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特集 地方創生

2014.05.12 まちづくり・地域づくり

「経営する」まちづくり(上)~先行投資型地域開発の常識を疑え~

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後続投資モデルのプロジェクト

今回は、後続投資モデルで成果を収めているプロジェクトを3つご紹介します。

(1)岩手県紫波町における民間がつくる公共施設
 まずは公共施設開発に絡むプロジェクトです。公民連携事業という新しい枠組みで挑戦したオガールプロジェクトは今、全国から注目を集めています。
 紫波町は岩手県中央部に位置する人口3.3万人ほどの町です。財政状況も芳しくない同町は、東北本線・紫波中央駅前の約10ヘクタールの土地を約28億円で県から買ったものの開発予算を捻出できずに10年来、その土地を放置していました。単独での公共施設開発は無理と判断するとともに、土地の価値を向上させて町民資産の改善を目指そうと考えた同町の藤原町長は、民間資金を活用した公民連携事業を推進することを決断しました。
 その中核施設のひとつであるオガールプラザの建設・開発は、完全に前述の後続投資型で実施されました。オガールプラザは図書館などの公共施設棟と、カフェや産直施設などの民間事業棟とが一体となっている公民合築施設です。

公園でも道路でもないため、自由に利用できるオガール広場公園でも道路でもないため、自由に利用できるオガール広場

 従来の開発手法と異なる特徴は、3点あります。
 1点目は、開発主体を自治体ではなく、株式会社とすることで高効率の施設を整備し、しかも稼ぐ公共施設を生み出し、地元経済と自治体財政を潤しています。
 この施設全体の開発は、株式会社オガールプラザが主体となって市中銀行などから資金調達を実施し、開発しました。施設開発自体に補助金・交付金は入っていないばかりか、公共発注と比較して2〜3割は安価に開発されています。安価な開発費でつくられたことで、公共施設部分の利用料も安価に、さらに民間事業棟に入居するテナント賃料も安く設定できるようになりました。また、民間事業棟部分からは固定資産税収入、並びに町有地の上に建設されているため定期借地契約に基づき家賃収入が自治体に入り、この増収分を活用して公共施設部分の運営予算の根拠としています。
 2点目として、開発前に全てのテナントと契約を済ませた上で施設の規模などを定め、適正な資金調達を行うことで、事業の確実性を高めた逆算建築手法を採用しました。
 まさに後続投資型の極意です。全国では予算を先に決定して施設開発したもののテナントがつかず、破綻する開発事例が後を絶ちません。オガールプラザは全てのテナントを決定し、その上で入居者の無理のない、利益がしっかりと生み出せる家賃金額を設定できるよう建物の規模、内容を固め、開発費を調整しました。結果として、利回り17%を超える健全な経営を実現しています。
 3点目として、開発によって周辺の地価・家賃が上昇していることです。
 予算を絞った地味な開発をすると経済効果が縮小すると考える人もいますが、開発投資は所詮一過性のものです。公共施設の集客を生かし、稼げる環境、便利な環境をつくり出せば、出店したい、住みたいという人が増加し、毎年経済活動は拡大、周辺の地価も引きずられて上昇していきます。

想定を超える入館者数を記録し、民間事業棟にもプラス効果を生み出すビ ジネス支援を意識した図書館想定を超える入館者数を記録し、民間事業棟にもプラス効果を生み出すビジネス支援を意識した図書館

 紫波町の藤原町長は町民資産の価値を上げることを一貫して掲げていました。だからこそ、公共投資を優先させるのではなく、民間投資を呼び込み開発事業を成立させ、公共財源の拡充とサービスの充実を両立し、地域産業活性化につなげたのです。
 現在、年間50万人以上の人がオガールプラザを訪れるようになりました。町内農作物などを販売する産直施設「紫波マルシェ」の売上げは初年度3.6億円を超え、次年度には4億円を超える予測を掲げています。入居した店舗などでは合計70人規模の雇用が創出されました。間接的成果だけでなく、固定資産税、定期借地権に基づく家賃など紫波町としての収入も直接的に拡大しています。
 同町のプロジェクトは先日の土地活用モデル大賞国土交通大臣賞を受賞しました。詳細は、「稼ぐインフラ──人口縮小社会における公民連携事業」(http://synodos.jp/society/6053)を参照ください。

ポイント
●本事業を推進するに当たり、町長が筆頭となって公民連携事業に関する住民説明会を100回以上実施。町内の理解を自ら呼びかけました。行政マンに説明を任せるのではなく、議員だからこそ地域住民から信頼し理解してもらえる力があります。藤原町長いわく「壊れたテープレコーダーのごとく、同じことをちゃんと伝え続ける」ことが重要です。
●一貫性のある経営方針を持ち続けることが大切です。途中で政治的・行政的に事業規模の変更を要請したり、補助金や交付金を入れるなど横やりを入れてしまえば、オガールプラザは現在のカタチにはなりませんでした。開発から運営までを適正な民間に任せ切る政治決断が地域にとって成果を残しました。

