東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
自治体にとって、住民は、行政への統制主体ではあるが、行政による政策対象でもあり、行政需要を左右する。そもそも、行政需要は自動的に認定されるものではなく、住民からの要求によって行政ニーズとして認定される。一般に、住民人口数が増えれば行政需要も行政ニーズも拡大する。しかし、すべての住民が、単位費用的に、一人ひとり同じ行政需要を持つわけではない。行政への主体であり行政からの対象でもある住民は多様である。どのような住民なのかによって、行政需要のあり方は変わる。とはいえ、個々人の多様な個別需要を把握することは、必要かもしれないが、簡単ではない。そこで、ある程度に類型化して集計し、住民の多様性を把握する。
このときに、人口分布上の年齢階層・年齢構成は、大きな要因となってきた。端的にいえば、高齢層は壮年層よりも、行政需要が大きくなる傾向がある。その意味で、人口構造の中で、高齢人口比率は重要な指標とされてきた。自治体間・地域社会間では、高齢人口比率に大きな違いが見られる多様性が存在している。
生産年齢人口・従属人口
同様に子ども層も、壮年層よりも行政需要が大きくなる傾向がある。高齢者(老年人口・老齢人口)と年少者(年少人口)を合わせて、「従属人口(従属負担人口)」と呼ぶことがあるのは、「生産年齢人口」である壮年層による何らかの扶養・負担が必要だからと考えられてきたからである。「生産しないで負担になるだけ」というような「生産」重視の「効率」・「優生」思想が、あるいは、生産しない者は権力関係で従属的な地位に甘んじるはずという「優生」思想が、「人口学」なるものの概念や専門用語の選択の中に、さらには行政の政策の中に、埋め込まれているといえよう。そして、壮年層が、高齢層・子ども層を、行政を介しないで、私的・家族的又は地縁的に、扶養するだけでは行政需要には反映しないが、通常は、壮年層の負担が社会化・共同化・権力化されているので、行政需要に反映することが多い。
生産年齢人口が多い方が、従属人口が少ない方が、経済社会としては余裕があるともいえる。こうした状態に向かう局面を「人口ボーナス」という。逆の状態に向かう局面を「人口オーナス」という。生産年齢人口が多い状態を生み出すには、従属人口である年少人口を減らす少子化が短期的には有効である。子育て負担の回避である。しかし、それは、中期的には生産年齢人口を減らすことになろう。また、生産年齢人口が多い状態は、経年と加齢とともに、いずれは退役して高齢層という従属人口を増やすことになる。つまり、当面の人口ボーナス局面は、中期的には人口オーナス局面を招く前哨にすぎないことも多い。そう考えれば、人口ボーナスによる経済成長は、将来の経済停滞の先食いにすぎない。
人口オーナスを避けたければ、高齢人口が早期に寿命を迎える「短寿社会」(「長寿社会」の反対)か、生涯現役・活躍を目指すしかない。前者は「PPK(ピンピンコロリ)」を目指す処世術であるとともに、「姥(うば)捨て社会」というディストピアでもある。後者は「不老不死」の妄想でもあるが、輪廻(りんね)転生しないままの「永遠の業苦」の世界でもある。
従属人口が少ない地域社会は、行政需要が小さいから行政運営としては安逸である。もっとも、行政需要が乏しいということは、行政の必要性も乏しいことになるから、行政の存在価値も下がる。他方、従属人口が多ければ行政需要も大きいので、行政への期待は高まる。しかし、行政活動を支える資源を、生産年齢人口の少ない地域社会が生み出すことも容易ではないから、行政運営は困難を極める。つまり、行政はどの局面においても、それぞれに困難を抱える。
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