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論評

2015.08.10 政策研究

地方創生、問われる国の本気度〜知事側に目立つ「陳情」〜 安倍政権との距離感は

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参院改革

 ある意味、一番盛り上がったのは、参院の選挙制度改革だといえる。今国会では鳥取と島根、徳島と高知を合区するなど「1票の格差」是正に向けた「10増10減」の改正公選法が成立し、来年夏の参院選で適用されることになっている。
 地方側から見れば、地域の代表を送れなくなる県が出てくる。「都道府県制があるので、(代表を選ぶのは)県単位での制度が必要だ。新たな不合理、不公正が生じた」(溝口善兵衛島根県知事)、「参院の合区は急場しのぎだ。改革は地方創生に逆行する」(西川一誠福井県知事)、「都会出身の議員が、都会視点のみで都会に有利な政策を決めることになる」(尾崎正直高知県知事)、「感情論でも地域エゴでもない。日本の民主主義が問われている」(平井伸治鳥取県知事)などが主な意見だ。
 解決策としては、米国やドイツに倣い、都道府県ごとに同数の議席にするなど参院を「地方の府」として位置付けるべきだとの意見が多く出された。憲法14条で定める「法の下の平等」、44条「議員及び選挙人の資格」、47条「選挙に関する事項」にかかわってくる。
 実現には公選法改正で済むのか、憲法改正まで必要となるのかなど検討課題は多い。知事会では有識者による研究会を設置し、来年3月末までに対応をまとめる方針だ。もともと参院には「衆院のコピーでは仕方ない。独自性が必要だ」との意見がある。参院のあり方を地方側から提案することは、国会での参院改革の議論を深める意味でも不可欠といえる。
 知事会ではこのほか、米ハワイ州で開催されている環太平洋連携協定(TPP)交渉が山場になる前ということもあって、ハワイに行く高橋はるみ北海道知事を激励したほか、「TPP協定に関する緊急要請」をまとめた。
 その中では、①(コメや麦など重要5項目の保護を求めた2013年の)衆参両院農林水産委員会の決議を遵守し毅然(きぜん)たる姿勢を貫き農林水産分野の重要品目の関税を維持する、②TPP協定への参加いかんにかかわらず食料安全保障の観点から将来的に持続的に発展していけるよう地域の特性に応じた再生・強化に向けた施策を講じる―などを求めている。
 一方、安倍政権が急ピッチで進める安全保障法制の整備や沖縄県の米軍普天間飛行場移設、原発の再稼働の是非に対する議論はなかった。

正念場

 知事会議には、閣僚2人が出席した上に、そのテーマが地方創生、五輪開催と自治体にとっても総論賛成の魅力的なコンテンツだっただけに、面と向かって厳しい意見が言えないのが人情というものだろう。
 国会では安全保障法案に対する厳しい批判が野党側から出されている。地方議会からも慎重審議を求める声が出ている。その状況で、知事会側からの強い批判は避けたい。
 安倍政権にとっては、2人の大臣を派遣することで地方側からの厳しい意見が出ることを避けるのに成功した知事会議ともいえるだろう。
 一方、山田会長は、知事会として地方創生に向けた態勢が整ったことをアピールするものの地方創生が国主導で進んでいることや、「安倍1強」の政治情勢も反映してか、国への「お願い」、「陳情」が目立つ事態になった。
 安全保障法制などの議論がなかったことについて山田会長は知事会議終了後の記者会見で「防衛問題はまさに国の責務であることに異論はない」として、国に任せるべきとの考えを表明した。普天間飛行場の辺野古移設のあり方については「沖縄県知事から問題提起があれば議論するが、知事も来られず提起もなかった」と説明するにとどまった。
 安倍政権との距離感には「おもねる気も長いものに巻かれる気もない。戦いはこれからだ」としている。
 今回の知事会議の評価と今後の戦略について山田会長に聞いてみた。
 まず、新型交付金の額については「地方創生を国と進めようということは一致している。概算要求とはいわば予算の枠取りの段階だ。年末の編成まで時間がある。環太平洋連携協定(TPP)対策として補正予算の話も出てくるだろう。それを使う手もある。国と地方の協議の場で議論もできる」とし、まだ国と全面対決すべき時期ではないことを強調する。
 実のところ、「闘う知事会」を標榜(ひょうぼう)していた時代もあったが、小泉政権下、2000年代の三位一体改革によって地方交付税は5兆円が減額され、地方財政は一気に悪化した。かつて、大阪府知事に橋下徹氏、宮崎県知事に東国原英夫氏がいた時代には、「ぼったくりバー」として直轄事業負担金の見直し、地方分権を強く自公政権に迫ったこともあった。
 これらの政治的なパフォーマンスが民主党政権誕生にも一役買ったことは否めない。ただ、その後の民主党の政権運営を考えれば、あのときの行動が本当に国のためになったのか懸念があるのも事実だ。
 それだけに知事会も派手なパフォーマンスは控え、官僚出身者を中心とした実務者の水面下の活動で実を取ろうという方針に転換した、といえそうだ。地方創生の実を取れるかどうかは、これからが正念場といえる。

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