(2)「知り気づき」を「行動」へ移す原動力
「知り気づき」を新たな「行動」へ移すための重要な原動力は、地域の諸課題が適正に解決されているのか否かを費用対効果と併せて検証することである。例えば、リーマンショックの前後で、観光振興を推進するまちの市民1人当たりの所得、人口や若者流出、教育環境が、どの程度変動したのかなどの調査結果に目を通し、分析することは重要である。そのために必要となるのが、「地域創生のものさし(指標)」である。
前述した点を筆者の経験から根拠付けたい。筆者は、全国の各地域や海外諸国を回り、主に農林水産業や製造業、サービス業等の多くの現場の方に接している。その際に行っていることは、まず、まちの主産業を十分に調査・分析することである。その上で、主産業の強化を図り、関連産業の起業・創業の意欲を高め、地域間の産業連携を模索・推進している。それは、特にこれから伸ばそうとする地場産業の地域人財の養成と定着を図るためである。
要するに、「部分・個別最適」な状態を、「全体最適」、「価値共創」、「住民満足」、「循環型社会の実現」、「費用対効果」重視へ転換するという思考を前提に、①地域所得・売上げの向上、②地域人財の養成と定着のシステム化、③地域で汗する人を評価する仕組みづくり、④女性、若者、年配者の活躍する場づくりと支援体制、⑤まちの将来を見据えた新たな産業・文化おこしを構想・実現している。このように、私たち自身が、今、地域創生モデルとなっているまちの現状・課題を、自分や家族、知人の暮らすまちに照らし合わせ、確認、検証作業をすることが重要である。
(3)事業構想のための人財養成と定着の重要性
「知り気づき」を「行動」に移すことは、課題解決のためではなく、時代を先取りするためにも求められる。その点を、観光産業の動向から示したい。筆者が住む北海道小樽市において年間観光客の動向が明らかに変化していることは、観光スポットの小樽運河、堺町通り商店街や歴史的建造物群のある地域などを直に散策しているとよく分かる。小樽市の年間観光客の入込数は約795万人(平成27年)である。年間観光客数は、リーマンショック時の減少傾向を脱し、現在は落ち着いている。現在の観光客の傾向は、道内観光客及び国内観光客数の減少を中国人など海外観光客数が増加しカバーしていると考えられる。
今、早急に行うべきことは、全国各地、官民問わず産業振興に関する事業構想ができる専門的な人財の養成と定着である。かつて、小樽市は1986年に小樽運河が現在の姿に生まれ変わり、急速に観光客が増加したことがある。だが、主な施設の整備も、おもてなしの心の研修や受入れ準備も、観光基本計画もなく、まちの事業構想をすることも、リーダー・プロデューサー人財も後手となり、チャンスを地元がモノにでき得なかった苦い経験をしている。その経験も踏まえるならば、産業振興は、現状の課題解決能力のみならず、世界の情勢も踏まえた先取り能力が重要といえるのである。
3 時代を先取りする自治体のカギとは?
今、地域間では「先取り自治体」と「課題解決自治体」との差がはっきり見えてきている。そして、「ないものねだり」ではなく「あるものさがし」、住むまちの産業、歴史・文化を掘り起こし、独自のストーリーをつくり出し、個性のある「住みたくなる、お客様が来たくなる、笑顔、感動と感謝のまちづくり・ひとづくり」が求められている。
全国の各地域は、課題解決のみに追われる自治体から地域のあり様を先取りする自治体へと変革し、「できない」理由探しではなく「できる!」をいかに構想・実現するかが問われている。地方創生戦略と経済対策と向き合い、自らのまちの地域資源を「知り気づき」、利活用する行動に移し、知識から「知恵」へ進化させよう。また、まちの主な産業(基幹産業)の活性化を図り、起業・創業の機運を高め、農商工等の連携、6次産業化など、地元産業の関連付けをして進化させよう。そのためにも、この機会に、まちで30~40年間程を常勤者として勤めてきた青年会議所、商工会議所・商工会、観光協会、物産協会、農協・漁協、地域金融機関の職員や社員、行政職員、小中高校の教員などが、情熱と一体感を持ち、経験ノウハウを持ち寄り、まちの各種情報を共有し、広聴、実学・現場重視の視点で、地域創生策を構想・実現することが重要だと思われる。
その中でも特に、筆者は地域金融機関や小中高校の教員の参画が、これからの地域創生のカギだと考えている。構想を継続・進化させるため、地域の一部のひとの関わりから、より多くの広がりにするため、情報収集から、①情報共有の場づくり、②役割分担(分業)と出番創出、③事業構想力、④事業継承力、⑤事業構築力が求められる。特に今、地域では、部分・個別最適ではなく「全体最適」、「価値共創」などを推進する地域創生リーダー・プロデューサーが求められている。
次に、筆者がここまで提示した論点について、筆者の経験をもとに説明したい。