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2015.06.03 政策研究

総合区設置が次の焦点に~否決で国政にも影響~「大阪都構想」の住民投票

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批判に乗じて

  次に投票結果を分析してみる。否決されたとはいえ、都構想に対する支持がほぼ半分あった。橋下氏の突破力、個人的な人気に負うところが多かったが、ほかの要因としては、次の3つが主に考えられる。
  まず、国内での相対的な地位が低下、特に経済的な地盤沈下が著しい大阪を立て直してほしいという市民の思いをつくり出し、票に結びつけた点にある。
  次に、職員厚遇など多くの問題が表面化してきた市政やそれを見逃してきた議員らへの市民の反感をくみ上げ、二重行政批判につなげた。これによって「都構想の実現=既得権益の打破」、「二重行政は無駄」という信者をつくり出した。
  例えば、大阪市港区の神社で行われたタウンミーティングで、維新の会幹事長、松井知事の演説を聞く機会があった。いわば市職員らへの批判のオンパレードという感じだった。
  「年収1,400万円の市交通局職員がいた。考えられない」、「こんなハコモノばかりつくって職員を天下りさせ、結局は破綻させた」、「自民党が反対するのは、市議会議員の職を失いたくないからだ。維新こそ身を切る改革ができる」と、市職員の特権階級意識、世襲2世、3世が目立つ議員のあり方を批判した。
  おちがついた話はあった。「市がワールドトレードセンタービル(高さ256メートル)、府がりんくうゲートタワービル(同256.1メートル)と高さを争うようにつくった。バブルのときにハコモノで失敗した自治体はあったが、2つも失敗したのは大阪だけだ」。
  橋下人気とはいえ、行政機関のあり方という難しい問題に対して、これだけの高い投票率があったことは、市民の行政参加への意識が高まった、民度が高まったと評価していいだろう。
 投票率の高さはまた、現状に対する不満が大きい結果とも分析できる。次は、その不満をどう市役所、市議、政党が受け止めて今後の行政改革に生かすのかが焦点になる。

伝統的な手法

 大阪都構想を道府県と政令市との権限争いの観点で捉えることもできる。もともとの提案が、橋下氏が知事時代だったということに注目すべきだ。
 大阪の府と市の関係は昔から「府市あわせ(不幸せ)」といわれ、幾度か、都構想のようなイメージが議論された。府から見れば市は邪魔な存在であった。市内を選挙区に持つ府議会議員にとっても市のことには関与できず市議よりも存在感が薄い。これらの府側からの観点を基に橋下氏は都構想の導入を政治課題に挙げたといえる。
 このため都構想は大阪市の廃止であり、府にとっては市を吸収した上で5分割するという権限強化策である。ただ、橋下氏の発想は、政令市では少数派である。
 現在20ある政令市のうち大阪以外で市の廃止・分割を検討しているところはない。横浜など多くの政令市は反対に、道府県から仕事や財源の移譲を受けて独立する「特別自治市」の導入を提唱する。
 急速な高齢化を迎えて多くの政令市は今後、社会保障への予算を確保することが最大の課題となる。特別自治市とは道府県から二重行政の解消を理由に財源と人員を得た後、人員の合理化によって必要な財源を生み出そうという発想だ。
 新潟県と新潟市は2011年に新潟州(都)構想、愛知県と名古屋市も2012年に中京都の創設をそれぞれ打ち出した。橋下人気にあやかろうという首長の考えが強かったが、その後はトーンダウンしている。
 今回の住民投票ではっきりしたのは、二重行政、大きすぎるとされる大阪市への懸念が強いことだ。投票に向けて自民党は、①大阪府市、堺市の執行機関、議会が参画することで二重行政を解消し広域連携を強める「大阪戦略会議」の設置、②改正地方自治法に基づいて区の権限を強化する「総合区」の導入―を対案として提案している。
 都構想の否決を受けて橋下市長と自民、公明市議団は、総合区設置に向け協議することで一致した。
 大阪市を残しながらどう二重行政による無駄を省き、行政区に権限を与えて独自性を持たせるのか。政令市の問題を解決するための魔法のつえはない。合理化と区への権限移譲による行政改革という、いわば伝統的な手法に戻るしかない。

憲法改正シナリオは

 最後に国政への影響を考えたい。橋下氏が引退表明した後、「稀有(けう)な政治家を引退に追いやった責任は重い」、「サポートが足りなかった」として維新の党の江田憲司代表が辞任した。後任には松野頼久幹事長が選ばれた。
 これによって野党再編が動き出す可能性がある。民主党との連携に否定的だった橋下氏の影響力が落ちる。江田―松野ラインによって民主党との協力、野党再編が起きる可能性がある。自衛隊の海外活動の拡大を図る安保関連法案の国会審議でも民主と維新の共同戦線が目立ってきた。
 大阪選出の維新議員も、橋下氏が不在となる状況で次の選挙を勝ち抜くのはかなり厳しいと認識するだろう。民主党との協力で何とか議席を守りたいという意識が強まるのは確実だ。来年夏の参院選に向けた選挙協力、野党再編が注目される。
 都構想について安倍晋三首相は国会で「二重行政の解消と住民自治の拡充を図ろうとするもので、その目的は重要と認識する。住民投票で実施の意思が示されれば必要な手続を示す」と答弁している。
 法律に基づく投票であり、地方自治の観点から一般論を述べたことになる。安倍氏はその後も都構想反対の意思は示さず、投票直前に阪神・淡路大震災からの復興や高野山(和歌山県)を視察しても大阪では発言はしなかった。人気が断トツに高い「1強」状態での安倍氏の言動には、維新に対する配慮があるとの見方も広がっていた。
 その理由が憲法改正だ。改正に向けて安倍氏は、橋下氏が事実上率いる維新の党との連携も視野に置いてきた。橋下氏も改正の援軍になると宣言していただけに、引退によって首相の憲法改正のシナリオに影響する可能性もあるだろう。
 

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