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2015.12.10 政策研究

NPO起業に国からも積極応援、信用保証の新制度とは

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NPOの検討について

 地域において、事業活動を通じて社会課題の解決など身近なサービス提供を行うNPOの存在感が増しているといった点などを踏まえ、「NPOなど新たな事業・雇用の担い手に関する研究会」を立ち上げ、昨年9月に中間論点整理として、とりまとめが行われました。
 中小企業と同等とみなせる事業型NPO法人については、中小企業と同様に各種中小企業支援施策を利用可能とするべきではないかということで、資金面、人材面などからどういったことができるか整理がなされました。そして、そのひとつが信用保証でした。
 すでに日本政策金融公庫(国民事業部)においては、先進的にソーシャルビジネス支援の取組を進めており、2013年度で740件と順調に伸びつつあります。民間(信用金庫)では、2012年度となりますが約300件となっています。私自身、たまたまですが前の部署の関係で、日本政策金融公庫(国民事業部)で、先駆けてソーシャルビジネスやクールジャパンといった、なかなか民間では手がつけられていなかった分野で、実際に現場を回って開拓されてきた方々と随分と議論を交わしていました。また、後述するように、同じく靴底を減らしてNPOのソーシャルビジネスというものを探求されその芽を育ててこられた信用金庫の皆様もいらっしゃいます。数字の背景には、こうした方々の先見の明や並々ならぬ努力があり、それを礎として今日の制度改正が実現できたものと認識しています。

印象的であったこと

 非営利組織でボランティア活動に端を発するNPOを信用保証の対象とすることについて、最初は疑問に感じる方が多いのではないかと思います。私自身もそうでしたし、この1年で関係してきた多くの方々が最初は自分と同じ誤解をしておられ、同じような納得のプロセスを経て理解されていました。
 ソーシャルビジネスを根底から伸ばしていくためには、信用保証の適用など制度面だけではなく、こうした誤った認識を解いていくことや、その背景を少しでも知っていただくことが有効だと思いますので、私見を交えて紹介させていただきます。

(1)NPOの方々の話
 私自身は2014年6月に現在の部署に着任し、上記の研究会は横目で見ている程度でした。いざ報告書がとりまとめられると、「あとは法改正よろしく!」と担当を拝命しましたが、研究会に出ていないこともあり、よく分かっておらず、自分の中ではゼロからのスタートとなりました。
 まず疑問だったのは、「ボランティア活動なのに、なぜわざわざ借金をしてビジネスをするのか。どうやって返済するのか。そうであれば、NPOではなくそういう環境が整っている株式会社として事業を行った方がよいのではないか」ということです。さらに、「その非営利のボランティア活動を中小企業信用保険法という中小企業立法の中に取り込んで大丈夫なのだろうか」と思いました。私のみならずNPOの活動の実態を知らない方々は、最初この疑問にぶつかるようでした。
 腑(ふ)に落ちなくてNPOの方々に直接話を聞いてみました。「なぜ、企業ではなくNPOを選ばれたのか?」という質問に対し、「NPOの非営利とは、企業のように利益をスポンサーに配分することが禁止されているからであり、企業と同じビジネスを行うことは問題なく、ボランティア活動しかしていないというのは誤解」という答えが返ってきました。なるほど、と思いました。
 そして、この先が重要なのですが、「配当が禁止されているから寄附を集めるのに適している。その寄附と事業の売上げでビジネスとして芽吹くか芽吹かないかのギリギリのラインを狙える。利潤追求だけが目的では達成できない領域に進出できる」、「地域経済の発展のためには自社の利益だけではなく、地域全体の利益の底上げが必要であるが、株式会社ではそれはやりにくい。名刺を2枚持って活動できる」ということでした。
 そうした話を聞いているうちに、「ソーシャルビジネスの世界から芽吹いてくるチャンスがあるはず。すでに日本政策金融公庫や一部の金融機関では先駆けて実施しているものの、全体を信用保証で支えることでソーシャルビジネス全体の底上げと、その中からイノベーションにつながるようなものも出てくる可能性があるのではないか」と思うようになり、気がつくと我が事となっていました。

