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2020.06.15 議会改革

危機状況に対応できる<議会をめぐる法制度>の活用と課題――地方分権一括法施行20年の節目に――

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山梨学院大学法学部教授 江藤俊昭

危機状況での議会改革をめぐる2つの「気づき」

 議会改革は、大きく進展してきた。いわば「形式的な改革」から「実質的な改革」が目指されるようになった。住民福祉の向上につなげる議会改革の第2ステージに突入する議会も増加している。まさに、こうした改革の充実が模索されている時期に、新型コロナウイルスによる社会・経済・政治の危機が世界を覆った。
 この状況下で、議会をめぐって少なくとも2つの「気づき」があった。1つは、議会の対応が「二極化」したことである。議会改革の到達点に基づき、首長等に対して地域状況を踏まえた政策提言を行った議会があった。他方、新たな状況に右往左往したあげく、傍聴や一般質問の中止を打ち出した議会もあった。議員報酬・期末手当削減は一概に否定はしないが、何もできない議会が「やっている感」を出すためだけに実施しているのであれば、それは議会の存在意義を貶める自殺行為だ。この時期、従来の議会改革を再度振り返る必要があることの「気づき」である。
 もう1つの「気づき」は、これまで議会改革は大きく発展してきたが、あくまで平時(通常状況)を前提としていたということである。今後は危機状況における議会のあり方を模索する必要がある。これは、現行制度の下での議会版BCP(業務継続計画)の策定・改訂だけを意味しない。現在の議会改革が前提としている法体系そのものを見直すことも含めている。つまり議会改革のさらなる充実のための現行法制度改革の必要性があるという「気づき」である。もちろん、現行法体系を駆使して危機状況下での議会の役割を発揮することも重要である。
 大変な事態ではあるが、議会改革を振り返りさらに進めるための機会である。なお、前者の「気づき」については、すでに指摘している(江藤 2020ab)(1)。今回は、後者の法制度改革の「気づき」を中心に議論する。
 折しも、第32次地方制度調査会答申が出されようとしている。新型コロナウイルスへの対応は視野に入っているものの、地方議会については、議員の兼業禁止(請負禁止)事項の緩和、および労働法制改革が法改正にいたる可能性がある(2)。本稿では、危機状況によってあぶりだされた議会・議員をめぐる現行法体系を問いたい。

法改正を考える視点

 危機状況においてあぶりだされた議会・議員をめぐる現行法体系を問うのが本稿の目的である(3)。しかし、ここでは危機状況下における例外的な措置を中心に検討する。もちろん、通常状況での現行法体系の課題を考える必要はあるが、ここでは限定した。
 地方自治及び地方議会には、国政と比較して3つの特徴(①二元制=議会と首長等との政策競争、②住民と歩む議会、③議員間討議の重視)がある。危機状況においてこれらの特徴を作動させるための法改正を模索したい。少なくとも、危機状況によってあぶりだされた法改正の課題として、ウェブ議会(オンライン議会、テレビ議会等さまざまな用語があるが、本稿では「ウェブ議会」と称する)の開催、定足数、選挙日程の変更を想定している(表1参照)。そこで、こうした法改正の課題と地方自治の特徴の充実の可能性をまず考えたい。「ウェブ議会」は、ウェブによる委員会開催だけではなく本会議開催、「定足数」は審議定足数と議決定足数の分離、「選挙日程」では条例に基づいて危機状況に限定したうえでの日程変更をとりあえず想定している(詳細は後述)。
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   二元制=議会と首長等の政策競争
 議員も首長も、住民が直接選挙する。全体としての議会は、首長をはじめ執行機関と政策競争をする1つの機関であることを再確認することが必要である。地方分権改革により首長の役割は大きく変化した。それと同様に、議会の役割も大きく変わった。ウェブ議会、定足数の変更は、首長による専決処分の連発を防ぐ。また、ウェブ議会は住民との距離を狭め、議員間討議を重視することが首長等との政策競争を充実させる。危機状況下における選挙日程変更は、政策競争を容易にし、そのことが首長等との政策競争を充実させる。

 住民と歩む議会
 地方議会は一院制である。それは住民が議会を監視、そして議会に参加するからである。そのために、地方自治には様々な直接民主制度が挿入されている。今日脚光を浴びている住民投票も条例に基づいて行うことができる。ウェブ議会の作動は、住民との双方向の意見交換の可能性を広げる。また、選挙日程の変更の可能性は、危機状況での住民と議員候補者との連携を強化する手法の1つである。

 議員間討議、そして住民・議員・首長間討議を重視する地方議会
 第1の特徴ゆえに(二元制)、議会は首長とは異なるもう1つの機関として登場しなければならない。そのためには議員による討議空間が必要である。国会のように、内閣に対しては与党からの賛同、野党からの批判に終始するという場では全くない。地方議会においては、質問・質疑の場だけでなく、議員間討議が重要であると指摘されるのは、この文脈で理解できる。同時に、第2の特徴(住民と歩む議会)からも、その討議空間は、議会だけではなく、住民の提言を踏まえたもの、さらには住民、議員、首長等との討議空間となることも想定される。議員だけの討議空間から、首長等・住民も討議に参加するフォーラムとしての議会の登場である。首長等への反問権付与、請願・陳情の代表者による意見陳述の機会確保、委員会における傍聴者の発言機会の提供は、このフォーラムとしての原型の1つである。ウェブ議会は、一方で執行機関を常駐させる議会運営を改める機会となるとともに、他方では議員間討議の充実に活用できる。 
 ウェブ議会の活用にあたっては、このように地方自治の拡充を目的とすることが必要である。社会経済がオンラインに舵を切っているから直接的に政治でも、また地方議会でも活用すべきであるという議論は乱暴すぎる。地方自治の発展に活用できるかどうかが試金石となる。すでに指摘したように、少なくとも今後、3つの法改正は必要だと考えている(ウェブ議会(本会議でのウェブ活用は法改正が必要)、定足数、選挙日程の変更)。結論を先取りすれば、危機状況においては少なくとも、これらは地方自治の進展にとって必要だと思われる(4)

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江藤俊昭(山梨学院大学法学部教授)

この記事の著者

江藤俊昭(山梨学院大学法学部教授)

山梨学院大学法学部教授博士(政治学、中央大学)。 1956年東京都生まれ。1986(昭和61)年中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。専攻は地域政治論。 三重県議会議会改革諮問会議会長、鳥取県智頭町行財政改革審議会会長、第29次・第30次地方制度調査会委員等を歴任。現在、マニフェスト大賞審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、山陽小野田市)、地方自治研究機構評議委員など。 主な著書に、『続 自治体議会学』(仮タイトル)(ぎょうせい(近刊))『自治体議会の政策サイクル』(編著、公人の友社)『Q&A 地方議会改革の最前線』(編著、学陽書房、2015年)『自治体議会学』(ぎょうせい、2012年)等多数。現在『ガバナンス』(ぎょうせい刊)連載中。

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