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2021.08.25 議員活動

第7回 ドローンの利活用から「政策の実現」を考える

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弁護士 中川洋子 

「地方自治勉強会」について

 この勉強会では、議員と弁護士とが、裁判例や条例などを題材にして、それぞれの視点からざっくばらんに意見交換をしています。本稿では、勉強会での議論の様子をご覧いただければと思います。発言者については、議員には〔議〕、弁護士には〔弁〕をそれぞれ付しています。
 なお、勉強会は自由な意見交換の場であり、何らかの会派、党派としての見解を述べるものではありません。

〔今回の勉強会の参加者(五十音順)〕
石田慎吾(元品川区議会議員)
江口元気(立川市議会議員)
加藤拓磨(中野区議会議員)
滝口大志(弁護士・第一東京弁護士会・丸の内仲通り法律事務所)
千葉貴仁(弁護士・第一東京弁護士会・東京リーガルパートナーズ法律事務所)
中川洋子(弁護士・第一東京弁護士会・榎本・藤本総合法律事務所)
中村延子(中野区議会議員)
渡邉健太郎(弁護士・第一東京弁護士会・堀法律事務所)

ドローンと地方自治について

滝口大志〔弁〕 今回は、昨今その利活用が着目されている「ドローン」をテーマに議論していきたいと思います。
千葉貴仁〔弁〕 いきなりで何ですが、この勉強会は地方自治がテーマのはずです。「ドローン」と地方自治の関連性が見えてきませんので、まずはご説明ください。
滝口〔弁〕 そもそも「ドローンは地方自治と関係があるのか」という疑問もあるかもしれませんが、実際には、全国各地の条例でドローンが規制されています。また、中野区においては自治体レベルで先進的な取組みがなされています。ドローンは地方自治にも密接に関連するテーマなのです。
加藤拓磨〔議〕 後ほど、中野区での取組みについて私からご説明いたします。

「空の産業革命」について

中川洋子〔弁〕 今回は私が発表を担当させていただきます。ドローン利活用は「空の産業革命」とも呼ばれており、現在、ドローンビジネスが急拡大しています。日本国内の市場規模は2020年度が1,841億円(前年度⽐31%増)で、2025年度には6,468億円に達するとの予測もあります(春原久徳=青山祐介=インプレス総合研究所『ドローンビジネス調査報告書2021』(インプレス、2021年)による)。
滝口〔弁〕 ドローン利活用の具体例を教えてください。
中川〔弁〕 テレビ番組やスポーツ番組等での空撮映像はもうすっかりおなじみですね。東京オリンピックの開会式ではドローン自体がアートとしても使われていました。このほかにも、農業(ドローンによる農薬散布)、防災(⼤規模災害や化学⼯場での事故調査)など実に多岐にわたって活用されています。物流では、ドローンによる荷物配送が社会実験のレベルに達しているとの報道もあります。

ドローン規制について

滝口〔弁〕 ドローン規制の法整備について概要を教えてください。
中川〔弁〕 2015年4⽉に⾸相官邸屋上でドローンが発⾒されるという事件がありました。この事件を機に航空法が改正されて、重量200グラム以上のドローンは「無⼈航空機」に該当し、⾶⾏空域、⾶⾏⽅法といった規制の適⽤を受けるほか、登録制の対象となりました。
滝口〔弁〕 条例レベルではどのような規制がありますか。
中川〔弁〕 条例による規制としては、公園・公共施設におけるドローンの使⽤禁⽌が主なものです。例えば「東京都⽴公園条例及び東京都海上公園条例」が、都⽴公園、庭園計81か所におけるドローンの利⽤禁⽌を定めています。
滝口〔弁〕 国会議事堂などの国の重要な施設での飛行制限については当然のことと思います。でも、大きな公園でも飛ばせないとなると、ドローンを飛ばす場所はほとんどありませんね。
中川〔弁〕 道路上や路肩でのドローンの離着陸は道路使⽤許可申請を⾏う必要があります(道路交通法77条1項)。
滝口〔弁〕 そうすると、飛ばせるのは私有地か屋内ぐらいですか。
中川〔弁〕 ドローンによって撮影された映像の利⽤態様によっては、⺠法上の不法⾏為責任が⽣じるかもしれませんし、軽犯罪法違反、迷惑防⽌条例違反、個⼈情報保護法違反のリスクがあるので注意が必要です。
滝口〔弁〕 日本ではドローンが相当に規制されている印象です。日本のドローンの規制は他国に比べて厳しいのでしょうか。
加藤〔議〕 例えば、アメリカはテロ対策を重視しており、現在においてはドローンに厳しい規制をかけています。都心部でドローンを飛ばすという意味では、日本の規制・対策が一番緩いといわれています。

