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2016.06.27 政策研究

新潟県特定野生鳥獣の管理及び有効活用の推進に関する条例〜住民ニーズを踏まえた議員提案による部局横断型政策条例の意義〜

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4 おわりに

 マスコミ等においては、議会の政策立案能力を示す指標のひとつとして、議員提案政策条例の制定件数を採用することが多々あり、また、地方分権一括法の施行以後、一部の地方議会を中心に当該条例の制定件数が飛躍的に上昇したことに伴い、多くの地方議会に件数至上主義がまん延し、制定される条例内容の金太郎あめ化など弊害も指摘されている(17)
 また、件数至上主義は、議員提案政策条例を「制定しっ放し」という落とし穴に招き入れるおそれもあり、それを回避する意味からも、制定条例の検証や見直しの必要性がクローズアップされている(18)。新潟県議会自由民主党議員団鳥獣条例プロジェクトチームにおいては、条例施行後も県内の鳥獣被害現場を視察しており、平成28年度に入ってからも精力的に活動を続け、この4月には、鳥獣対策や捕獲鳥獣の利活用について先進県視察を実施するなど、鳥獣条例の附則に盛り込んだ見直し規定を意識した活動を展開している。
 地方議員は、国会議員とは異なり、いわゆる政策担当秘書制度が法定化されておらず、条例案を策定する際に必要となる政策スタッフのぜい弱性を指摘する声も少なくない。政策スタッフのぜい弱性などを考慮すれば、地方議員に対し、模倣・追従条例ではない数多くの地域性の高い議員提案政策条例の策定を求めることは現実的ではないだろう。しかしながら、地方議員は、住民との多様な接点を有し、住民の声、現場の声に敏感であるという得難い特性を所持している。多様な住民ニーズを拾い上げ、施策への落とし込みの是非を大局的に判断できる、換言すれば、地域の実情と政策を、条例というツールに結びつけることができる地方議員の果たす役割は、決して小さいものではない。政策スタッフの現状等を踏まえれば、地方議員には、件数至上主義に陥ることなく、住民ニーズに合致した部局横断型政策条例など「質」の高い条例の制定、施行された条例を介した施策展開の検証、検証に基づいた条例の見直しをひとつのサイクルとする実効性の高い政策立案活動に取り組むことが求められており、今後、その重要性が増していくものと推察している。


