「政治について安心して話す」場を創る
そもそも日本の若者の現実として、「消費税が上がるけどお小遣いは増えない」といった愚痴程度はあるかもしれないが、「政治」「社会課題」について友達同士で話すということは日常ではほとんどない。サッカーや野球、芸能情報、あるいは部活動や恋の話といったところであろう。そして「政治」について話すことは、「ダサイ」「マジメ」「意識高い系」とレッテルを貼られてしまう。
だからこそ、教室でも、生徒たちがグループごとに議論する場を設けることで、普段は政治について話したりすることがないが、実はそれぞれが政治的課題について関心を抱いていることに気づくことができる。そして、互いの考え方の違いを知るとともに、自分たちが住んでいる地域や日本のこれからについて“熱い議論”が交わされる。
また、模擬選挙や模擬議会だけが主権者教育ではなく、選挙のときだけ考えればいいわけではない。
大事なのは、日々の教育活動を通じて社会や地域で起こっている出来事について考え、調べ、話し合う機会を設けることである。国語・英語で論説を読み取りディベートやスピーチを行う、数学・理科で効果的な表・グラフの作成や統計について学ぶ、美術・情報で社会へのアピール方法を表現するなど、各教科でも主権者意識を深めることは可能である。「少年の主張」「税の作文」なども、活用の仕方で主権者教育となりうる。
模擬選挙は、架空の政党・候補者に投票するだけの単なる投票体験ではなく、実際の選挙を題材だからこそ投票するために考える機会を生み出すところに価値がある。
学校以外での主権者教育の場を
また、学校内だけではなく、地方自治体や家庭、あるいは企業でも、主権者教育に取り組むことが大事である。これからの社会を担っていく子どもが主権者としての意識を育み、地域社会の担い手として成長や活躍していくためには、子ども時代の経験・体験が何よりも大きな影響を与えることはいうまでもない。
ここ最近は、子どもの権利保障を基盤とした子ども施策が地方自治体において普及してきている。筆者が2014年に調査したところ、「子どもの参加」に取り組んでいる自治体は53.3%と過半数を超え、県(78.9%)や区(87.5%)における子どもの参加率は極めて高くなっている。子ども参加の内容としては、「子ども会議・子ども議会」33.4%、「審議会への参加」22.4%、「子ども施設の設計・運営等」10.5%であった。
「子ども参加」の具体例としては、「学校建設に伴う基本設計への意見の反映~小・中学生」(北海道滝川市)、「中学校生徒会サミット」(岐阜県中津川市)、「高校生代表者会議」(沖縄県)、「子ども議会」(北海道壮瞥町、青森県むつ市、秋田県仙北市、神奈川県鎌倉市、神奈川県葉山町、群馬県藤岡市、石川県野々市市、愛知県知立市、佐賀県江北町、鹿児島県屋久島町など多数)などが挙げられる。
「子ども議会」「子ども会議」で出された子どもの意見については、「反映された」が64.6%、「反映されなかった」が26.6%であった。実際に反映された子どもの意見としては、「大型児童センターの愛称等」(北海道石狩市)、「防犯灯の増設についての意見が出ていることを受け防犯灯設置の定期的な現地調査の際に、通学路についてこれまで以上に注意を払う」(埼玉県吉川市)、「街灯の増、子どもバス料金の軽減、学校設備の改修」(北海道士別市)、「子どもの権利条例の制定」(北海道北広島市)、「子どもの目線による公園づくり、遊び場の確保」(滋賀県近江八幡市)などがある。
また、子ども施設の設計・運営等における子ども参加では、「山形県こども館の運営」(山形県)、「児童センターの設計段階で子どもの意見を聴いた」(長野県松本市)、「学校のトイレ改修ワークショップ」(宮崎県宮崎市)、「東日本大震災津波を被災したことによる新校舎設計」(岩手県岩泉町)などの取り組みがあった。
こうした、自治体への子どもの参加による「子どもの変化や成長」は、「子ども議会・子ども会議」や「審議会への子ども参加」では7割で「変化や成長があった」との回答を得た。子ども自身が自ら意見を出し、議論に参加する機会がある方が、子ども自身の変化や成長につながっているといえよう。