7 大改革への決意
そこで、今回の大改革を仕掛けようと思い立ったのである。小手先の対策強化を呼び掛けたくらいでは「対策はもう十分」「自殺が減っているのになぜ必要か」といった空気に抗えそうにない。その空気を一変させるには「今のままでは全然ダメだ」と、現状を徹底して否定してみせる必要があると感じ、ならばいっそ「自殺総合対策の抜本改革」を訴えようと決意したのである。
その大義は、「基本法の施行から10年の節目」しかないとの直感もあった。2012年から2年連続して自殺者数が3万人を下回り、それ以前からの「減少傾向」がはっきりしてきたくらいから、改革を断行するタイミングとしては、「10年の節目」を逃す手はないと確信するようになった。
そこで、自殺対策をともに進めている全国の民間団体の仲間や自治体の関係者、それに自殺対策基本法が成立してからもずっと共闘してきた超党派の国会議員や国会関係者に、折をみて個別に、「10年の節目に大改革をやりたい」と打診してみた。すると全員から同じ答えが返ってきたのである。「ぜひやろう」と。誰ひとり躊躇せず、瞬間的に危機感を共有し、改革への決意を固めてくれた。
そうして1年以上前から水面下で具体的に動き出し、様々な困難を乗り越えて、まさに「10年の節目」である今年、「基本法の改正+政府の体制強化+地域予算の恒久化」という大改革を一気に成し遂げることができたのである。
8 改革実現に必要なもの
改革の実現に必要なものは3つある。説得力のある「改革の中身」と「改革を仕掛けるタイミング」。そして、「改革を実現するための戦略」である。
裏を返せば、いくら改革の中身が合理的で多くの賛同を得られるものであったとしも、それを仕掛けるタイミングが適切でなかったり、実現のための戦略に不備があったりすれば、たちまち改革は頓挫する。
逆に、改革の中身が非合理的でほとんど賛同を得られないものであったとしても、それを仕掛けるタイミングや実現のための戦略が優れていれば、改革が実現してしまうことだってある。「中身」はもちろん、「タイミング」と「戦略」は、改革の実現においてそれだけ重要になる。
9 改革のタイミング
今般の自殺対策改革の「タイミング」については、先述したとおり、「基本法の施行から10年の節目」を狙った。
年間自殺者数が減少傾向にあり、社会的には「自殺対策はこれで十分」といった雰囲気は、つまり改革への追い風がまったく吹いていないということだ。無風状態、いや、むしろ逆風に近い状態を変えるためには「タイミング」を活用するしかない。
簡単にいえば、説得力のある「タイミング」に仕掛けることでマスコミを味方に付ける。「対策強化月間初日」とか「震災から丸5年」とか、そうしたタイミングに合わせて最新の動きを報道するのがマスコミの役目のひとつであり、それをうまく「利用」するわけだ。
今回も、「基本法の施行から10年」というタイミングを枕詞にして多くの報道がなされ、結果的に改革に向けた追い風を吹かせることができた。社会の雰囲気を「いざ改革へ」に変えていった。
10 改革へのホップ・ステップ
「戦略」という意味では、基本法の改正という大ジャンプを一気に狙うのではなく、1年以上前から水面下で慎重に、「ホップ」と「ステップ」を行った。
具体的には、「ホップ」というのは昨年5月に開催した「自殺総合対策の更なる推進を求める院内集会」である。全国の自殺対策関係者や国会議員、遺族等を集めてNPO法人ライフリンクが主催したのだが、参議院議員会館の大会議室は立ち見が出るほど超満員。ものすごい熱気に包まれた。
集会を共催した「自殺対策を推進する議員の会」からも多くの議員が出席し、その場で「自殺対策全国民間ネットワーク」と「自殺のない社会づくり市区町村会」が連名で議連に対して「要望書」を提出。具体的な改革を求めた。
そして「ステップ」として、その要望を受ける形で翌月、参議院厚生労働委員会が「自殺総合対策の更なる推進を求める決議」を全会一致で行った。「要望書」の中身を「決議」に書式変換したような内容で、この中で、立法府として法律の改正を行うとの決意も示した。