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2018.10.25 政策研究

喫緊に解消されるべき法令制約とは? ──『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その8)──

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 総務省に設置された「町村議会のあり方に関する研究会」(以下「研究会」という)の報告書(以下『報告書』という)の実体的な評釈を続けている。前回までで3部構成の『報告書』の「Ⅱ 町村総会について」までを論じた。研究会設置の経緯という観点からすれば、全国町村議会議長会意見にもあるように、町村総会の現代的で実効的なあり方を設計するのが、本来のテーマであったかもしれない。しかし、『報告書』は、町村総会の「実効的な開催は困難である」(9頁)として、町村総会を否定した。そこで、「議員のなり手不足の対策としては、いかに小規模市町村にとって持続可能な議会の姿を実現するか、という観点で検討を進める」(9頁)としたのである。
 つまり、『報告書』の主たるテーマは町村総会ではなくなった。そこで今回は、研究会が自ら主たる対策とした「Ⅲ 持続可能な議会の実現」を論じることにしよう。『報告書』の本旨は、この第3部(Ⅲ)にあるのである。

喫緊の解決策というスタンス

 「1 現行議会における議会改革の取組」では、北海道栗山町など、各議会の主体的な議会活性化の取組みも言及されている。「現行制度下においても、こうした議会改革の取組により、議員のなり手不足という課題に一定の成果を上げている自治体も」あるという(10頁)。であるならば、各自治体議会の取組みの「優良事例」、「先行事例」を紹介し、他の自治体議会に普及・波及させ、相互学習を促進し、それでもなお対策をしない「居眠り議会」に対しては、議員のなり手不足による「立ち枯れ」を放置する、という対応もあり得よう。しかし、『報告書』は、「現行法令の枠内では課題解決に制約があることも事実である」として、「制度的解決策を……提示する必要がある」とする。
 (その4)(本連載6月25日号)で検討したときには、「平成の市町村合併」を受けて、なり手不足はある程度解消されたので、『報告書』は人口減少の中長期的な地平を見据えていると読解してきた。しかし、この箇所に至ると、「長期的展望に立って議会制度を不断に見直していくことはもちろん必要であるが、小規模市町村における現下の議員のなり手不足にかんがみれば……喫緊に提示する必要がある」として、短期的問題のこととされている。「持続可能」という中長期的な表題と、「喫緊」という対策提示とは、かなりスタンスが違うようにも思われる。とはいえ、短期的に持続しなければ、中長期的にも持続しないのであるから、「喫緊」の対策は、中長期的な「持続可能な議会」の必要条件ではあろう。むしろ問題となるのは、「喫緊」といいながら、「2つの議会」という緊急対策にはつながらないような、大がかりなモデル(・チェンジ)を提示してしまったことにあろう。

選択肢を増やすというスタンス

 上記の記述を読む限り、第1に、『報告書』は、家父長的に小規模市町村議会に対して解決策を上から付与するわけではなさそうである。各市町村議会の主体的取組みの中で、現行法令が「制約」になっているならば、その制約を除去することによって、各自治体・各議会の自主性・自律性を拡大し、各市町村議会の主体的取組みを法令が妨害しないようにする、という分権・自治的なスタンスのようである。その意味で、『報告書』は、現行法制度以上に、各議会の選択肢を増やすのが目的、とのことである。
 ただし、このスタンスが貫徹されているのかは、(その2)(本連載4月25日号)、(その3)(本連載5月25日号)で紹介したように、疑念が生じている。後述するように、特定のパッケージでリンクした抱き合わせ的な選択肢しか示していないので、実は選択肢は増えているどころか、制約されている、あるいは、バーター取引を強要される、という可能性も指摘されているのである。この点は、『報告書』のスタンスと提言内容との整合性が、問われている。

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金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授)

この記事の著者

金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授)

東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。 東京都立大学助教授、オランダ国立ライデン大学社会科学部行政学科客員研究員、東京大学助教授を経て、06年より現職。 専門は自治体行政学・行政学。主な著書に『自治制度』(2008年度公共政策学会賞受賞)、『原発と自治体』(2013年度自治体学会賞受賞)等。

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