経営的なまちづくり
私は1998年に早稲田商店会によるまちづくりの取組に参加したのが契機となり、2000年に全国商店街の共同出資会社の社長を引き受けたほか、東京財団や経済産業研究所などいくつかのシンクタンクにおいて調査研究にも携わり様々な経験をしてきました。
4年前には全国各地のまち会社が合同して地域活性化の民間事業開発を行うエリア・イノベーション・アライアンス(以下「AIA」という)という団体を立ち上げ、現在は17地域が連携しています。
我々の取組は「経営」という視点に基づき、地域にとって経済的な利益を生み出していくために必要な事業を開発していくことに徹しています。AIAの収入源のひとつは、各地域でリスクを負って事業開発し、その事業の利益の一部を手数料として受け取る成果報酬モデルです。従来のように計画を立てるだけで行政から膨大な手数料をとるコンサルティングに問題意識を持っているため、このような収益モデルを確立しています。
本稿では、このような経験から我々が関わる地方の都市部、農山漁村部における地域課題解決について、その「方法」と「実例」を紹介します。
縮小都市時代に求められる地域経営
現在、人口縮小の問題はあらゆる場面で語られています。2050年に向けて人口が増加する地域はわずか2%にとどまり、その他は大幅に減少します。従来のような拡大を基本としたら自治体経営が成り立たないばかりか、後々地域を担う人たちが大変苦しむことになります。場合によっては破綻さえ考えられます。
今、地域再生事業を仕掛ける際に最も注意を払うべきは、「事業開発手法の大変革」です。従来成功とされてきた事業開発の手法がほとんど通用しなくなり、逆に、従来非常識とされてきた事業開発の手法が今、全国各地で成果を上げ始めています。
終戦から半世紀の間の地域経営は、増大する人口、拡大する経済の下で「いかに需要に供給を追いつかせるか」が課題であり、戦後の事業開発は「先行投資型」、つまり供給量を増加させるために先行投資をすることが、行政・民間ともに合理的でした。
しかしながら、時代は逆転してしまいました。
人口縮小社会では、常に需要が供給を下回るようになりました。これは民間だけに限らず、行政が行う各種産業活性化事業にも当てはまります。生産しても買手がつくか分からない時代に、従来のような計画を立てただけで多額の先行投資をすると、失敗してしまいます。
多くの地域では、再開発事業という名の地域活性化の切り札だったものが、むしろ足かせになっている現状があります。農山漁村部でも、6次産業化において補助金を活用して、加工施設を整備し、独自商品をつくったものの販売の見込みがつかずに放置されてしまったものも少なくありません。
これは、世の中の需給関係が確実に逆転してしまい、かつて「正解」だった方法が今は「不正解」になってしまっているにもかかわらず、方法を逆転させていないからだといえます。
そうと分かればやることは簡単です。
需給関係が逆転したのですから、従来の「先行投資」をやめて、「後続投資」に変更するのです。後続投資とは、先に営業などを行って需要を確保し、その需要量に対応して逆算した投資を行うという、かつては非常識と思われた方式ですが、今の時代には適合します。
近年、都市部でも農山漁村部においても、成果を上げているプロジェクトは需給関係の逆転を意識した上で、先行投資をせず、しっかりとした後続投資モデルを採用しています。過去の常識を捨て、今の環境に合わせた事業開発手法の採用が、地域経営において重要なテーマとなっています。ここからは実例を挙げ、解説していきます。
キーワード
●人口増加から人口縮小に変わり、需給関係が逆転した現在、方法も従来と正反対にしなくてはなりません。これは政治、行政、民間分け隔てなくいえることです。
●地域の生き残りをかけて戦う上では、経営的な視点が有効に働きます。貴重な地域資源を無駄に使わないよう、自治体も、産業活性化も経営を意識した取組を行う必要があります。