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2016.07.11 医療・福祉

自殺総合対策の大改革〜その全容と改革の舞台裏〜

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3 改正自殺対策基本法のポイント

 3点セットの改革、その一つひとつについて見ていく。まずは改正された自殺対策基本法だ。
 自殺対策基本法は2006年に成立した議員立法であり全3章21条で構成されていたが、今回の改正により全4章25条になった。ただし、増えた条文は4つだけだが、法律全体の文字数は約2倍に増えている。改正法の正式名称は「自殺対策基本法の一部を改正する法律」だが、実際は「自殺対策基本法を全面的に強化する法律」となっている。
 第1に、自殺対策のメッセージが極めて明確になっている。1条(目的)に「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」を目指すことが、2条(理念)に「自殺対策は包括的な生きる支援である」ことが、それぞれ加筆された。これまでも自殺総合対策大綱にはそうしたメッセージがうたわれていたが、この度の改正によって法律の中にも盛り込まれた。日本の自殺対策の方向性が、これで鮮明になった。
 第2に、先ほど法改正の最大のポイントと紹介したとおり、都道府県のみならず市区町村に対して「自殺対策計画の策定」を義務付けている。地方分権の時代に、あえて「義務付け」にまで踏み込んでいるわけだが、それは、改正前の基本法でも4条において「地方公共団体の責務」がうたわれていたが、実際はその責務を果たさない地方公共団体が少なからずあり、全国的に自殺対策の取組状況に大きな地域間格差が生じている現実を踏まえてのことだ。
 これは見方を変えれば、自殺対策に積極的に取り組む地方公共団体に住んでいる人は自殺対策に係る様々な「生きる支援」を受けることができて、そうでない地方公共団体に住んでいる人はそうした支援が受けられないという、つまり生死を分かつかもしれない「支援の格差」を生じさせていることになるわけで、そうした状況を改善する必要があったためである。

参議院法制局資料図表1▶自殺対策基本法の一部を改正する法律案 概要
参議院法制局資料

 日本の自殺対策が目指す「誰も自殺に追い込まれることのない社会」を実現するためには、日本のどこに暮らしていようと、誰もが自殺対策(包括的な生きる支援)に係る様々な支援を受けられるようにしなければならない。そして、そのためにはすべての地方公共団体において自殺対策が実施されなければならない。そこで、総務省や全国市長会の反対をも押し切って計画策定を義務化したのである。
 第3に、自殺対策の諸課題への対策を進めるための足掛かりが盛り込まれている。具体的には、学校で自殺の0次予防を行うこと(17条2項)や薬物治療偏重の地域精神科医療を改革・改善すること(18条)、それに医師や看護師などの専門職の教育課程で自殺対策について教えること(16条)など、これまで必要とされていながら実現に至っていなかった諸課題を前進させるための足掛かりが盛り込まれた。
 その他、7条として「自殺予防週間と自殺対策強化月間」について、14条として「地域自殺対策のための交付金」について、25条として「必要な組織の整備」についても、改正法に盛り込まれた。結果、多くの国会関係者から「基本法をここまで改正するのは異例」と評されるほどの大改正となっている。

4 政府の自殺対策推進体制の強化

 法案をまとめる際に最も強い懸念が寄せられたのが「計画策定の義務化」についてであった。「地方公共団体には自力で自殺対策計画をつくるだけの余力はない」「計画をつくってもそれを実行に移すための財源がない」など、義務化に反対する意見は決して少なくなかった。
 私は今回の法改正に「自殺対策を推進する議員の会(尾辻秀久会長)」のアドバイザーという立場で深く関わったが、私自身も、そうした懸念は至極まっとうなものでもあると思っていた。だからこそ、自殺対策計画を実効性のあるものにするために、法改正と一体的に他の2つの改革にも取り組んだ。そのひとつが、先述したとおり、地方公共団体の計画づくりを後押しするための「政府の自殺対策推進体制の強化」である。
 具体的には4つの意味で強化されている。ひとつは、これも先述のとおり、自殺対策の所管が内閣府から厚労省に移管されるに際して、厚労省内に新たに「自殺対策推進本部」を立ち上げたことだ。これは、内閣府において「地域づくり」として進められてきた日本の自殺対策が、厚労省に移った途端「うつ対策」に後退することのないよう、厚労省が一体となって自殺対策を総合的に推進する体制をつくる必要があると考えてのことであった。当初は、事務次官が本部長を務める方向で準備が進められていたが、直前になって厚労大臣が自らの決断で本部長に就任することとなった。厚労省が一体となって自殺対策に取り組む意志が、この組織の在り方に表れているといえよう。
 また自殺対策が厚労省に移管されるに当たって、自殺対策専任の管理職(参事官)が配置された。内閣府においては自殺対策を担当する管理職が他の施策(定住外国人施策や少子化対策等)を兼務していたため、その分どうしても責任の所在が曖昧になり、組織としての動きも鈍くなりがちだった。そうした反省から、厚労省においては専任の管理職を配置することになったのである。
 さらに、厚労省の指揮の下で自殺対策の研究や推進を担う組織として「自殺総合対策推進センター」がつくられた。これはすでに存在していた「自殺予防総合対策センター」の機能強化を図る形でつくられたものだが、組織の在り方が抜本的に見直され、かつ予算も倍に増額されて、まったく新しい組織として生まれ変わっている。
 最後に、その「自殺総合対策推進センター」のいわば手足となる「地域自殺対策推進センター」が、すべての都道府県及び政令指定都市に設置されることとなった。つまり、総合センターが全国の地域センターを、そして各地域センターが当該都道府県の市区町村を支援することで、結果的に全国の地方公共団体の計画づくりを政府が徹底して後押しする体制を整えたのである。

厚労省自殺対策推進室資料図表2▶厚労省における自殺対策の推進体制
厚労省自殺対策推進室資料

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