東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
自治体の多様性といっても、自治体という政府団体の多様性なのか、自治体の直面する地域の多様性なのかは、必ずしも判然とはしない。そもそも、自治体──例えば、東京都──は、地方公共団体という自治体政府団体(法人)を指すとともに、地理的な東京都域という空間・区域・地域及びそこでの人間活動などを指しているからである(1)。もちろん、自治体の直面する地域社会の多様性は、必然的に、自治体という政府団体の活動の多様性につながるだろうから、両者は一体不可分であるともいえる。しかし、時には両者を区別する必要もあろう。
今回は、地域社会の経済面での多様性に焦点を当てて論じてみたい。
富裕・貧困自治体
自治体間でしばしば関心を集めるのが、自治体間の経済・経営状態の違いである。通常は、財政力に注目して、富裕自治体から貧困自治体までの連続帯の中に、個別自治体が位置付けられることになる。自治体政府は財政力の点で多様である。財政調整制度は、こうした自治体間の財政力の格差を調節するものである。また、地方税源の偏在是正措置や、偏在性の低い地方税体系の構築は、税収力で見た財政力の格差の是正である。こうした措置が完璧であれば、少なくとも、自治体という団体の財政力での多様性は存在しなくなる。しかし、現実にはそうではない。そのため、富裕自治体から貧困自治体まで、多様な自治体が存在することになる。
もっとも、自治体の財政力は、自治体という政府団体自体の経済・経営活動から生まれるものというわけではない。むしろ、地域社会の経済活動の活力に、自治体は財政力を「寄生」して「しのぎ」をしているだけである。多様なのは、自治体という団体の財政力そのものではなく、自治体が「縄張り」としている地域社会の経済力である。地域経済が豊かであれば、自治体の財政力も豊かになり、その逆もいえる、ことが多いだろう。
もっとも、地域社会の貧富と、自治体政府団体の貧富とは、必ずしも相関・連動しないことはある。上述のように、財政調整が強力であれば、地域社会が貧しくても、自治体政府を豊かにすることは可能である。例えば、島根県という自治体政府の住民人口1人当たりの一般財源は、東京都のそれよりも相当に高い。これは、財政調整制度などの効果による。また、地方税の税源を付与しなければ、あるいは、制約していれば、地域社会が豊かであっても、自治体政府の財政力は貧相なままであることも起きる。また、地域社会の経済活動が旺盛でも、それ以上に財政需要が大きければ、自治体政府の財政状況は厳しいものとなろう。
また、しばしば、自治体という政府団体が政策として、「稼ぐ力」とか「稼ぐ自治体」などと提唱するが、これは全くの的外れともいえる。自治体という政府団体が「稼いでいる」のではなく、地域社会の活動主体が「稼いでいる」から、自治体がその「上前」をはねているだけである。とはいえ、地域社会の活動団体が経済を活性化できるように、自治体政府が政策を展開し、これが功を奏することもあろう。したがって、全くの「たかり」、「便乗」とは限らない。しかし、自治体政府の経済政策・地域振興政策の効果は限定的のことがしばしばであり、多くの場合には「たかり」と「便乗」なのである。東京都や港区という自治体の経済政策が優れているからではなく、単に経済活動がこの区域で活発だから、財政も潤沢になっているだけである。
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