経営するまちづくり、もうひとつの視点
前回の「『経営する』まちづくり(上)」(本誌Vol.43)においては、人口減少社会における従来の先行投資型地域開発の問題を整理した上で、地方における成功した都市部・農村部・その中間に位置する小規模地域の3つの実例をご紹介しました。確実に社会の局面が大きく変化した中で、従来型の活性化手法は逆に地域に致命傷を与えかねません。そして現在成果を残している様々な事例には従来と全く異なる、後続投資の方法が用いられていることを解説しました。
さて、今回は地域をひとつの会社として見立てた上で必要となる、「経営」するまちづくり政策全般の新たな視点についてご紹介したいと思います。従来のまちづくりは、政治行政学、都市計画など、様々な視点が入っていますが、一方で「経営」という視点は抜け落ちてきました。経営は「限られた資源を有効に活用して、最大の効果を引き出す」方法として、軍事組織・企業組織・非営利組織等、幅広い分野で100年以上にわたり実践と研究が続けられてきました。この過程で、様々な技術的なイノベーションが起こり、我々の生活は近年著しく向上してきました。
今後のまちづくりにおいては、この経営の視点は不可欠です。しかし一方で、経営の視点は従来の学問的分野とは前提が異なることが多くあります。本稿では、活性化・成長を目指す地域政策において重要な、経営的アプローチについて解説したいと思います。
「分配政策」と「成長政策」
地域の活性化を目指す成長政策が失敗するときは、公平と平等、民主的プロセスによって正解に近づこうとする分配政策と同じアプローチを採用していることが多くあります。「新たなパイを生み出す」ということと「限りあるパイを公平に分配する」ということとは、全く異なる判断基準が要求されます。
従来のまちづくり、地域活性化という分野は、大きく2つの分配政策で成立してきました。①中央からの資金の分配と、②地域が成長して生まれる新たなパイの分配─です。どちらにしても、地域内で公平・平等に分配するため、各種事業は入札などで公平性を担保したり、住民参加により利害関係者のコンセンサスを形成して民主的に行うようにするための工夫をたくさん行ってきました。
しかし、今は中央からの分配が減り、地域での成長も失われる衰退の局面に入っています。つまり分配政策だけでは無理で、新たな資源を生み出す成長政策が求められています。まちづくりは分配政策から成長政策へと転換することが求められています。
このときに、成長政策は大きく分配政策と異なる性質を持っています。限りある資源を公平に分配するのではなく、新たな成長に向けて「見極」め、一定のリスクを負って「投資」しなければなりません。
分配政策と成長政策の違いを理解し、適切な方法を用いる必要があることを皆で認識することが重要です。しかしながら、長きにわたり分配政策として取り組んできたまちづくりは、いまだ成長政策に有効な方法に転換できていません。そのため、うまくいかず、失敗が相次いでいます。
「分配政策」と「成長政策」
●中央からの分配が減り、地域での成長も失われ、従来の「分配政策」だけでは地域は活性化しない。新たな資源を生み出す「成長政策」が求められている。
●分配政策と成長政策の違いを理解し、適切な方法を用いる必要があることを認識しよう。