新時代の公共に要求される判断軸
それでは、成長政策としてのまちづくりを推進する上で有効な経営を実現するための方法について考えたいと思います。議会においても成長政策を推進する事業では、人材軸、時間軸、利回り軸の3点が極めて大切になります。
ポイント❶ 【人材軸】
委任する人材への報酬・権限・保護
成長政策の目的は、限られた財を投資し、新たな財を生み出し地域を潤すことです。
その事業では、誰が主体的に意思決定するのか、ということを問う必要があります。その人に要求されるのは調整能力ではなく、限られた財を適切な対象にしかるべきタイミングで投資する意思決定能力です。しかるべき人材を確保するためには、適切な「処遇」と「権限」を与える必要があります。処遇にばかり目が行きますが、成果を出す上ではむしろ権限が極めて大切です。その人材が何について自ら意思決定できるのか。都度議会に諮っていては事業は動きません。しっかりと処遇と権限について事前に決定し、その内容を委任することを約束することが求められます。
そして、決定した内容については責任を持ち、その委任した者の業務執行を守らなくてはなりません。その委任者の一つひとつの行動に説明を求めて時間をやみくもに使わせたり、単にその人物を責め立てても地域は活性化しません。ともに地域を再生するパートナーとして対等な関係を構築できることも、地域側に求められる姿勢です。
ポイント❷ 【時間軸】
トータル/ライフサイクル全体での検証
成長政策においては分配政策とは異なり、単純にその際に活用する予算を見ているだけでは不十分です。例えば、ハード整備事業でいえば、議会などでは開発費の予算編成について議論されます。しかしながら、ハードは建てた後に維持費が開発費の何倍もかかります。特に開発時点では国から様々な支援があるハード整備事業でも、その維持費は地元負担が基本です。また、建設会社に外注して開発することはできても、その施設を運営できる体制がなければ話になりません。
そのため、建設してから解体するまでの30〜50年にわたるライフサイクル全体のコストを事前に算定し、そのコストの稼ぎ方を考えなくてはなりません。公共施設であれば長期財政計画と適合する内容であるかを考えます。商業施設であれば開発前に全ての床の借り手(テナント)を確定し、入居してもらうべきその借り手が支払可能な家賃で開発する必要があります。
ソフト事業であっても、その事業によって生み出す目標成果について数字で検討する必要があります。成長政策であるからには、投資した金額以上のリターンがなければ、その事業は地域で赤字を引き起こしている事業であって全く意味がありません。使う予算の中身の精査や不正の点検だけでなく、その予算によって生まれる事業全体での収支を捉えることが必要です。それは経済効果のような眉唾の試算ではなく、しっかりと損益計算書に表れる事業実績でなければなりません。
時間軸に基づいた広い視野を持って協議・検証を議会で行わなくては、成長政策のはずが衰退を加速する結果を招きかねません。
ポイント❸ 【利回り軸】
運用利回りこそ成長政策の成果
従来の議会・行政機構では、予算の精査をし、その金額を抑制することを中心に議論されてきたところがあります。コストカットの視点です。しかしながら、これはまさに分配政策と同様の扱いをしている証拠です。成長政策に必要なのは、単なる縮小均衡ではなく、運用利回りという観点での議論です。
ハード整備においても単に支援をしてその副次的効果によって地域経済効果を得ようという考えは甘いです。その施設経営そのものが黒字にならなければ、その事業は破綻してしまい、地域経済効果は得られません。だからこそ、その施設経営において健全経営が可能な運用利回りを議論する必要があります。
今持っている自治体公共資産についても、活用していないものは積極的に活用することも十分に成長政策です。従来は全て単独目的の公共資産だった学校・図書館・役所施設などにも積極的にテナントなどを入れたり、公園や道路などでのイベントや事業が可能な開放を行うことも考えられます。すでに一部の自治体ではこのような取組が成果を挙げています。
ソフト事業においても同様で、取組がどれだけ成果を挙げるのか、投資金額に対して「集客数」などではなく、しっかり金銭的な利回りを評価する必要があります。
利回りが低い、若しくはマイナス(赤字)となるような事業に投資をすればするほど、その地域は衰退していきます。投入した財は使われる一方で、成果として生まれる財はたいして大きくなかったり、地域外に流出してしまっている場合も少なくありません(確実な利回りを期待する上では、前号の後続投資をぜひ参照してください)。
議会においても、このような運用利回りの視点を持った事業評価の観点を適切に成長政策に用いる必要があります。
おわりに
本稿では、従来のまちづくりが分配政策の一環で行われてきた時代の手法のまま、成長政策としてのまちづくりが実施されて失敗を繰り返してしまっている原因を整理し、解決する上で重要な3つの軸を提言しました。
議会として、今後のまちづくりが地域活性化という要求に適合するための進め方をしているのかを注意し、必要な支援を行うことは極めて大切であると思います。事業が成果を収めるためには、実は従来の政治・行政における手法とは異なる、経営的な手法を用いる必要があるシーンが多く、議会において経営的視点からの質問を行うことで、まちづくりは地域活性化につながる可能性が高まっていくものと思います。
まちづくりに新たな経営的な手法が積極的に用いられるよう、政治の場からも動きが広がっていき、地域活性化につながることを願ってやみません。
⑴ 斉一性(せいいつせい)の圧力……社会心理学の用語。人は自分の判断に自信が持てない場合に、信頼する人々の判断や意見に同調しようとする。このような同調行動を斉一性の圧力という。また、ある特定の集団が集団の内部において異論や反論などの存在を許容せずにある特定の方向に進んでいくことを、「斉一性の原理」という。多数決で意思決定を行う場では起こらず、全会一致で意思決定を行う状況で発生する。