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2015.11.25 議会改革

議員提案政策条例を介した地方議会活性化の方向性について

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3 課題

 議員提案政策条例の趨勢(すうせい)としては、制定数は増加基調にあるものの、内容については金太郎あめ化している、あるいは理念条例が多いとの指摘もなされている。
 平成21年に都道府県議会議員を対象に実施した調査によれば、議員提案条例が知事提案条例に比べ少ない理由として、回答者の69.3%が「現行法令では、予算付きの条例の提出が難しいため」、同67.8%が「条例を作成する際に必要となるスタッフが存在しないため」を選択している。また、回答者の22.9%が「条例を作成する際に必要な時間が存在しないため」を、同21.8%が「条例を作成する際に必要な資金が存在しないため」を選択し、以下、「その他」を選択した回答者は10.2%、「提出要件に必要な人数が集まらないため」を選択した回答者は9.3%であった(選択肢は上記6つ。複数回答可)(3)
 過去、同様の調査は平成17年にも実施されており(選択肢は上記「提出要件に必要な人数が集まらないため」を除く5つ。複数回答可)、回答者の71.8%が「条例を作成する際に必要となるスタッフが存在しないため」を、67.6%が「現行法令では、予算付きの条例の提出が難しいため」を選択。また、回答者の23.8%が「条例を作成する際に必要な時間が存在しないため」を、同19.1%が「条例を作成する際に必要な資金が存在しないため」を選択し、「その他」を選択した回答者は9.4%であった(4)
 調査時点は異なるものの、調査結果のトレンドに大きな変化はなく、国会議員とは異なり、いわゆる政策担当秘書制度(国会法132条2項)を有さない地方議員においては、条例案を作成する際に必要となる政策スタッフ等の脆弱(ぜいじゃく)性、さらには、「首長の予算編成権・提案権の尊重」に関する地方自治法の諸規定(同法97条2項ただし書、112条1項ただし書、149条2号ほか)を過度に意識し、現行法令上、予算付きの条例提案が困難とする認識が、量(制定件数)のみならず質(条例内容)の面からも議員提案(政策)条例の「足かせ」となっているものと解される。

4 おわりに(方向性の提示)

 条例作成のための政策スタッフについては、議員を支える議会事務局の充実・強化、地方自治法に規定する専門的知見の活用(同法100条の2)など政策立案支援組織・ツールを用いることにより、また、「首長の予算編成権・提案権の尊重」という“呪縛”からの脱却については、事例(5)の収集・分析などにより免疫力を高め(6)、各々克服していく必要があろう。
 これらに加え、地方議員の特性ともいうべき住民との多様な接点、すなわち、住民の声、現場の声に敏感である地方議員の利点を生かし、地域の声を反映した予算措置を伴う政策条例の提案など、「質」を重視した地域性の高い条例立案を行うことが、地方議会、ひいては当該自治体のさらなる発展に寄与するものと考える。

※ 本稿中に示す見解は全て筆者個人の私見である。したがって、所属する組織の見解を示すものではないことを申し添える。


(1) たとえば、「〈自治はどこへ:2015年統一選〉“政策条例”4年で4件:福島県西郷村議会、都議会は26年間で2件」毎日新聞2015年3月22日など、平成27年4月に実施された統一地方選挙直前には、議会の政策立案能力を示すひとつの指標として、あるいは議会改革の進展を測るひとつの指標として議員提案政策条例の制定件数に焦点を当てた新聞記事が散見されている。
(2) 井上明彦=中川内克行「〈特集〉議会改革度、鳥取が初のトップ」日経グローカル265号(2015年)10頁以下参照。
(3) 慶應義塾大学市民社会ガバナンス教育研究センター「平成21年度全国都道府県議会議員意識調査・全国政令市議会議員意識調査結果報告書」(2010年5月)188頁参照。なお、平成21年調査の実施主体は慶應義塾大学市民社会ガバナンス教育研究センターであり、調査項目数は39問で設定。全国の都道府県議会議員全員を対象とした全数調査(対象:2,729名)を行い、回答数は798名、回答率は29.2%であった。
(4) 小林良彰=中谷美穂=金宗郁「地方分権時代の地方議員意識」小林良彰=中谷美穂=金宗郁編『地方分権時代の市民社会』慶應義塾大学出版会(2008年)63〜64頁参照。なお、平成17年調査は慶應義塾大学市民社会ガバナンス教育研究センターと全国都道府県議会議長会「都道府県議会制度研究会」との共同調査であり、調査項目数は35問で設定。全国の都道府県議会議員全員を対象とした全数調査(対象:2,812名)を行い、回答数は1,103名、回答率は39.2%であった。
(5) たとえば、高知県議会では、平成13年に補助金交付に関する規定(8条2項)を盛り込んだ「高知県放置自動車の発生の防止及び処理の推進に関する条例(平成13年3月27日公布)」を議員提案により制定している。また、宮崎県高千穂町議会では、同じく平成13年に町産材や国産材を利用した木造住宅の建設を奨励し、林業振興を図ることを目的とした「高千穂町フォレストピア木造住宅奨励補助金条例(平成13年3月29日公布)」を議員提案により制定している(当該条例は、いわゆる時限立法であったため、10年後の平成23年に、延長措置を講じた当該条例の一部改正条例案を町長が提出し、可決・成立している)。
(6) 免疫力を高めるという意味では、地方公共団体は、議院内閣制を採用している国とは統治構造が異なるものの、地方議員が(政策)条例の発議を行うに当たっては、国会における予算を伴う議員立法の規定や動向を把握することも有用と思われる(国会法56条1項ただし書は、予算を伴う法律案を発議するには、衆議院においては議員50人以上、参議院においては議員20人以上の賛成を要する旨定め、予算を伴う法律案の発議要件を明示している(同法57条の3に基づき、内閣には、議員(含む委員会)発議された予算を伴う法律案等について意見を述べる機会が保障されている)。実際、予算を伴う法律案は、議員発議や委員会発議により国会に提出されており、たとえば、平成27年9月27日に閉会した第189回通常国会では、年齢満18年以上満20年未満の者が選挙に参加することができること等とするとともに、当分の間の特例措置として選挙犯罪等についての少年法等の適用の特例を設けることとする「公職選挙法等の一部を改正する法律案」を、本案施行に要する経費として、選挙人名簿関連システムの改修等に係る費用約11億円、啓発に係る費用約19億円、選挙の管理執行に係る費用約2億円が見込まれる旨明示の上、船田元衆議院議員ほか7名が提出し、可決・成立している。当該法案については衆議院ホームページ参照(http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g18901005.htm(2015年11月10日閲覧))。

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