(2)信用金庫の方の話
 NPO融資の先駆けとして、保証制度ができる前から融資を行っていた信用金庫の方の話です。担当者の方が足しげくNPOに通い、NPOとは何なのか、ソーシャルビジネスとはどういうものか、代表者はどういう人柄なのかといったことについて靴底を減らして探求され、さらには資金繰り表の作成の仕方などを支援してようやく融資にこぎ着けた、というものでした。
 信用保証の中には、一部例外的に融資の100%を信用保証協会が保証するメニューもあります。仮に新しく追加するNPOに対して100%保証協会が保証したら、前述の信用金庫の方のように自ら努力をされて融資までこぎ着けてきた方々にとっては、後発組の金融機関に「鳶(とび)に油揚げをさらわれる」ことになるおそれがあります。
 それでもNPOからすると資金調達ができるに越したことはないのではないか、という意見もありました。しかしながら、全額保証されているために金融機関が何も考えずに融資をしてしまうと、融資した後のフォローがおざなりになることや、それがゆえにNPO側でも、企業と同じように会計帳簿をつけるといった努力をするインセンティブがなくなってしまいます。目先はよいかもしれませんが、中長期的に考えれば、結果としてNPOの事業としての足腰が弱いものとなり健全に発展しなくなるおそれもあります。そのような観点から、NPO法人については小規模であっても100%保証は行わない仕組み(20%は金融機関の責任負担である「責任共有制度」)とする方向で検討に入りました。
 その仕組みを入れることの是非については、国会審議のレベルでも議論となりました。また、「それでは信用保証の対象としても使われずに終わる」といった意見もいただきました。そのような面もありますが、NPOの経営努力と金融機関の支える姿勢があってこそ、真に地域解決型の事業として足腰が強くなり中長期的な発展につながるのではないかと考えるに至りました。

(3)信用保証協会
 制度設計の中で、自分のこだわりは1点だけであり、「使いにくい制度」としないことでした。「どういう分野の活動をしているNPOを対象とするのか」という点を関係者の皆様が最も気にされていたと思いますが、そのような限定は設けていません。中小企業の場合と同じように、事業計画・資金計画等から審査が行われ判断されることとなります。
 また、NPOは、企業と同じように事業は行っていますが、その成り立ちは、株主や銀行などから資金調達を行い、利益の配当や返済をする企業とは異なります。このため、会計帳簿をはじめとし、コストをかけなくてよいように制度がつくられています。
 最初はあまり深く考えていなかったのですが、後々これが大変でした。信用保証はボランティア活動とはこれまで縁のない世界です。現場の方々はまず、自分が最初に感じたような疑問を持ちます。国費を投入しているので運用も厳格であり、少しでも手違いがあると、保険金が下りないなどの事態が発生します。しかしながら、そのリスクを回避するために金融目線・霞が関目線で実務設計してしまうと、NPOの活動の実態に即していない「使いにくい」ものになってしまいます。NPOの活動実態と天びんにかけて、現場で柔軟な対応ができる設計となるように、NPOの方の話を聞きつつ、信用保証協会・日本政策金融公庫の関係者と膝詰めでの検討となりました。
 例えば、企業にはなくNPO特有のものとして「寄附」があります。これを企業の売上高と同様に扱うのかどうか、ということについては随分と議論になりました。NPOの方の話を踏まえつつ、喧々囂々(けんけんごうごう)の議論の末に私なりの解釈としてたどり着いたのは次のようなものでした。それは、企業がサービスを行う場合には、当然ながらサービスを提供した相手方からその対価を得ることとなりますが、NPOの寄附というのは、同じくサービスを提供するものの、その対価を「第三者から得る」というように考えることができるのではないか、というものでした。
 そして、それは第三者にその意義を理解してもらい提供してもらうものですから、企業のようにサービスを提供した相手方から直接的に得るより、はるかに難易度が高く、現実的なビジネスモデルと訴求力、代表者の人柄によるところが大きいのではないかと思いました(様々な寄附の目的や意義があるかと思われ、あくまでひとつの見方です)。こうした点を踏まえて、寄附も売上高に入れるべきという結論に至りました。
 また、市民活動に端を発するNPOは、企業のように株主・銀行などから資金調達して配分するということとは根本的に異なるため、従来型のNPOの活動を行っている限り、そこにコストをかけてもらう必要はないものだと思います。しかしながら、信用保証制度の下で、企業とイコールフッティングで資金調達をしていただくには、例えば、信用リスク(返済不能に陥るリスク)がどれくらいか、という評価をして、保証料などが決められることになります。そのためには活動計算書(複式簿記)が基本となります。また、システムや実務も当然複式簿記を前提につくられています。一方、実態としては、NPOの多くは収支計算書(単式簿記)となっています。
 企業と同じようにNPOにも活動計算書(複式簿記)を求めるのが筋なのかもしれませんが、そうすると今度はせっかくNPOが可能性を持っているのに、帳簿がそうであるがゆえに使えないこととなってしまいます。杓子(しゃくし)定規な対応では、せっかく芽吹いていたソーシャルビジネスの芽をつんでしまうかもしれないと思いました。保証協会の現場において、実態を判断して対応できるようにしました。
 上記は一例であり、頭で理解するのは簡単なのですが、それを金融実務に落とし込み、全国の信用保証協会の現場でも目線をそろえて、同じさじ加減で対応するように対応するのは簡単ではありません。システム改修もあります。私自身は無茶な指示をしているだけなのでそれほど苦労をしていませんが、それを快く受けて模索し、抵抗が予想される現場への理解増進も含めて、法律の成立後4か月程度で対応していただいた関係者の皆様の陰ながらの努力と苦労があったものと思います。

