温暖化対策が試金石
パリでは合意に達せず決裂する可能性も残っているが、国際的な気運が高まっていることに加えて、首脳同士の会合をCOP21期間中の最初の方に持ってくることで政治的な対立を避ける国際交渉のテクニックや、リーダーシップを発揮するフランス外相への信頼から何らかの合意に達するとの見方が強い。
では、パリ合意はどのような内容になるのか。現段階では、法的文書(議定書?)とCOP決定のセットになると見られている。法的文書の削減目標は世紀末までに2℃未満に抑えるといった各国が受け入れられる数値だけとし、各国が提出した削減目標はCOP決定に盛り込む見通しだ。法的文書に具体的な削減目標が入ると議会の同意が得られないとする米国の意向にも配慮している。
このほか法的文書は、①地球温暖化の緩和=各国の約束の提出、維持、見直し、先進国と途上国の差異化、②適応=国内、既存組織による協力、③資金、技術、能力、開発についての先進国の支援、④透明性・法的拘束力=測定、報告、検証のルール、ペナルティーなどが盛り込まれる。
このうち先進国と途上国が最後まで対立するのが「差異化」だ。温暖化に「共通だが差異のある責任」を持つことは気候変動枠組み条約で示されているが、具体的な削減目標や緩和、適応、支援などをどのような形で決着させるかは最後まで議論が続くだろう。
さらに途上国は、温暖化による「損失と被害(ロスト・アンド・ダメージ)に対する補償など」を法的文書に盛り込むよう強く求めている。先進国による定量的な支援の増額も主張している。これに対し、先進国側は、政策の優先順位の変化もあって資金負担の増加を恐れ後ろ向きだ。
温暖化が現実のものとなり被害が実感できるようなってきただけに、京都議定書を採択した当時のような理念中心の議論では終わるまい。先進国から途上国への新たな支援をパッケージで示すことができるのか。COP21が成功するかどうかの分岐点になる。
過激派組織「イスラム国」の勢力拡大、ウクライナをめぐるロシアとEU、米国との対立、EUへの大量の難民、移民の流入、中国の海洋進出に対する米国や日本、周辺諸国との摩擦に象徴されるようにここ数年で国際社会は、東西冷戦後の協調の時代から、再び対立と混沌(こんとん)の時代に逆戻りしている。各国の対応の優先順位も地球温暖化という緩慢に訪れる危機よりも、紛争といった目の前にある安全保障の問題にシフトしてきた。
合意が難しくなっているうえに、合意したとしても、各国が本当に実施に移せるかは見通せない。多国間の協力ができない弱肉強食の社会に逆戻りするのか。地球温暖化対策がその試金石でもある。