(3)事業報告書等の備置期間の延長等(28条1項及び30条)
① 趣旨
28条1項の改正はマネーロンダリング(以下「マネロン」という)・テロ資金対策の国際基準であるFATF(6)勧告に対応して、NPO法人事務所における事業報告書等の備置期間を延長するものであり、30条の改正はNPO法人事務所における備置期間の延長に併せて、事業報告書等の所轄庁における公開期間を現行の3年間から5年間に延長するものです。
② NPO法人事務所における備置期間の延長(28条1項)
2012年、FATFは、マネロン・テロ資金対策に関する第4次勧告(7)を採択しました。同勧告においては、NPO法人に対して「国内・国際取引に関する記録の最低5年間の保存」の義務付けが求められているところ、現行の28条1項はNPO法人に対し事業報告書等の「翌々事業年度の末日までの間」の備置きを義務付けているのみで、FATF勧告に対応する内容にはなっていませんでした。
そこで、FATF勧告に対応し、NPO法人の運営の透明性を一層確保する観点から、NPO法人が事業報告書等を事務所に備え置く期間を、「作成の日から起算して5年が経過した日を含む事業年度の末日までの間」に延長することとしたものです。
③ 所轄庁における公開期間の延長(30条)
現行の30条では、所轄庁に対し、NPO法人から過去3年間に提出を受けた事業報告書等の閲覧・謄写に応じる旨を義務付けていますが、これはNPO法人事務所における事業報告書等の実質3年の備置期間(改正前の28条1項)と平仄(ひょうそく)を合わせたものと考えられます。
そこで、今般の改正に当たっても、NPO法人事務所における事業報告書等の備置期間の延長に併せて、所轄庁における公開期間を過去3年間から過去5年間へと延長することとしています。
④ 施行日及び経過措置(附則1条柱書及び3条)
28条1項及び30条の改正規定の施行日は平成29年4月1日を予定していますが、改正後の28条1項及び30条の規定は同日以後に開始するNPO法人の事業年度に係る事業報告書等から適用されることとなります。
(4)その他
このほか、NPO法人の更なる信頼性の向上を図るため、所轄庁及びNPO法人に対し、内閣府ポータルサイトを利用した情報の積極的な公表に関する努力義務が規定され、公布の日(平成28年6月7日)から施行されています(72条2項及び附則1条1号)。
2 認定制度・仮認定制度に関する事項
(1)海外への送金又は金銭の持出しに関する書類の事前提出義務に係る規定の見直し(旧54条4項等)
① 趣旨
現行法は、認定特定非営利活動法人(以下「認定NPO法人」という)等が行う海外送金等に関する書類について、
(ⅰ)200万円以下の場合は、毎事業年度1回の所轄庁への事後提出
(ⅱ)200万円超の場合は、そのつど事前に所轄庁への提出
との規制を課しています。
今般の改正は、認定NPO法人等が国際的な活動を活発に行う中、(ⅱ)の事前提出に伴う事務作業が負担となっていたこと、後述のように海外送金等については既存の規制により対応可能であることから、この事前提出制を廃止し、送金等額の多寡を問わず、(ⅰ)の事後提出に一本化(8)するものです。
② 事後提出一本化後の海外送金等規制
現行の海外送金等の規制は、不適正な経理の防止やマネロン対策の観点から、一定額を超える場合に事前の提出を義務付けるものですが、これらの観点からは、事前提出制によらずとも、次のとおり既存の規制により認定NPO法人等の適正な運営は担保できるものと考えられます。
まず、平成19年3月に「犯罪による収益の移転防止に関する法律」が制定され、不正な送金等の疑わしい取引については、金融機関に対して金融庁への届出義務を課す等のマネロン防止措置が講じられています。
さらに、NPO法上も、引き続き、認定NPO法人等が海外送金等を行う場合には、金額及び使途等に係る書類の閲覧に関する規定が存在するほか、毎事業年度に1回事後の所轄庁への書類提出義務が課せられており、これに反した場合や、海外送金等に係る不正行為が認められた場合には、認定取消事由に該当することとなります。
③ 施行日及び経過措置(附則1条柱書及び8条)
旧54条4項を削除する改正規定は、平成29年4月1日から施行される予定ですが、同日の属する認定NPO法人等の事業年度以前における海外送金等については、なお従前の例によることとされています。