(2)実態面からの考察(野生鳥獣による被害状況の考察)
議員立法により制定された鳥獣被害防止特措法13条では、野生鳥獣による被害状況の調査・公表を国及び地方公共団体に義務付けており、農林水産省のホームぺージ等で農作物の被害状況を確認(9)することができる。
それによれば、野生鳥獣による全国の農作物被害額は、平成20年度以降、年間200億円前後で推移している。このうち、鳥類による被害が約2割ほどあるものの、獣類によるものが約8割を占め、特に、シカとイノシシによる被害額が高い水準を示している。また、当該被害状況の最新データとしては、平成28年1月に農林水産省ホームページに公表された「平成26年度における野生鳥獣による農作物被害状況」があるが、当該データによれば、平成26年度の全国被害状況については、被害金額が191億3,400万円で前年度に比べ7億7,500万円減少(対前年度比3.9%減)、被害面積が8万1,200ヘクタールで前年度に比べ2,200ヘクタール増加(対前年度比2.8%増)となっている。主要な獣種別の被害金額については、シカが65億2,500万円で前年度に比べ10億3,000万円減少(対前年度比13.6%減)、イノシシが54億7,800万円で前年度に比べ1,300万円減少(対前年度比0.2%減)、サルが13億600万円で前年度に比べ900万円減少(対前年度比0.7%減)となっている。なお、鳥類については、カラスによる被害金額(17億3,200万円(前年度比7,900万円減、4.4%減))が最も高くなっている(図1、表1参照)。
野生鳥獣による新潟県の農作物被害額は、平成20年度(被害額:5億5,400万円)以降漸減傾向にあり、平成26年度は、前年度に比べ1,000万円減の2億4,200万円(対前年度比4.0%減)となっている。新潟県の場合、全国の状況とは異なり、鳥類による被害金額が獣類のそれを上回り(カラスによる被害金額が全種別の中で最高値を記録)、獣類では、サル及びイノシシの被害額が高くなっている。当該年度の野生鳥獣による全国の農作物被害額に占める新潟県の割合は、約1.3%(2億4,200万円/191億3,400万円)、うちクマによる全国の農作物被害額に占める新潟県の割合は、約1.5%(600万円/3億9,100万円)となっている(図2、表2参照)。いずれも全国値を都道府県数で除した単純平均値を下回っており、新潟県においては野生鳥獣被害は深刻な状況に陥っていないように見受けられるが、調査の取りまとめに際しては、被害金額等を申告しない事例も少なからずあるとの指摘(10)もあり、当該調査結果の利活用に際しては、このような事例も有する旨認識しておくべきであろう。
なお、周知のとおり、野生鳥獣は自然環境の重要な構成要素であるとともに、古くから生活資源や鑑賞の対象などとして人間との深い関わりを持って生息してきたが、近年、自然環境の悪化などに伴い、一部の野生鳥獣が人間の居住地域に進出し、農作物以外にも様々な被害を人間社会にもたらしている。たとえば、クマについては、前述のとおり、農林水産省が鳥獣種類別としてクマによる農作物の被害状況を公表しているが、環境省においても、クマによる人身被害件数等を公表しており、平成26年度の新潟県の被害人数は7人(11)であり、全国合計値は124人であった。当該年度におけるクマによる全国の人身被害件数に占める新潟県の割合は5.6%となり、クマによる農作物被害金額のそれに比して、高い水準を示している。さらに、シカやイノシシなどの鳥獣による希少な植物の食害や生態系への影響を懸念する声(12)も少なからずあることから、既存統計調査のみならず現地調査、さらには被害を受けた地域へのヒアリングなど多面的な検証に基づき、野生鳥獣被害の状況を把握し、それらを踏まえた鳥獣被害対策を実施していく必要があると考える。