ドローンによる撮影とプライバシー・肖像権の関係

滝口〔弁〕 千葉先生、ドローンというと最近では家電量販店でも売っているぐらい身近になっています。ドローンによる撮影とプライバシーの関係について、どのようにお考えになりますか。
千葉〔弁〕 やはり、一般の方にドローンの使用を広く認めてしまうと、本来、外部からのぞかれたり撮影されたりすることが想定されていないプライベートな空間、例えば、マンションの窓から内部を撮影するなど、ドローンによるプライバシー侵害が起きてしまいます。規制はどうしても必要になってきます。
滝口〔弁〕 そうすると、一個人がドローンで撮影をして映像等に残したいという希望が規制されても、そのことは正当化されるということでしょうか。
千葉〔弁〕 法的観点からすると、ドローンで撮影したいという希望は、表現の自由といった基本的人権で保障される側面はあるとしても、やはり基本的には趣味としての側面が強く、重要な人権として、あるいは法的利益として保護されるかというと、難しいでしょう。むしろ、撮影を広く許すことによって生じるプライバシー侵害や肖像権侵害という問題があり、ドローンによる撮影が広く規制されることは法的にも正当化できるものと考えます。

ドローン規制と上乗せ条例

滝口〔弁〕 渡邉先生、地域によっては、法律(航空法等)よりも要件を厳しくする「上乗せ条例」という形でドローン規制をしています。このような規制についてはどう思いますか。
渡邉健太郎〔弁〕 社会一般から見ると、ドローンが「危険なもの」、「迷惑なもの」という認識はあると思いますので、そもそも広く自由に利用させてはいけないという、消極的な意味での規制が今は優先されているのかなと思います。その点では、条例により上乗せで規制されていることには合理性があると評価できるのでしょう。しかし、今後、ドローンの正しい使い方や有用性についての理解が拡大していけば、規制が緩和していくとも思われます。そういう意味で、今は過渡期ではないかとも考えられます。
滝口〔弁〕 一部の地方自治体では、ドローン規制に関する条例で「公共の福祉のためにやむを得ない理由があるとき」に限ってドローンの利用が許されるという、広範な規制を定めている例も見受けられます。
渡邉〔弁〕 そもそも、どのような場合に「公共の福祉のためにやむを得ない理由がある」といえるのか、基準として抽象的といえます。「明確性の原則」という観点からすると、条例の建付けとしてどうなのかなという印象を持ちます。

ドローンを取り巻く環境について

滝口〔弁〕 加藤先生にお伺いします。ドローンを取り巻く環境はとても厳しいように思われます。どうしてこのような状況になっているのでしょうか。
加藤〔議〕 市街地でドローンを飛ばすことについては、住民側のアレルギーもあるかと思います。現状、ドローンの利活用について理解が進んでおらず、ドローンを飛ばすことに対する住民感情もなかなか追いつかないものと考えられます。

住民の理解をどうやって得るか

滝口〔弁〕 住民の理解を得るための方法を教えてください。
加藤〔議〕 まずは住民への説明・説得が必要ないレベルのものから徐々に進めていき、ドローンに対する理解を少しずつ得ていくことが大切です。
滝口〔弁〕 具体的にはどのように進めていくのでしょうか。
加藤〔議〕 まずは、いきなり街の上空を飛行するのではなく、住民への説明が必要ないエリアに限定した飛行から進めていき、ドローンに対する理解を少しずつ得ていくことが大切です。住民の方々はドローンの墜落のリスクを気にされますが、ドローンは台風や大雨が降らない限り、そう簡単には落下しません。人間による作業よりもドローンを使った方が安全な仕事もあることを理解してもらう必要があると考えます。
滝口〔弁〕 まずは社会実装をして、その後に住民の理解を得ていくということですね。そのような手法は効果的でしょうか。
加藤〔議〕 そうですね。ドローンで超高層ビルの建物診断をするなど、住民が「これならしょうがないよね」とか「こういう使い方なら人がやるより安全だよね」と思うような使い方を実際にやってみて、ドローン利用の第一歩を刻んでいくのがよいでしょう。

