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2015.03.23 政策研究

地方創生、難しい成果 国の責任転嫁も

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見えない将来像

 ビジョン、総合戦略の目標と指標は国がつくり、それに沿って自治体が来年3月末までに、地方版のビジョンや戦略を策定することが要請されている。事実上の義務付けといえるだろう。  作成のためには、石破担当相が「『月月火水木金金』ではないですが、『産官学金労言』です」というように、産業界や行政、大学、金融機関、労働界、新聞社やテレビ局などで推進組織をつくり審議することを求めている。都道府県は可能だが、市町村はかなり難しくなる。
 地方版戦略の内容とその進捗状況については、自治体がPDCAサイクルを使って評価し、国の創生本部が内容をチェックする。その状況に応じて交付金を配るとしており、取組の違いによって配分額の差が出ることになる。
 石破担当相は「格差ができるという考えは敗北主義だ。同じにしようとすればみんながダメになる」と、自治体間の競争をあおっている。横並び、護送船団方式から一線を画すという。知事や市町村長らの「覚悟が問われる」(小泉進次郎内閣府政務官)ことになる。
 確かに自治体経営者としての首長、議会のセンスが問われることになる。ただ、両者がそのような訓練を受けているだろうか。理念先行が懸念材料だ。
 将来の不透明感も漂う。昨年末に決定した経済対策に基づく2014年度補正予算には、交付金として4,200億円が計上され、2,500億円が商品券発行や灯油購入補助など消費喚起策、残る1,700億円が地方創生に充てられる。地方創生のうち1,400億円は人口や財政力に応じて自治体に配り、残り300億円は事業内容を国が判断し上乗せ交付する。2015年度に地方に回るお金が増えることになるが、地方側の表情はさえない。
 実は、地方創生の交付金が本格導入される2016年度以降の将来像が示されていないからだ。例えば、「2016年度の本予算でも交付金は1,700億円のままなのか」、「総額が同じだとしても地方に回る他の予算を削って工面するのか、それとも純増となるのか」。これらが最も知りたいところだという。
 今年の夏には方向性が示されるというが、財政難もあって純増とは考えられない。ここが明らかにならない限り、自治体も本気にはなれない。石破担当相は交付金も含めた創生関係の予算を今後、どれだけ確保し伸ばしていくのか早急に示すべきだろう。

問われる首長、議会

 地方創生は終戦以来の永遠のテーマである。安倍政権が地方への人の還流、東京からの移住促進、企業の本社機能の移転など、東京一極集中の是正を強く意識したことは評価できる。だが、石破担当相も5年間で成果を上げることの難しさは認めている。交付金を配ったものの、当面の間は目に見える成果は出ないだろう。
 国がすべきことは、地方戦略の進捗状況をチェックして交付金の多寡を決めることではないはずだ。農業、漁業、製造業など地方を支える産業を骨太に支援し、少子化対策、地方創生への予算のあり方を見直すことである。
 一方、地方部も発想を変える必要がある。地方創生は可能である。しかし、その方法は自治体、地域、集落によって異なる。既存の自治体の枠組みだけでは難しい。さらに誰もが島根県海士町、徳島県神山町のような取組を目指しても成果は上がらない。カリスマリーダーがいなければ、自ら考えるしかない。
 地方部では中山間地域(人口減少、過疎)、市街地(やや都市部)、中心都市で分けて考える必要がある。
 中山間地域では、入ってきた富を外に出さないため、地域でお金を回すことが重要となる。地産地消、エネルギーの自給自足を考え、そこで雇用を確保する。目標は発展ではなく、「地域の維持」に置くべきである。
 そのためには、地域の雇用、産業を支えるため小規模事業者への支援や新陳代謝、起業を促す。さらに、平成の大合併で大きくなった市町村の単位ではなく、顔の見える小学校の学区から対策を積み上げる。国土交通省の小さな拠点づくり、高知県の集落活動センター、島根県雲南市の小規模多機能自治などの取組が参考になるだろう。
 都道府県庁や第2の都市ぐらいまでは、東京やブロックの中心都市に対する防波堤の意識を持つべきだ。駅などを中心としたコンパクト化を図ることで将来的なインフラ整備や社会福祉のコストを下げる。
 さらに、ここにサービス業を中心とした若者の雇用の場を確保する。公立大学、地方大学の充実を進めるとともに、都市からの高齢者が生活する場、事業継続計画(BCP)の観点から、本社機能の一部を移転する企業の受皿になることも目指すべきだ。
* * *
 地方創生で「成果が出ていない」との批判が高まれば、「創生できない責任は自治体側にある」と国が責任転嫁することもありうる。自由度が高い交付金を得て自治体が創生策を実施する半面、責任も重くなる。地方創生とは、首長、議会の能力が直接問われる政策である。


(*1)、(*2)出典:「まち・ひと・しごと創生『長期ビジョン』『総合戦略』」(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局)

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