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2018.08.27 議会改革

【セミナーレポート】自分事として「政策議会」を考える―第5回 議会事務局研究会シンポジウムin大阪―

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 2018年8月5日(日)に立命館大学梅田キャンパスで、「第5回議会事務局研究会シンポジウムin大阪」(主催:議会事務局研究会/協賛:議会事務局職員メーリングリスト(g-mix))が開催されました。当日は、関西圏を中心に多くの議会事務局職員、自治体議員が集まりました。議会事務局研究会は、西日本の議会事務局職員を中心として、2009年に発足しました。今年で9年目を迎える本研究会は、議会事務局が抱える諸課題について、現職の事務局職員の目線で今後の議会事務局のあるべき姿を求め、定期的に研究会を行いながら研鑽を積んでいます。
 シンポジウムの様子当日は多くの議会事務局職員、議員が集まった

土山教授による「政策議会とは」

 まず、本研究会の研究代表である駒林良則立命館大学教授から開会のあいさつが行われた後、第1部として土山希美枝龍谷大学教授による「政策課題に向き合い、責任を持つ『政策議会』に」と題する基調講演が行われました。土山教授は、議会は「市民が必要不可欠とする<政策・制度>を整備するための機構」であるとします。

 政策とは、何かの目的や課題と手段の組み合わせであり、必ず複数の選択肢があり、それらにあらかじめ分かっている正解はないとした上で、議会には正解のない中で「自らの決断」をくだす権限があるとしました。このため、自治体議会は、自治体の<政策・制度>の制御に責任ある政策主体としてかかわる「政策議会」であるべき、という主張が論じられました。

 政策主体としてかかわる議会になるには、政策形成の起点となるアジェンダ設定(争点)が重要であり、このアジェンダの発見には、市民ルート(陳情、請願等)、議員ルート(一般質問等)、行政ルート(首長提出議案、行政評価・総合計画等)の3つのルートがあるとしました。その中で、特に議員ルートにおける一般質問について、公表数字を確認するだけの質問や、合理的な根拠や論拠のない批判、一般質問としては個別的すぎる質問等、なぜこれほど「残念な質問、もったいない質問」が多いのか、という一般質問の質の問題を取り上げました。一般質問を組み立てる際には、事実について丹念な調査を行ったうえで分析し、そこに主張が加わったところではじめて質問の論点が見えてくると解説しました。

 また、政策議会を実現するために、「議論する議会」の重要性を説きました。「議論する議会」には、「議会自治を対話する場」と「<政策・制度>を議論する場」という2種類の意味があるとしました。我々の議会のあり方(議会自治)について対話しながら、政策制度を議論していくことが政策議会につながるというものです。その上で、争点を明らかにしつつ、市民との話し合いに本来適した議会という場を活かし、「実りある話合いの機会」をデザインすることが非常に重要であるとしました。

土山希美枝龍谷大学教授土山希美枝龍谷大学教授

クロスロードゲームによって「政策議会」を考える

 第2部は、YES/NOカードを使って行う全員参加型のワークショップとして「議会クロスロード」が行われました。「クロスロード」とは、簡単には答えの出ない事態に陥ったとき「自分ならどうするか」を考えるゲームで、ルールは、①課題(事例)を聞いて、YESかNOか決める、②決めた答えのカードを机の真ん中に出す、③一斉にカードを開く、④多数派は「座布団」をゲットし、一番多く「座布団」をもらった人が勝ちというものです。

 今回の「議会クロスロード」では、土山教授の基調講演を受けて、「政策議会」の実現に向けて、下記のような問いが出されました。参加者が「自分ならどうするか」を悩み、考え、それぞれにYES/NOカードを出し合いました。YES/NOカードを開く瞬間は、「ワーッ」という歓声があがり会場は大いに盛り上がりました。

問1:あなたは議会事務局3年目の係員。普段から議会に関する改革の提案をするも消極的な上司の理解が得られず前に進まない。一方で普段話はしないが、改革に積極的な議員がいる。あなたは、先に議員に話をする?
<結果>
YES:する 29人 49%
NO:しない 30人 51%

問2:あなたは議会事務局の係長。議員から提出された政務活動費の領収書。他と比較して高額であり腑に落ちないが、議員は「問題ない」と言う。政務活動費支出の手引きには支出項目の記載はあっても、適正額の判断を行うまでの記載はない。あなたは議員に対して意見を言う?
<結果>
YES:言う 47人 80%
NO:言わない 12人 20%