(2)愛知県春日井市勝川の古民家リノベーション「TANEYA」
 続いて、住宅近隣の商店街における、空き店舗対策に関する事例をご紹介します。
 愛知県春日井市にある小規模な商店街である勝川商店街も周囲の大手資本、ネット店舗との競争などで苦戦している商店街のひとつです。

放置されていた店舗兼民家を5人の若手経営者のシェア店舗として民間主 導の再活用放置されていた店舗兼民家を5人の若手経営者のシェア店舗として民間主導の再活用

 この勝川商店街に、5年ほど前に店主の高齢化に伴い廃業した空き店舗がありました。この空き店舗を改装し、新たな借手に貸そうというプロジェクトが昨年夏にスタートし、先日1月10日に無事新たな借手たちでグランドオープンを迎えました。
 この空き店舗を改装し、新たな借手に貸し出すプロジェクトもまた、需給逆転を意識した後発投資型で成果を収めました。しかも、ここにもまた補助金などは一切入らず、民間の取組として再生を果たしています。
 まず建物を改装する前に、新たに地元で開業、若しくは新たに支店を出店しようとしていた事業者を先に地元を回って開拓し、13名ほどが名乗りを上げ、そのうち5名を選抜。この5名が支払可能な家賃金額を算定し、その金額の合算を基にして、約2年で投資回収する計画で計算し、改装予算を決定しています。

まちに新たな層の顧客を取り込むまちに新たな層の顧客を取り込む

 このように先行投資を避けて客付けを行い、期待収益に基づく後続投資金額を決定することで、家賃を補助金で支援する必要もなくなりました。それでも、地域での新たな創業・雇用を促進し、なおかつ空き店舗を活用することができたのです。現在このような事例は、都市部から農山漁村部まで幅広く見られるようになっています。

ポイント
●何でも支援ありきで考えると、当事者たちは依存体質になり、活性化は遠のきます。支援しない親切というものもあります。
●現在いる商店主だけの意見を聴くのでなく、今後出店してほしい若者たちのいう条件に合う取組を行うことが大切です。商店街のルールに従わせるのではなく、商店街のルール自体を変えていかなくては、もはや誰も出店したいとは思わないからです。

(3)高知県四万十町における地域商社・四万十ドラマの取組
 3つ目の事例は、農山村エリア、高知県四万十町の事例です。同町は人口1.7万人という小規模な町で、もともとは林業や栗、原木しいたけなどを主力産業としてきた地域でしたが、長らく衰退に頭を悩ませていました。
 このような状況を打破しようと、20年前に地域にひとつの会社が設立されました。それが地域商社「株式会社四万十ドラマ」です。現在では、地元の栗製品やお茶製品、木材に関連する商品を加工、販売して年商約3億円を売り上げる地域の主力企業に成長しています。
 四万十ドラマの取組でも、商品開発のプロセスにおいて後発投資のモデルが用いられています。
 例えば、同社の主力商品のひとつに栗製品があります。ブランド化された現在の「しまんと地栗」渋皮煮は1瓶2,500円で販売されていますが、かつては、地元の栗はペーストに加工され、モンブランなどの原材料として他地域の栗と混ぜて使われていました。そのため卸価格も安く、お金にならないため栗の実を拾うことがなくなってしまいました。四万十ドラマがこれを地域で解決するためにとった手法は、いきなり独自商品化に投資するのでも販路を農協などに丸投げするのでもなく、まずはこの栗ペーストの独自営業を行い、その仕入れルートの卸業者とのお付合いを固めていくことでした。

独自の栗製品を開発し、ペースト販売では生み出せない付加価値を生み出す独自の栗製品を開発し、ペースト販売では生み出せない付加価値を生み出す

 その中で、「せっかく国産かつ四万十の栗なのだから、より加工して自分たちで販売してはどうか」との提案が出てきてから、初めて商品開発の方向性を決めていったのです。生産地でありながら、商品開発ではなく、まずは販売ルートの開拓から始めたのです。結果的に、渋皮煮を開発するため加工業者とも提携して「しまんと地栗」ブランドも生み出し、年商数千万円を売り上げる商品に成長させました。現在では栗が足りなくなるほどです。このようにまず営業から始めていき、その上で商品開発につなげていく先行投資型ではないこのやり方こそ、農山漁村地域における6次産業化にも参考になると思います。

新聞を活用したバックのつくり方を全国に販売。ニューヨークにも進出する新聞を活用したバックのつくり方を全国に販売。ニューヨークにも進出する

ポイント
●農山漁村の活性化においても、営業が極めて大切です。交付金などを活用して珍しい機械を導入したり、有名な専門家を招くよりも、まずは地元の今ある製品を既存の流通網や団体に任せ切りにせず、しっかり自分たちで営業することで、商品開発のヒントとし販路が獲得できます。営業なき農山漁村活性化は不可能です。
●四万十ドラマでは、地元出身者や地元を応援してくれる人たちを集めた集まりを東京で開催して、販路をさらに確保しています。どこの地域でも出身者が東京にいたり、また地元を応援してくれる人はいます。彼らに営業ルート開拓などで協力してもらうことは効果的です。

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