一番危険なことは「誰かの言ったことを鵜呑みにする」こと
前回(Vol.45)は、現在展開されつつあるシティプロモーションの総論に言及した。今回と次回は、シティプロモーションの具体的な取組を紹介したい。しばしばシティセールスという表現も使われる。その中で本稿はシティセールスもシティプロモーションという語句に統一して進めていく。
再度シティプロモーションの意味を確認しておきたい。既存の自治体の取組を参考に、シティプロモーションを一言で表現するならば「都市や地域の売り込み」となる。そして具体的に目指す方向性として、図1のように6点ほど考えられる⑴。自治体の置かれている立場やスタンスにより、定住人口の獲得に取り組んだりシビックプライドの醸成に力を入れたり、6点の中でも取り組む優先順位が異なってくる⑵。今回は具体的な活動の中でも、認知度を高める(自治体の知名度向上)取組に言及する。
具体的な取組を紹介する前に、本稿のスタンスに言及しておきたい。それは「ヒントの提供」である(基本的に筆者の全ての論文に共通することである)。政策づくりにおいて、一番危険なことは「誰かの言ったことを鵜呑みにする」ことである。地域の事情は地域ごとに異なる。ある地域の成功事例が、そのまま別の地域に当てはまることは少ない。ある地域の成功事例を活用するときは、自分たちの地域の事情や背景、地域性に合わせてアレンジしていくことが求められる。
その意味で「誰かの言ったことを鵜呑みにする」ことほど危険なことはない。そして何よりもいけないことは、誰かの言ったことを鵜呑みにし、「考えること」を放棄している点である。もし読者が考えることを放棄したのならば、それは思考の自殺である。思考が死んでしまえば地域の発展もない。このような理由から、筆者は「ヒントの提供」を基本として本稿を作成している。
図1:シティプロモーションの主な6つの取組
①認知度を高める(自治体の知名度向上)
②情報交流人口の拡大
③定住人口の獲得
④交流人口の増加
⑤既存住民が愛着心を持ち、移出ストップ(シビックプライド)
⑥企業誘致 等
認知度拡大が大切
シティプロモーションを成功の軌道に乗せるためには、筆者はまずは「認知度拡大」が重要と考えている(これは筆者の考えであるため、読者が改めて思考していただきたい)。自治体名の認知度向上が定住人口の獲得や交流人口の増加、シビックプライドの醸成にもつながっていく。なお、すでに生活をしている住民は自分たちの自治体名は知っているだろう。そこで自治体をよりよく知ってもらうことも認知度拡大の範疇に入る。そうすることにより、今生活している住民の地域への愛着が進化・深化していく。
前回では、戸田市や熱海市、春日部市の事例紹介があった。例えば、誰かが「戸田市に住もう」と考える場合、そもそも戸田市の存在を認知していなくては居住の選択地の候補として選ばれることはない。交流人口についても同様である。熱海市の存在を知らなければ「熱海に観光に行こう」という発想は生まれない。その意味で「認知度拡大」は極めて重要である。
認知度拡大に関して示唆に富む法則がある。民間企業では、消費者が商品やサービスを購買するまでの心理的な過程を表した消費者行動分析モデルとして「AIDMA(アイドマ)の法則」がある。AIDMAの法則とは、1920年代にサミュエル・ローランド・ホール(Samuel Roland Hall)が提唱した広告宣伝に対する消費者の心理プロセスを示した略語になる。AIDMAの法則は認知度拡大の重要性を指摘している。
消費者があるサービスや商品を知って購買行動に至るまでには、次のような5段階があるとされる。第1に「Attention(認知)」になる。第2に「Interest(関心)」となり、第3に「Desire(欲求)」となる。第4に「Memory(記憶)」であり、5番目に「Action(購買行動)」に行きつく。それぞれの頭文字をとって「AIDMAの法則」といわれる⑶。
つまり5番目の「Action(購買行動)」という、自治体においては「定住してもらう」や「交流してもらう」ためには、最初の「Attention(認知)」が大切になる。Attentionに力を入れていくことが、シティプロモーションでは肝要である。昨今、自治体が地域のブランド化に取り組んでいる。これは認知度拡大を目指すひとつの行動と捉えられる。地域ブランドと認知度拡大は表裏一体である⑷。多くの人にAction(購買行動)してもらうためには、Attention(認知)を大きくとることが大切である。
AIDMAの法則は、しばしば逆三角形により説明される。Attention(認知)の何割かがInterest(関心)に移行し、関心の何割かがDesire(欲求)の段階となる。そして欲求の何割かがMemory(記憶)され、最終的に記憶の何割かがAction(購買行動)に走るのである。すなわちAttention(認知)を大きくとればとるほど、結果的にAction(購買行動)も大きくなる(図2)。このAttention(認知)をどれだけ大きくとるかがシティプロモーションでは重要となってくる。