解決の目途が立たない
 (i) セルフ・ネグレクト状態がある
 大阪市の調査では、ごみ屋敷の6割が解決の目途が立たないと回答されている。その理由として、「本人が現状に無関心である」、「本人がごみを有価物と主張している」、「本人が話合いに応じない」といったセルフ・ネグレクト状態を推測させるものが多くの区役所から挙がっている。京都市でも同様であることが推測され、両市とも、ごみを撤去するだけでなく、原因者本人に対する福祉的支援の必要なことが裏づけられる。そういう意味では、大阪市条例でも、本人の課題解決のための福祉的支援を目的に掲げて、その対策を条例で規定することが必要ではなかったかと思われる。条例の所管局を保健福祉局とすることに決定していた京都市との差異がここに現れているようである。
 (ⅱ) 法的根拠がない
 大阪市の調査では、解決の目途が立たない理由として、「調査をするための権限がない」、「指導や勧告をする法的根拠がない」、「公権力を行使する権限がない」といったことも多くの区役所から挙がっている。確かに、既存の法律には、廃棄物の処理及び清掃に関する法律や悪臭防止法があるが、これらが規制対象とするのは事業者であって、生活に伴うものは対象外とされているし、道路法や道路交通法は、道路にまでごみがはみ出ている場合は適用可能であるが、敷地内にとどまっている場合には適用できない。既存の法律ではごみ屋敷問題に対処できないのである。
 京都市のプロジェクトチームや市議会では、こうした法的根拠のないことに加え、福祉関係法令もその適用は本人からの申請主義が原則になっており、ごみ屋敷問題の解決のために積極的な働き掛けを行うことのできる法的根拠がないことも、条例が必要な理由とされていた。
 (ⅲ) 原因者本人の経済的理由も
 大阪市の調査では、解決の目途が立たない理由として、「本人がごみの処理費用を賄えない」ということも、多くの区役所から挙がっていた。
ウ 地域住民の地域力を生かす必要性も
 京都市には、伝統的な行事を通して、地域住民が相互に支え合う連帯意識が根強く残っており、これまでも地域の住民や関係機関の熱意によって、ごみ屋敷問題の解決に取り組んできた。こうした「京都ならではの地域力」を生かした取組みを法的根拠のある仕組みとして維持していくことは、「無縁社会」化を食い止め、原因者本人を社会的孤立状態にさせないために必要なことである。京都市が大阪市に次いで早い時期に条例制定に至ったのは、「京都ならではの地域力」の自負が後押ししたからではないかと思われる。自治組織の責務の規定は、議会では異論もあったが、地域力を維持発展させる動機づけとしての意義があるし、現に条例施行後、自治組織が協力して問題解決に至った事例もある。

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