8 ラポート・トークの心得
このようなラポート・トークは、首長や行政と住民が共感し合い、共に難局に向かい合う連帯感を醸成するコミュニケーションを成立させる情報発信であり、そこにおいて重要なことは単に文言の問題には収まらない。人と人とのコミュニケーションである。言葉の背後にある首長の心情は、文言の表現以上にそのまま住民に伝わると心得た方がよい。
住民の苦しみや悲しみに寄り添い、首長としてその軽減に粉骨砕身当たる覚悟を心からもっている首長の心情は、何にも増して重要であり、その心情は飾られる言葉ではなく、自分の言葉で、自分の声で住民に届けることが重要であろう。
このようなラポート・トークの重要性の指摘は、先に述べた水害サミットにおける提言にも多く見られる。これらの提言は単に災害時対応のハウツーを示しているのではなく、これらの行動に貫いて根底にある首長のもつべき心構えが示されており、そのような心構えの中から自然に生じる対応の具体が例示されていると解釈できる。
アメリカのオバマ大統領はラポート・トークを得意とする。先の広島訪問においても、原爆を落とした国と人類初の被爆国という関係に注目が集まったが、オバマ大統領は全ての地球市民の問題にリフレームして核問題を論じた。そして、その演説は明らかなラポート・トークとして、概して好評であり多くの共感を呼んだ。
また、オバマ大統領の演説はその主語において、I(私)ではなくWe(私たち)が多用される。間もなく任期を終えるオバマ大統領ではあるが、2009年の就任演説において、Iを主語に使ったのは僅かに3回であり、それに対してWeは62回に及んだ。様々な問題に私たちはどのように向かい合うべきかと論じるときの主語Weは、包括的な私たち(Inclusive We)であり、その問題に私たちが向かい合っているという当事者感を共有する姿勢が貫かれるからこそ“We”なのである。
9 おわりに
災害は地域の危機である。行政も住民も一体となって向かい合える地域をつくることは、単に防災の問題にとどまらず、地域皆で地域を思うことにおいて多様な面で行政運営の改善につながると考える。防災は地域皆にとっての共通の敵に向かい合うことであり、そこにおいて住民と行政の連帯感を生みやすく、そこに不可欠な住民の主体性も理解を得やすい。
地域にとって防災の推進は、コミュニティの再生や互いに思い合う地域の再生にも効果的である。そして、大きな自然の振る舞いに向かい合って何もなかったことを介して、日々の何げない郷土の暮らしに感謝する郷土愛を育むことにもつながるのではないだろうか。