2 これまでに制定されている読書条例
筆者が調べた範囲では、2015年7月までの時点で制定済みの読書条例は表のとおりである。9自治体での制定が確認されており、その内訳は県が1、市が5(政令市2含む)、町が3となっている。
3 各条例の特徴
(1)最初の読書条例
最初に制定された読書条例は、2004年の「高千穂町家族読書条例」(5)である。この条例では、教育委員会と学校の役割を定め、学校にはPTAや家庭との連携を図りながら家族読書計画を策定することを義務付けている。また、家庭に対しては家族読書計画に積極的に参加し、協力することを求めている。家族ぐるみの読書運動(家族読書)に焦点を当てている点は、他の条例にはない特徴である。
(2)県による読書条例
2010年には秋田県が「秋田県民の読書活動の推進に関する条例」(6)を制定している。同条例では、すべての県民が読書活動を行えるよう環境整備を進めなければならないとし、県の責務として読書推進に関する基本計画の策定や施策実現のための予算措置(義務規定)のほか、学校や図書館等の関連機関や民間団体等と連携すること等を定めている。
同条例に基づき、2011年には「秋田県読書活動推進基本計画」が策定されているが、計画策定時の県議会では、条例制定も含めた経緯について、「子どもの読書活動の推進に関する法律」や「文字・活字文化振興法」が背景としてある旨の説明がなされている(7)。なお、現在のところ、他の都道府県による読書条例は確認できていない。
(3)市による読書条例
2011年に制定された「仙北市市民読書条例」(8)は、他の条例とは異なり、市の責務(市立図書館等の蔵書充実、市立図書館・小中学校図書館・公民館等のネットワーク構築等)のみを定めている。また、秋田県の読書条例と同様、財政上の措置を義務規定として設けている。
2012年に「恵庭市人とまちを育む読書条例」(9)を制定した恵庭市は、条例の制定以前から活発に読書活動を推進していたが、条例施行後には喫茶店や銀行など市内各所に本を置いてまち全体を図書館にする試みである「恵庭まちじゅう図書館」や、恵庭市立図書館本館を1日限定で24時間開館にする「図書館開館24時」(2013年以降は24時までの開館)等の多様な取組を展開し、他の自治体から多くの視察を受け入れている(10)。
2013年には「横浜市民の読書活動の推進に関する条例」(11)と「中津川市民読書基本条例」(12)が制定されている。横浜市の条例は政令指定都市では初めてのもので、条例制定後には市立の小・中・特別支援学校全校に学校司書を配置する取組が進められている。
中津川市は図書館の新館建設が選挙の争点となり、最終的に建設中止となった自治体である。同市の条例制定については、図書館の建設中止によって同市に対して持たれたマイナスのイメージを払拭したいとのねらいもあったようである。なお、条例の中には市立図書館の取組も明記されている。
(4)町による読書条例
2014年には2つの町で条例が制定されている。「有田川町こころとまちを育む読書活動条例」(13)と「野木町民の読書活動の推進に関する条例」(14)である。これらの条例には、施策の実施に際して「子どもの読書活動の推進に関する法律」等に基づく計画等との整合性を求めている点や、11月を町民の読書活動推進月間に指定している点など、共通点が多い。なお、野木町では、条例と同時に家読・朝読・楽読等の様々な読書を掲げた「キラリと光る読書のまち野木宣言」(15)も議決されている。読書に関する条例と宣言の同時議決は珍しいものである。
(5)独自性の強い読書条例
2015年には、「北九州市子ども読書活動推進条例」(16)が制定されている。政令指定都市としては二番目になるが、他の条例とは大きく異なる、独自性の強い内容となっている。特に、対象を「子ども」に絞った条例は本条例のみである。また、条文数は19条と他の条例の2倍ほどあり、「子ども図書館」の設置や「北九州市子ども読書活動推進会議」の開催等、具体的な取組に関する規定が多い点も特徴的である。