中野区の取組みについて

滝口〔弁〕 中野区ではドローン利活用の取組みがあると伺いました。
加藤〔議〕 はい。先ほどのドローンで建物診断をするという取組みです。
滝口〔弁〕 どうして建物診断なのですか。
加藤〔議〕 中野区は災害時の建物倒壊危険度が高いなど、災害に対するぜい弱性が指摘されています。高層マンションなどの建物診断を行って、災害に先立って危険性を除去しておくことが重要です。しかし建物診断の主流である打診検査は、足場設置、高所作業、人が建物壁面を工具でしらみつぶしにたたくなど、難作業です。そこで、ドローンを使用して建物診断を実施するのです。実際に実証実験を行いました。
滝口〔弁〕 先ほどの法規制の問題はどのようにクリアしたのですか。
加藤〔議〕 所有地上空であれば、所有者・管理者の許諾において飛行可能であることに着目しました。
滝口〔弁〕 実証実験はどこで実施したのですか。
加藤〔議〕 中野区役所と中野サンプラザです。
滝口〔弁〕 実証実験の状況を教えてください。
加藤〔議〕 2019年11月14日中野区役所、2020年3月17日中野サンプラザで、実際にドローンを飛ばして実証実験を実施しました。点検調査で撮影した写真は約2,000枚に上ります。すべて国土交通省航空局の許可を得た上で、安全管理は一般社団法人日本建築ドローン協会(JADA)の指導のもと、「建築ドローン飛行管理責任者」が管理し実施したものです。
滝口〔弁〕 こうした成果を踏まえて、中野区ではどのような体制づくりをしたのでしょうか。
加藤〔議〕 2021年5月6日、中野区、国立研究開発法人建築研究所、JADA、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)の四者で「中野区における無人航空機を活用した共同研究の実施に向けた相互協力に関する覚書」を締結しました。
滝口〔弁〕 まずは中野区で先進的に進めていくというお考えでしょうか。
加藤〔議〕 私としては、他の区に先駆けて、中野区で、先進的に、かつ経済的にも回っていくように進めたいと考えています。今後、国家戦略特区制度を使っていくことも検討しています。
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中野区における実証実験の様子①

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中野区における実証実験の様子②

国家戦略特区制度について

滝口〔弁〕 今回のドローンに限らず、地方自治体がオリジナリティを発揮して新しいプロジェクトを進めていくのは難しいのでしょうか。
石田慎吾〔議〕 難しいといえば難しいですが、国家戦略特区制度を使えば地方自治体が新しいプロジェクトを率先して進めていくこともできると思います。ドローンについては、千葉市などもいろいろな施策を試みていると聞いています。
加藤〔議〕 外国人医師の業務解禁をしたという特区もありますし、白タク特区というのもありましたね。国家戦略特区といっても、そんなに難しい話ではありません。
滝口〔弁〕 特定の地方自治体での実績が他の地方自治体へ広がっていくとよいですね。
加藤〔議〕 今回の中野区で進めているドローン利活用の試みについても、法律で他の地域に一律に拡大していくという方法もあるかもしれません。しかし、そうまでせずに、まずは特定の区が実践して、それが他の地域にも広がっていくことが、ある意味でゴールということもできるでしょう。

むすびに

滝口〔弁〕 ドローン利活用について、これまでの議論を踏まえてご意見やご感想はありますか。
石田〔議〕 ドローンの利活用については、資材を運ぶというデリバリー的運用や、災害対策という公共的側面での使い方もありますので、住民にとっても有用なツールではありますよね。そういった点では住民の理解を得ていくことが、巡り巡って住民への恩恵につながるのでしょう。そのためにも中野区ではプロジェクトを進めていらっしゃるのだと思いました。
加藤〔議〕 私は、ドローンの利用について、前職の研究者としても以前から携わってきましたし、航空法自体を改正してやるというぐらいの気概でやっています(笑)。
滝口〔弁〕 今回、中野区で実際に進められているドローン利活用の話を聞いて、少しずつですが、政策を実現することで次第に社会が変わっていくことが感じられました。ありがとうございました。

 

中川洋子(弁護士)

この記事の著者

中川洋子(弁護士)

東京大学法科大学院修了、2015年弁護士登録(第一東京弁護士会)。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。著書・論文として「多様化する労働契約における人事評価の法律実務」(労働開発研究会・共著)、「現在の制度検証から労働組合との交渉まで 制度変更時のプロセスに即した実務課題と紛争予防の視点」(中央経済社「ビジネス法務」2020.12)。

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