(1) 「県会で条例案で上程―野生鳥獣管理強化へ―」(新潟日報2014年12月13日)。なお、複数の野生鳥獣の管理及び有効活用を規定した条例の制定は、報道のとおり、新潟県が初と認識しているが、ひとつの鳥獣に特化した条例としては、議員提案ではなく知事提案により北海道が平成26年3月に制定した「エゾシカ対策推進条例」がある。
(2) 新潟県ホームページ「平成26年度特定野生鳥獣に係る施策の実施状況」参照。なお、2016年6月13日には、次年度の施策の実施状況、すなわち、「平成27年度特定野生鳥獣に係る施策の実施状況」も公表された。前年度に比べ、特定野生鳥獣に係る施策の実施状況の公表時期が大幅に前倒しされたことにより、検証を踏まえた施策を構築するにあたり、より一層、迅速に対応できる環境が整備されたといえよう(http://www.pref.niigata.lg.jp/kankyokikaku/1356832930253.html(2016年6月13日閲覧))。
(3) 我が国の鳥獣に関する法制度は1873(明治6)年に制定された「鳥獣猟規則」(太政官布告25号)に端を発するといわれている。当該規則は、銃猟を年度ごとの免許鑑札制とするとともに、狩猟の対象となる鳥獣を限定しなかったものの、狩猟の場所や期間を規制するものであった(鳥獣保護管理研究会『鳥獣保護法の解説〈改訂4版〉』大成出版社(2008年)1〜2頁)。
(4) 山岸千穂「野生鳥獣による被害の低減に向けて―鳥獣法改正案―」立法と調査354号(2014年)111頁参照。
(5) 山本麻希「鳥獣対策で条例―垣根を越えた連携へ―」日本農業新聞(信越版)2014年8月7日。なお、鳥獣被害対策は同一都道府県において所管部局が異なるばかりでなく、鳥獣被害対策として想定される管理に関する計画は都道府県レベル、被害防除計画は市町村レベルという「二重構造」も有しており、部局間、そして、地方公共団体間の連携強化の重要性を求める声が少なくないところである。
(6) 新潟県ホームページ「平成25年2月6日泉田知事定例記者会見要旨」参照。報道発表資料では、対策本部の体制として、本部長の副知事のほか、本部員として、県民生活・環境部長、農林水産部長、防災局長、県警本部生活安全部長、県警本部地域部長を列記するとともに、鳥獣被害対策は、被害防止対策、個体数管理、生息環境整備など多岐にわたることから、関係部局が連携し、取組を進めるため、上記を構成員とする県鳥獣被害対策本部を設置する旨記載している。なお、本件に関する問合せ先として、農作物被害関係の問合せ先として農林水産部農産園芸課が、それ以外の問合せ先として県民生活・環境部環境企画課が併記されていた。年度が改まり、第1回本部会議の開催をアナウンスした平成25年6月5日付けの報道発表資料は、対策本部等に関する問合せ先として環境企画課、農作物被害関係の問合せ先として農産園芸課が併記されており、複数部局にまたがる政策課題のかじ取りの難しさを垣間見ることとなった(第1回対策本部会議は、設置発表からおよそ4か月経過した平成25年6月7日に実施)(http://chiji.pref.niigata.jp/2013/02/post-e429.html(2016年6月13日閲覧))。
(7) 新潟県議会ホームページ「会議録」参照。本会議、厚生環境委員会(新潟県の環境部局である県民生活・環境部を所管)あるいは産業経済委員会(新潟県の農林部局である農林水産部を所管)の場で、延べ9人の県議会議員が鳥獣被害対策に関する質問を行っている(「新潟県議会会議録の閲覧と検索」(http://www.kaigiroku.net/kensaku/niigatak/niigatak.html(2016年6月13日閲覧))にて、キーワード検索の上、質問者及び質問内容を特定)。
(8) たとえば、最近の論考として、岡本全勝「明るい公務員講座(15)」地方行政(2016年3月28日)15頁参照。
(9) たとえば、農林水産省ホームページでは、「鳥獣被害対策コーナー」(http://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/index.html(2016年6月13日閲覧))を、北陸農政局ホームページでは、「野生鳥獣による農作物被害状況」(http://www.maff.go.jp/hokuriku/seisan/supply/cyojyu02.html(2016年6月13日閲覧))を参照のこと。
(10) 山下慶洋「農林水産業の鳥獣被害への対応」立法と調査334号(2012年)115頁参照。なお、農作物被害の合計値は自己申告の積上げと解すれば、自家消費を目的とした野菜・果樹類の被害状況(額・面積)などは、必ずしも適切に反映されていない可能性も否定し難いところである。新潟県で多く見受けられる中山間地域に住む高齢者等が行っている自家消費を目的とした野菜・果樹類の被害状況についても、的確に把握する仕組みが必要であり、施策の構築に当たっては、これら声なき声を拾い上げる取組が求められよう。
