危険! 失敗事例に見られる共通パターン
それでは、「成長政策」でありながら「分配政策」型の手法を用いてしまい失敗した事例を、ハード事業・ソフト事業双方から整理したいと思います。
ケース1 ハード事業における失敗パターン
まちづくりにおけるハード事業は、長らく分配政策の一環として行われてきました。ハード整備が不足している状況を打開して近代化を図るという形で、中央からの資金が分配されてきました。それを様々な開発で活用し、域内で分配することには、一定の合理性がありました。
しかし、近年ではハード事業に求められる役割が変わり、ハード事業として開発した施設によって衰退する地域経済を成長させようというねらいを持つようになりました。つまり、成長政策としてのハード事業です。
このようなハード事業の失敗が顕著に現れるのが、再開発や区画整理事業です。近年、中心市街地などの活性化を目的として開発された商業・公共・住宅の複合巨大施設が、次々と経営難・経営破綻に追い込まれていっています。先日、エリア・イノベーション・アライアンス(AIA)が発行する週刊情報誌「エリア・イノベーション・レビュー」(http://air.areaia.jp/)でも特集した、全国7か所の目立った再開発事業の事例調査レポート「あのまち、このまち失敗事例集『墓標シリーズ』」(http://goo.gl/BYibD0)においても、それぞれが開発後、数年の後に経営難・経営破綻を起こしています。ある政令市では、315億円を費やしたものの2年半で破綻し、最終的に転売を重ねた上で市が買い取り、さらに30億円かけた改修工事まで行うはめになった事例さえあります。都市規模が大きくても、投資金額が大きくても、補助率がどれだけ高くても、潰れるものは潰れてしまう。そういう時代です。
そのような失敗するハード事業の共通点は、以下のとおりです。
失敗するハード事業の共通点
【STEP 1】 制度(区画整理事業・市街地再開発事業・商業床補助金[経産省系]等)や専門家助言にのっとり、自治体主導で委員会や協議会でいく度となく計画を協議し立案。
【STEP 2】 支援制度の受皿として第三セクター方式で開発会社を設立、補助金を活用し、入札を行った事業が建物を建設。
【STEP 3】 早期に経営破綻若しくは経営難となり、自治体の救済支援が発動。
【STEP 4】 救済支援も実らず破綻。破綻後の再建のため財政出動。
【STEP 5】 それでも結果は実らず再破綻し、施設が廃虚化、又はほぼ公共施設化によって収拾を図る。
決して誰かが不正をしているわけでも、あえて失敗を誘発しようとしているわけでもないでしょう。しかしながら、地域活性化のために取り組んだはずの開発事業は失敗し、それを埋め合わせるために税金がさらに使われて、地元の財政をむしばみ、結果として地域をさらに衰退させる原因となってしまっているものが多くあります。
近年は、計画段階から民意を反映させるため、いく度となく議会での協議とともに地元合意といったコンセンサスを重要視して計画策定を行っています。さらに専門家も招へいされ、様々な視点から検討されます。そして事業の規模は地元協議の内容を踏まえつつ、支援制度の予算金額などから決定され、設計や施工は入札で外注先が決定され、運営は大抵、第三セクターや地元企業に任されます。しかしながら、計画も開発も全て、地元でのコンセンサス形成を重視し、公平な入札も行い、専門家の助言を聞いていながらも、事業は失敗してしまうのです。
なぜならば、分配政策で行っていた方法を、そのまま成長政策でも用いているからです。
前号で述べたように、現在では減少するパイの中で逆算型で計画を組み立て、後続投資を決定するのが原則です。しかし、成長政策で分配政策型の手法を用いると、コンセンサスを優先し、入札などの手続を重要視するばかりに、先行投資型になってしまうことが多くあります。そして皆の意見を聞けば聞くほど、事業のインパクトを大きくしようとすればするほどに計画は常に過大になってしまいます。分配政策ではそのような手法も一定の合理性があったのでしょうが、成長政策においては経営破綻する要因にしかならず、地域のお荷物を増やすことになります。
ケース2 ソフト事業における失敗パターン
実は、ソフト事業分野においても失敗パターンがあります。まちづくり分野では、委員会や協議会だけでなく、ワークショップなど、皆で取り組むプロセスに対するソフト事業手法がたくさんあります。しかしながら、これらも全てはまちづくりが分配政策として機能する際に適切なものなのです。
衰退する地域において活性化を目指す上で、皆で集まり、ポストイットを大量に使ってアイデアを出し合って、それを大きな模造紙に貼り、整理をしたところで何も解決はしません。皆が合意するだけで、地域の衰退が解決されはしないのです。立派な報告書をつくっても、立派な模型をつくっても、何も解決しません。
ワークショップやイベントでは、参加者は極めて大きな満足感を得ることができます。不安だった問題が整理されたり、自分たちが取り組んだ成果が新聞などに取り上げられれば自信を持ちます。自分たちの地域は特別だと思うかもしれません。しかしながら、それでも地域自体の問題は解決しないのです。多くの税金をかけて、住民が多くの時間を投入しても、ワークショップのようなソフト事業では何も変わらないのです。多くの場合、そのプロセスで満足してしまい、皆は結果を出すために行動しようとしません。
成長政策では、ソフト事業においても他の地域に対していかに優位性を持った取組を行うか考え、経営的に取り組む必要があります。イベント事業ひとつとっても、従来は補助金で開催し、その運営などは全て合意形成を基にして実施されてきました。しかし、それでは成長政策になりません。
成長政策とする場合には、数名のチームが自ら企画し、農作物や手づくり製品の販売や飲食を行うマーケットを定期的に開催する事業を展開し、そのコンセプト、出店する店舗の選定で特色を出して周囲の地域と競争します。出店料収入等を得て全体の運営予算を賄うように事業的な継続性も担保します。さらに、それらマーケットの出店者の中から経営的に優れた人を集め、地域内で使っていない建物などで店舗を開設するといった出口まで用意する一連の取組となってこそ、成長政策としてふさわしいものとなります。地域内でこのような主導的なチームが複数現れることこそ、地域が成長する上で極めて大切です。なぜならば、確実に成功する事業などというものはないからです。様々なチームが地域で新たな取組を興し、成果が生まれたものが残っていく。そのプロセス全体を通じて、結果として資源を拡大していく成果を生み出すことにつながるのです。
失敗パターンに学べ
●「分配政策」と「成長政策」は目的によって使い分けないと、本来期待する成果を得られない。
●ワークショップやイベントで立派な報告書をつくっても、それだけでは地域間競争に生き残るための成長に結びつかない。