東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
自治体は行政団体であるため、民間企業・事業者・経営体など(以下、単に民間企業)と共通する原理で経営をすることは困難である。それゆえに、民間企業のような効率性・有効性を発揮することが難しい、と考えられることが多い。いわゆる官民コスト論争による直営主義の敗北などは、こうした通念の一つである。もっとも、民間企業が効率的・効果的であり、行政団体が非効率的・非効果的であることが常に成立するわけではない。さらに、仮にそうであったとしても、その理由にも様々なものがあり得る。そして、その理由次第によっては、行政団体は民間企業のような効率性・有効性を、原理的に発揮し得ないこともあろう。
民間並みの経営性の難しさ
行政団体と民間企業との経営性の相違の理由にはいろいろある。
第1は、人件費構造である。例えば、民間保育所は、公立保育所より効率的経営のことがある。しかし、その実態的理由は、民間保育所での保育士は、非正規雇用のための低賃金であったり、正規雇用であっても「寿退職」、「おめでた退職」を実質的に強要して年齢を抑え、経年とともに生じ得る賃金上昇を抑えることができるからかもしれない。これに対して、公立保育所の保育士は、正規雇用のために、自治体正規職員としての給与水準が保障される。そして、任期の定めのない勤務形態なので、原則として定年まで勤め続けることができ、また、結婚・出産などを気にして辞めさせられることが少ない。それゆえに、勤続年数とともに徐々に給与水準が上がる。このような保育士の人件費構造を反映して、民間と公立の経営効率が異なるかもしれない。
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