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シリーズ自治体の災害政策

2016.08.25 政策研究

災害時における市町村長の初動対応について~コミュニケーション・デザインから見た災害に向かい合う市町村長に求められる姿勢~

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6 行政と住民の関係構造のリフレーム

 自然は時に人知を超えた振る舞いをする。まさに災害はそのときに生じる。災害は行政も住民も関係なく地域皆にとっての共通の敵であり、それに地域が一丸となって向かい合うことが必要である。災害対応において最も重要なことは、そのような一体感をもって事態に向かい合える機運をつくることであり、行政は守る側で、住民は守られる側という関係構造にその機運は生じ得ない。
 心理カウンセリングの理論にリフレーミング(Reframing)という考え方がある。問題の基本的な枠組み(Frame)を変えることで、前向きな姿勢を導き出す方法である。災害対策基本法制定以降、長年にわたって行政と住民の関係は、災害に対峙(たいじ)して「守る者と守られる者」に分けられてきた。しかし、もとより災害には被災者が生じるため、この関係は、守り切れなかった者とその不備を指摘する者という「責められる者と責める者」の関係に変わり、基本的に対立構造を生み出す素地をもつ。
 責められる側の行政は、災害発生時にあって最大限効果的な対応に思案を巡らせる以前に、失策なきよう対応することが基本となり、対応の論拠を時にマニュアルに求めることで被害が生じても失策がなかった論拠を準備し、情報発信は弁明に傾倒する。被災して失意を抱く住民は、その行政の姿勢に失望や怒りを助長させ、批判や追及を加速させる。そして多くの場合、マスコミもそれに同調してこの状況を補強していく。
 このようにして災害時の行政と住民の関係は、全くもって不毛な関係に陥っていく基本構造にあり、そこに生じるコミュニケーション・エラーの数々が、災害対応の混乱を生じさせている。
 このような災害に関する従来の行政と住民の関係を変えていくこと、すなわちリフレームが極めて重要な課題となっている。災害に対峙するのは行政で、その庇護の下に住民がいるという従来の関係から、災害に対峙するのは地域社会であり、その構成者である行政と住民は連帯して被害軽減に尽くすという共闘関係へのリフレームが必要である。

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 このような関係改善の必要性については、行政対応の限界が認知されつつある中で、自助、共助、公助の概念を介して、間接的には社会的に広まりつつある。しかし、現場の災害対応を見る限り、長年にわたって培われてきた行政や首長と住民の関係に、大きな変化は見られない。

7 首長による共感のコミュニケーション・デザイン

 このようなリフレームの下で、行政と住民が一体感をもって地域の危機である災害に立ち向かう機運を醸成する場合、具体的には行政や首長はどのような振る舞いをすればよいのだろうか。これは行政や首長と住民のコミュニケーションの問題であり、その具体的な手立てとしては、まずは行政や首長の行動であり情報発信に求められる。その中でも特に首長の行動や情報発信は、地域機運の醸成に支配的な要因となっており、被災者の心情のありようを丁寧に読み解く下で、適時適切な対応が必要となる。
 このときにおいて首長は、積極的に住民の前に自ら出て、住民の悲しみや苦しみを深く理解していること、行政は住民と一体となって難局を乗り切る覚悟で最善を尽くしていること、国民皆が当地を心配し支援の意向をもっていることなど、連携と共感を強く意識した情報発信を続けることが重要である。
 事態の進展状況によって画一的な発言内容があるわけではないが、その根底に意識すべきこととして、ラポール・トーク(Rapport-talk)という言語学の概念は参考となろう。日本ではラポート・トークともいうが、相手の立場を理解し、それに寄り添っている親密な雰囲気や共感関係をつくり出そうとして、相手の情緒に働きかける話し方である。従来の行政や首長は、このような住民の心情に訴える情報発信をすることは少なかった。しかし、不安や動揺の中にある住民の心を落ち着かせ、首長が覚悟をもって精一杯寄り添ってくれていることを感じさせる情報発信は、地域の前向きな一体感を醸成するに際して極めて重要なポイントである。
 これに対して、従来の行政からの情報発信の中心はレポート・トーク(Report-talk)、すなわち、事実や情報を客観的に正確に伝えようとする話し方であり、行政は責任義務の遂行を滞りなく行っているという報告を行うことが中心となってきた。確かに事実情報や客観情報を伝えることも重要ではあるものの、それに終始することは、現状の行政と住民の関係構造の下では連帯感をもって前を向く情報にはなり得ない。

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