(11) 平成26年度における新潟県のクマによる人身被害件数については、7人である旨環境省ホームページ(クマ類による人身被害件数(https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs4/injury-qe.pdf(2016年6月13日閲覧))及び新潟県ホームページ(クマによる人身事故発生状況(http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/79/319/jinsin,0.pdf(2016年6月13日閲覧))で公表しているが、このほかに、件数にはカウントされていないが、平成26年4月に新潟県村上市において、頭部や腕などに深い傷を負った80歳代の女性の遺体が発見された事案があり、捜査に当たった村上警察署は「断定はできないが、クマに襲われた可能性がきわめて高い」とコメントしている(「社説:クマ被害」新潟日報2014年5月1日、「クマ出没―生息域が拡大、ブナ凶作―」朝日新聞(新潟版)2014年9月21日)。
(12) 川瀬翼「鳥獣保護法の改正」自治体法務研究2015・夏(2015年)6頁参照。
(13) 地方自治法149条1号、112条1項及び109条6項参照。
(14) 「専門家、被害の現状報告―自民県議団鳥獣PT初会合」(新潟日報2014年7月29日)、「クマ被害備え急ぐ―自民県議団:鳥獣条例に着手、県:ハンター育成に力―」(日本経済新聞(新潟版)2014年9月6日)。
(15) 新潟県議会自由民主党議員団は、意見募集期間を32日間(平成26年10月17日〜11月17日)とするパブリックコメントを実施し、同年12月1日に結果を公表した。なお、県執行部においても、平成26年度に16件のパブリックコメントを実施しており、うち条例制定に関するものは3件(新潟県薬物の濫用の防止に関する条例、新潟県小規模企業の振興に関する基本条例、新潟焼山における火山災害による遭難の防止に関する条例)あったが、いずれも「新潟県県民意見提出手続(パブリック・コメント手続)に関する指針」で規定する30日以上の意見募集期間を満たしていなかった。周知のとおり、条例制定は議会の議決事件として地方自治法96条に規定されており、執行部のみの権限で制定できる具体的な規制事項を盛り込んだ規則などと比べ、パブリックコメントの案件としてふさわしいか否か議論があるところであろう。にもかかわらず、執行部において条例制定に関するパブリックコメントの実施に踏み切るのであれば、少なくとも指針で明示した意見募集期間としての30日を確保すべきであり、確保できない場合には、議会や住民に対し、その合理的事由を説明する責任を有していることを再認識する必要があろう。
(16) 見直しを行った内容としては、たとえば、鳥獣条例2条の特定野生鳥獣の具体的な種別の明示を挙げることができよう。平成26年10月17日にパブリックコメントを実施した際に、特定野生鳥獣の具体的な種別として、環境省及び農林水産省による鳥獣被害対策の方針(ニホンジカ及びイノシシの当面の捕獲目標として生息頭数を10年後(平成35年度)までに半減する旨明示(「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」(環境省及び農林水産省、平成25年12月策定))、ニホンザルについては加害群の数の半減、カワウについては被害を与えるカワウの生息数の半減を、10年後(平成35年度)までに目指す旨明示(「被害対策強化の考え方」(環境省及び農林水産省、平成26年4月策定))や、野生鳥獣に係る各種統計調査の結果、さらには数値には反映されにくい鳥獣被害現場で聴取した生の声を踏まえ、カワウ、ニホンザル、ツキノワグマ、イノシシ及びニホンジカの5鳥獣を明示していた。その後、タヌキ、ハクビシンについてもパブリックコメントや市町村や関係団体への意見照会等の結果に加え、当該鳥獣に係る対策の必要性・緊急性などを検証の上、追加することとし、追加すべきとの意見も少なからずあったカラスやムクドリについては、同じく検証の結果、今後の被害状況の推移等を注視し、施行後3年を経過した際に実施する条例内容の見直し作業において特定野生鳥獣として加えるか否か検討することとした(新潟県議会自由民主党県議団「新潟県特定野生鳥獣の管理及び有効活用の推進に関する条例に対するパブリック・コメントの結果」)。
(17) 滝本直樹「議員提案政策条例を介した地方議会活性化の方向性について」議員NAVIウェブマガジン、第一法規、2015年11月25日掲載(https://gnv-jg.d1-law.com/login/article/20151125/4482/(2016年6月13日閲覧))。
(18) 井上明彦=中川内克行「〈特集〉議会改革度、鳥取が初のトップ」日経グローカル265号(2015年)21頁参照。

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