(4)普及啓発セミナー
 2015年9月28日、岡本拓也さん(SVP:ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京代表理事)たちが中心となり、「NPOの未来をつくる会」主催のセミナーをキックオフ直前に開催していただきました。これも私が無理を言ってしまい、快く対応していただいた「NPOの未来をつくる会」をはじめとする(恐ろしく多忙な)有志の皆様の協力がありました。
 まだ詳細は不明ですが、開始数か月で2桁を超える実績が出ているようです。関係者の皆様に無理を申し上げてきたものの「使われないと本当に困るな」とひそかに心配していたため朗報でした。
 そのセミナーで印象的だったことを、いくつか紹介させていただきます。パネルディスカッションに参加された「NPO法人こどもコミュニティケア」の末永美紀子さんの「資金調達では、親身になって相談に応じてくださった金融機関担当者も、本社や上部との交渉に困難が多かったようです。6年前は、夫が住宅ローンを組み、住居一体型で建築資金を調達しました。昨年は、政策金融公庫と労働金庫が先駆的にNPO支援をしておられ、不動産担保も出せたのでなんとか信用保証なしでも融資をいただきましたが、今秋からの信用保証制度はNPO全体にとって大きな一歩となると思います」という話は、資金調達の現実と苦労が伝わってきました。
 「NPO法人育て上げネット」理事の石山義典さんとの質疑では、詳しい内容は伏せさせていただきますが、就業できない若者(いわゆるニート問題)と、地域の労働力不足という問題に着目し、ニートの社会進出を支援することで、地域全体の労働力不足を解決しようという、まさに地域課題をまとめて解決するソーシャルビジネスについて話題となりました。「育て上げネット」では、もともと地域の信用金庫とは取引があったため信頼関係もできており、資金調達が困難という状況ではなかったものの、信用保証が加わることで、より安定した関係を築いて事業を発展させられるようになったということです。随分具体的な質問だと思っていたら、2015年10月1日に制度がスタートし、数週間後にはすでに複数の利用実績についての報告があり、そのひとつでした。
 このようにうまくいっている例もある一方、一般的には、自治体からの委託費などにはどうしても切れ目があり、資金繰りに苦労されているようです。従業員もいるので、給料を払わなければなりません。そのような場合にも、金策に走り回ることなく本業に集中できるといったことや、災害・金融ショックなど危機時において安定するのが、この制度を利用いただくことの強みです。
 信用保証制度について、一定の批判があることも承知しています。一方、私自身、こうした個別具体的な話を聞くにつけ、この制度の下で新しいビジネスや雇用、可能性が芽生え、夢を実現する方々がおり、さらには、それにより解決される地域課題や地域の皆様の生活があること、そして、何かと数字で判断される時代であり、一部のマイナス部分ばかりが目立ってしまうのがこの世の常だとは思いますが、それだけでは割り切れない意義があるということを実感させられました。
 このほかにも紹介したいことが多々あるのですが、残念ながら全てはお伝えできません。個別のご相談は、お近くの信用保証協会にお尋ねください。
 最後になりますが、政策金融、今回の信用保証と、NPOの皆様が事業展開をされるために必要な金融支援のツールはそろいつつあると思います。また、NPOの皆様に限らず、ソーシャルビジネスの発展のための金融手引き(ユーザー向け、金融機関向け)を準備中であり、今年度末頃に全国各地でのセミナーも予定しています。これらを通じソーシャルビジネス全体の底上げとともに、その中からイノベーションにつながるものがひとつでもふたつでも芽吹くよう、引き続き、関係者の皆様からのご支援をいただけますと幸いです。


◆関連団体のURL
 ・一般社団法人全国信用保証協会連合会 http://www.zenshinhoren.or.jp/
 ・こどもコミュニティケア http://blog.canpan.info/kodomo/
 ・育て上げネット http://www.sodateage.net/

◆関係資料
 ・中小企業庁「10月1日から特定非営利活動法人(NPO法人)が信用保証制度を利用可能となります」
  http://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/2015/150807hosyo.htm

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