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2016.02.10 政策研究

【2016年展望】地方創生は早くも正念場~動かぬ地方分権~参院選モード全開

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交付金にがっかり感も

 総合戦略は今年3月末までにほとんどの自治体が作成を終える見通しだ。地方側は求められた責任を果たしたことになる。では、国はどう対応してきたのか。財政支援策を確認しておこう。
 2014年末に決定した経済対策に基づく2014年度補正予算では、交付金4,200億円が計上された。うち2,500億円が商品券、旅行券発行などのいわゆる消費喚起策、経済対策で、残る1,700億円が純粋に地方創生に充てられる予算だった。
 実際は1,400億円を交付税と同じように人口や財政力に応じて全自治体に配った。総合戦略づくりのいわば経費と考えていい。自治体の総合戦略に盛り込まれた施策について、国が審査して上乗せ支援する交付金は300億円しかなかった。
 2015年12月に決定した2015年度補正予算案の「地方創生加速化交付金」1,000億円は、この300億円を3倍以上に増やしたことになる。交付金を受け取るには、総合戦略に盛り込んだ施策のうち交付金を受け取る施策がどれだけ先駆的かについて、国に説明し認定を受ける必要がある。認められれば100%国費だけで事業ができる。このため交付金獲得を目指す自治体には少しは励みになっただろう。
 2016年度予算案では、当初予算では初めてとなる「地方創生推進交付金」として1,000億円が盛り込まれた。概算要求1,080億円に対しては自治体側が強く増額を求めていたが、最終的には減額となった。しかも推進交付金は、既存予算の組み替えも多く、補正予算のように自治体側にとっての純増ではない。同額の地方負担も必要となる。
 国が「事業規模は2,000億円、ローカルアベノミクスの実現に寄与する」とアピールする割には、国の負担1,000億円ではあまりにも少ない。もし全自治体が交付金を申請し認められれば、1自治体当たり5,000万円台となる計算だ。「がっかり感」が広がるのもうなずける。
 国は「地方財政計画ではまち・ひと・しごと創生事業費として1兆円を計上している。交付金だけでなくほかの地方創生関連予算も含めて全体で見てほしい」とする。しかし、目玉としてきた交付金が1,000億円と少ない上に、総合戦略の策定の大変さ、上乗せ交付金を得るための手続きの煩雑さを考えれば、自治体側のやる気を削ぐ結果にならないか懸念される。

政府機関移転は数合わせ

 地方創生でのもう一つの目玉は、東京一極集中を是正するためとした、政府関係機関の地方移転だ。2015年3月から道府県による誘致の提案募集を始め、今年3月末には東京圏から出る機関が決まる見通しとなっている。
 移転については42道府県から69機関を誘致するとの申し込みがあった。それを2015年12月に整理した結果、移転の候補については34道府県が要望した34機関にまで絞り込んだ。
 誘致で目立っているのが、国や独立行政法人の研究機関や研修施設などだ。これらは22機関ある。「自治体側の提案を聞いていると、移転そのものではなく、一部の機能を使い共同研究すれば効果が挙がるという例が多かった」。国側はヒアリングの結果だと強調する。
 22機関については、国などの研究者を地方に派遣し共同研究するということが中心となる。これを一極集中是正と言うのであれば少し無理がある。
 国側も「企業にも本社の移転を求めた手前、国も動く必要があった。政治主導で地方移転の議論が始まり、国も慌てて移転提案の募集をしたのでコンセプトが煮詰まっていない点があった」と問題があったことは認める。
 当初から地域活性化に役立つ共同研究の募集として、地方移転とは別に募集すべきだった。地方に期待感を抱かせただけで終わるのであれば、拙速な募集だったと言わざるを得ない。
 残った地方移転の本丸は、中央省庁の観光庁、文化庁、消費者庁、気象庁など7機関、これに関係する独立行政法人が国民生活センターなど5機関となる。「テレビ会議という方法もある」などと前向きなポーズも示す関係閣僚もいるが本当の検討はこれからだ。
 当然、官僚側から「国会対応ができない」、「他省庁との調整はどうなるのか」と移転に反対する意見が出ている。消費者庁の徳島移転についても弁護士団体や市民団から反対意見が出ている。「消費者庁がなぜ徳島市に行くのか」、「文化庁がどうして京都市に置かれるのか」と問われても説明はつかない。「誘致提案があったから」だけでしかない。
 受け入れ側にとっては、メリットが大きいかもしれないが、首都機能が移転しないなかで、なぜ誘致提案があった一部の機関だけが移るのかという疑問は最後まで残る。
 地方創生の柱として鳴り物入りで始めた募集である。もし大規模な移転がなければ、安倍政権のリーダーシップが問われるのは言うまでもない。最終的には、中央省庁と関係する12機関については、地方に出ても問題が少ない機関の一部の部局が移ることが、官僚の言い分に理解を示しながら、政権のメンツも保つための現実的な妥協策だろう。
 そういえば地方移転の第1号と石破担当相が2015年6月に発表したのは、既に広島県東広島市に移転していた独立行政法人「酒類総合研究所」の東京事務所(職員7人)について、広島に移すことだった。これを第1号とぶち上げたのである。
 つまり地方創生のための移転といいながらも、単なる数合わせに終わる可能性が強い。といって、大規模にならなければ地方側の共感は得られない。参院選で地方創生を政権浮揚の策としては使えなくなる。自らつくった地方創生の正念場である。政権の判断が注目されるのは言うまでもない。

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