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2015.10.26 政策研究

温暖化対策で議定書採択か〜COP21で決まる地球の未来〜自治体の政策見直しも必至

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原発ありきか

 この政府の削減目標、電源構成案への批判は根強い。削減目標については、省エネルギーを進めれば、原発を再稼働させなくても26%の削減目標は達成できるとの指摘もある。
 その理由としては、5〜10年で省エネルギー投資を回収できる案件を進めれば30%程度の省エネルギーは可能だという試算結果がある。
 もちろん実現するためには、省エネ政策の強化が前提となる。具体的には、①省エネルギー投資への低利融資、②利用者が電力価格に応じて積極的に利用量を調整するなど需要側管理(DSM)の導入、③建物や製品に設定している省エネルギー基準やトップランナー基準の順守を義務化する―ことだ。さらに炭素税や排出量取引など経済的な手法を活用することも考えられる。
 電源構成については、電力の自由化や温暖化対策が進めば、原子力や化石燃料の価格競争力が落ちてくることを考慮していない。脱原発依存としている安倍政権だが、川内原発1号機が8月に再稼働したように、原発を維持したい電力会社などの意向に強く左右されているのではないか。
 原発のシェアを22%と想定していること自体に違和感を持つ人も多いだろう。電力業界への配慮から今の電力システムを維持することになれば、原発の危険性は残り、化石燃料の輸入が続くことでいわゆる国富は流出する。
 電力会社と心中する社会をつくるのではなく、電力の自由化をてこにして、新電力会社(PPS)を育て、地域のエネルギーの自給自足、地産地消や災害にも強い電力システムをつくることを考えるべきだ。群馬県中之条町のようにそれを実践する自治体も現れている。国、大手電力会社が主導する大規模なエネルギーシステムから、地域の小規模な再生可能エネルギーが増えれば、電力を取り巻く風景は変わりエネルギー政策、温暖化対策の見直しも迫ることになる。

京都議定書の失敗

 ではCOP21で新しい温暖化対策の議定書は採択されるのか。まずCOP21までの歩みを振り返っておこう。
 日本や米国、欧州連合(EU)など先進国に合わせて5.2%の排出削減を義務づけた京都議定書は1997年のCOP3で採択された。2008年から2012年までの第1約束期間は既に終了している。
 京都議定書が採択された後、米国は「中国が入らないのは問題だ」などとする議会の反対もあって批准せず、議定書から離脱した。このため京都議定書は日本やEUなど先進国の一部が参加しただけとなり、効果は上がらなかった。
 実際、1990年の燃焼消費に伴うCO2排出量は世界が210億tだったが、2010年には305億tまで45%増えている。同時期、日本は7.3%増の11億t、米国は11.5%増の54億tに抑え、排出量に占める経済協力開発機構(OECD)加盟国の割合は53%から41%まで低下した。
 一方、中国は同時期23億tから3倍超の73億tまで増やし、世界第1位のCO2排出国になっている。中国の世界に占める割合は11%から24%にまで増えた。つまり温暖化問題は、先進国の排出削減から、中国を中心とした開発途上国の排出も合わせてどれだけ減らすかの問題に変容した。
 2013年以降のポスト京都の枠組みについては、各国の意見がまとまらず、2019年までの期間は、形の上では京都議定書の延長となっているものの、実際は日本、ロシアも参加せずEUのみの取組となっている。
 2020年以降の対策については、2011年に南アフリカのダーバンで開いたCOP17で決めた工程表「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム」に基づいて議論されている。

図2 気候変動に関する国際交渉の経緯図2 気候変動に関する国際交渉の経緯

 この工程表では「米国や中国を含めたすべての主要排出国が参加した2020年から発効・実施させる法的枠組みをパリで開くCOP21で採択する」ことが決まっている。詳細なルールはCOP21後、法的文書が発効するまでに固めることになっている。
 パリでの合意に向けては2014年9月に国連気候サミットが開かれたほか、11月にはオバマ大統領と習近平国家主席による米中首脳会談で、温室効果ガスの排出削減で合意している。具体的には、米国は2025年までに2005年比で26〜28%削減する。中国は2030年ごろをピークにCO2排出量を減少させるほか、2030年ごろまでに全エネルギーに占める非化石燃料の比率を20%にすることを目指すとする内容だ。
 中国はさらに2015年6月末、頭打ちの時期を2030年ごろから前倒しして達成する方針を表明、GDP当たりのCO2排出量を2005年比で60〜65%削減するとの目標も明らかにし、温暖化対策へのリーダーシップの発揮に意欲を示した。
 同じ6月のOECD閣僚理事会では民間資金の活用を議論、ドイツ南部のエルマウで開かれたG7首脳会議では、産業革命からの気温上昇を世紀末で2℃未満に抑えるという国際目標を達成するため、世界全体で温室効果ガスの排出量を2010年に比べて2050年までに「40〜70%削減幅の上方を目指す」とした首脳宣言を採択した。
 12月のCOP21に弾みが付いた格好だ。条約事務局は11月1日までに各国の約束草案を総計した効果について統合報告書をまとめる。10月はじめで60カ国超、世界の排出量シェアの約87%を占める国が提出したが、足し合わせても2℃目標とのギャップがある見込みだ。
 他の国の削減目標では、欧州連合(EU)が2030年に1990年比で少なくとも40%削減する。

図3 約束草案 主要各国の提出状況(2015年7月末時点)図3 約束草案 主要各国の提出状況(2015年7月末時点)

ロシアは2030年に1990年比で25〜30%削減が長期目標になりうると表明、インドが33〜35%削減、カナダが30%減、オーストリアが26〜28%減、ノルウェーが少なくとも40%減、スイスが50%減をそれぞれ約束している。
 これら削減目標については、国際的な民間格付け機関「気候行動トラッカー」が中心に評価している。2℃未満に抑えるために許容される各国の排出量を幅で示しその中に収まるかどうかをチェックすることになるが、日本とロシア、カナダは不十分という厳しい結果だった。EU、米国は「改善があったがまだ努力が必要」となる。
 日本は国としての排出量は世界全体の約3%しかなく順番も5位であることを主張し、温暖化対策には後ろ向きになってきた。先進国での大幅削減を前提とすれば、野心的な削減目標とはいえない。
 東京電力福島第1原発事故を奇貨として温暖化対策からドロップアウトした雰囲気さえある。もはやCOP21に向けてリーダーシップを発揮できる可能性はない。合意内容は、米国、EU、そして中国が決めることになるだろう。

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