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2015.03.23 政策研究

地方創生、難しい成果 国の責任転嫁も

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難しい少子化対策

 出生率は2005年の1.26を最低にその後は回復しているものの、出産適齢期の女性の数が減っていることから、生まれてくる子どもの数も減少している。早晩100万人を切るだろう。
 日本では戦後、1948年に優生保護法によって人工妊娠中絶を事実上合法化したことによって急速に出生数が減少した。団塊世代と団塊ジュニアという2つの大きな山をつくった。この山があることで、学校、老人ホームなどの施設整備に次々に追われ、年金や保険の設計、運用が難しくなる。その十字架を背負った上でいえることは、1970年代、出生率が2を割った頃から、少子化対策をすべきだったという事実だ。今から始めても少子化のスピードを緩和し、人口を安定化させる時期を早めるという効果しか期待できない。遅すぎるのである。
 ただ、対策をとらないよりもとった方が、この国の経済、活力にはプラスになる。「会社のため一生懸命働く」社会から、「仕事と家庭との両立ができる」社会を目指すことが必須だが、特効薬はなく総合的に進めるしかない。
 ひとついえるのは、年間100兆円を超える社会保障給付のうち、家族政策は5%程度を占めるだけだ。国や自治体はもっと少子化対策に予算を使うべきだということだ。

批判を避ける

 安倍政権が「地方創生」を打ち出したのは昨年6月頃。増田寛也元総務相ら日本創成会議が「ストップ少子化・地方元気戦略」を発表、その中で「過疎地を中心に半数の自治体が消滅する可能性がある」との試算結果を示した。“消滅可能性ショック”が走った直後からだ。
 この試算は人口の再生産を担う「20~39歳の女性人口」に注目し、「50%以上減少すると出生率が上昇しても人口維持は困難」ということが前提にある。社人研の推計では2010年からの30年間で半減する市区町村は373(全体の20.7%)だった。これに対し、増田レポートは東京一極集中が続き人口移動が収束しないとして、半減市区町村は896(全体の49.8%)と上方修正した格好になっている。
 実際、総務省の2014年人口移動報告を都道府県別に見ると、2年ぶりに減少したものの、東京都は7万人超の転入増など東京圏は10万9,408人、19年連続の転入超過となった。一方、名古屋圏、大阪圏は2年連続の転出超過となっている。増田レポートの内容が恣意的な評価とはいえまい。
 人口対策の必要性は安倍政権も強く意識しており、安倍首相が地方創生本部の新設を表明した後、閣議決定した経済財政運営の指針「骨太方針」では「50年後にも人口1億人」という目標を設定、成長戦略も改定している。1億人を維持することで経済の活力を維持したいという経済界の意向も強く反映しているといえる。
 政治的な意図もある。経済政策「アベノミクス」による財政出動、金融緩和によって株価や都市部の地価は上がってきたが、「成果を全国津々浦々まで届ける」と安倍首相が言い続けるように、地方への波及はまだまだだ。3本の矢の最後、成長戦略も「まだ放たれていない」、「的を外している」との手厳しい批判もメディアから出ており、これら批判を避けるねらいがある。
 さらに、4月の統一地方選で自民党への支持をどうつくるのか。地方創生という将来の夢をつくるコンテンツが必要と判断したと分析できる。政府は昨年12月27日、2060年に1億人程度の人口を維持するとした「長期ビジョン」と、2015年度から5年間の対策をまとめた「総合戦略」を閣議決定した。いずれも現在行われている政策を目いっぱい盛り込んだ内容のようだ。だが問題はその実現可能性にある。

ホチキス留め

 総合戦略の中には、確かに新機軸の政策もある。例えば、(1)本社機能を地方に移す企業への税制優遇措置、(2)自由度の高い交付金の創設、(3)政府関係機関の地方移転、(4)地方で就職する大学生への奨学金優遇―などだ。
 だが、「税制優遇としては不十分で、この程度で移転する会社の将来の方が心配」という声も聞く。交付金も後で詳しく述べるが、制度設計が後回しになり自治体側からの不信感を呼び起こす結果になっている。政府機関の地方移転も都道府県が「どの機関が欲しい」と国に提案する方式を採用した。提案しても来なければ壮大な無駄だ。上から目線の政策ともいえる。
 さらに総合戦略のつくりにも問題が多い。官僚の作文の域を出ていない。例えば、地方から東京圏への転入を6万人減らし、東京圏から地方転出を4万人増やして、地方と東京圏との転出入を均衡させるとの目標を立てている。つまり、2020年の東京五輪の年には、東京一極集中を止めるとしている。
 この達成度を測る目安として「地方移住の推進(年間移住あっせん件数1万1,000件)」、「企業の地方拠点機能強化(雇用者数4万人増加)」などの業績評価指標を示した。これらの業績をクリアすれば目標を成し遂げることになるかというと、必ずしもそうではない。目標と業績評価指標には有機的な結びつきはない。
 よく考えれば、「まち・ひと・しごと創生本部」の設置決定が昨年9月3日。戦略の閣議決定が12月27日と実質4か月弱。そうなると、官僚としても、既存の政策を化粧直しするか、地方側の政策を丸のみするか、増田レポートの元気戦略を採用するか選択肢は限られている。実際、全てを行った。つまり、地方創生をキーワードにして「各省庁が進める政策などを集めて整理しホチキスで留めただけ」となる。
 バブル経済の崩壊後、経済の成長戦略や再生戦略というものが幾度もつくられた。これらの政策が成果を上げているとすれば、今の状況にはなっていまい。これらに共通するのが、官僚の作文の域を出ていないことだ。総合戦略のつくられ方から心配になる。
 総合戦略はこの轍(てつ)を踏まないために「PDCAサイクル」を採用したとアピールする。計画―実施―点検―修正を続ける考え方だ。石破担当相が「ばらまきではない」と主張する根拠にもなっている。同時に、成果が上がらなくても「現在見直し中です」として批判をかわす手段にも使える。

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