問3:あなたは議会事務局の議事係長。市民から多くの意見があるゴミ袋有料化議案の委員会審査の前。事前に委員に聴くと、何の質疑もなく採決を行いそうな状況。あなたが独自に整理した論点と争点を委員に提示する?
<結果>
YES:提示する 30人 51%
NO:提示しない 29人 49%

盛り上がった議会クロスロード盛り上がった議会クロスロード

「政策議会」と議会事務局の体制

 第3部は、「議決責任を果たすための『政策議会』への転換」、「政策議会を支える『事務局体制の強化策』とは」をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。これらのテーマについて、土山教授、林晴信西脇市議会議長、梅村晋一元神戸市会事務局長、三浦竜箕面市議会事務局議事室長、玉田直哉元鈴鹿市議会事務局議事課長が登壇し、それぞれの立場から議論が行われました。

 林氏は、西脇市議会で「議会と語ろう会(議会報告会)」や「課題懇談会」、「高校生版議会報告会」などを行い、政策議会を実現するために、多くのチャネルから市民がアクセスできる議会を目指していることを紹介しました。さらに、議会事務局との関係では、議員ができることは議員で行うという方針の下、できる限り事務局職員の雑務を減らし、議員控室のゴミは自分で持ち帰る、課題懇談会の議事録作成は議員が行う、議会報告会への事務局職員の参加は不要とするなどの見直しを行い、その代わりに事務局職員には議員の政策作りのサポートにもっと専念してもらえるような環境整備を整えたいと語りました。

 梅村氏は、これまでの単にチェック機能を担う議会から脱却するためには、議員や議会が把握している多様な民意を議論に活かすことが政策議会の実現に繋がると主張しました。その実現方法として、議員1人の意見を議会の意見とするために、本会議や委員会の場での質疑・質問を通じて課題を顕在化・政治問題化させマスコミへの働きかけ等を行い、議会内での多数派を形成する環境づくりが不可欠であるとしました。また、神戸市会で法務担当職員1名を配置した実績や、地元大学や国会図書館などと連携を図り、議会・議会事務局にシンクタンク機能を持たせるべきと語りました。

 三浦氏は、各常任委員会単位で所管事務に係る関係団体との意見交換会(分野別意見交換会)を紹介し、分野に特化した関係団体との意見交換だからこそ得られる専門的知識と豊富な情報量が、自治体政策の課題を発見する宝庫となっていることを現職の立場から指摘しました。また、議会事務局職員は市町村アカデミーや各議長会主催の研修など、様々な研修会に積極的に参加するべきとし、そこで築いた人脈を活用し自ら研修会や視察を企画することの効果を説明しました。

 玉田氏は、議員1人の意見ではどうにもならないことが、まとまった意見になれば市長と対等になれるとし、議会を組織化することが重要であるとしました。具体的には、鈴鹿市議会では、委員会単位で所管事務の中でテーマを決め、自治体内外を比較調査して得た情報について1年間議論を行い、結論を委員会提言として市長に提言する取組みを行っていることを紹介しました。こうした過程を行っていくと、異なる意見であってもほとんど同一の意見にまとまることを述べました。

参加型のパネルディスカッション参加型のパネルディスカッション

 このパネルディスカッションの中では、登壇者だけでなく参加者が3~4名のグループを作り「政策議会になるには何が必要か?」、「議会事務局にとって一番大事な仕事とは何か?」という課題について意見交換を行い、各グループからの意見を報告し合う時間も設けられました。また、ディスカッションのポイントをビジュアルにまとめるグラフィックファシリテーションの手法がとられ、八尾市職員である高尾あゆみ氏がカラフルな絵とともにわかりやすく議論のポイントをその場でまとめていきました。

高尾氏によるグラフィックファシリテーション高尾氏によるグラフィックファシリテーション

 今回のシンポジウムは、参加者も一緒になって議論に加わる工夫が随所にみられ、「自分事」として「政策議会」を捉え考えさせられるようになっていました。そのため、講師や出演者のみならず会場の声としても多様な意見が出され、それぞれに刺激し合っていたことが印象的でした。来年で発足10年を迎える議会事務局研究会は、各地の議会改革を後押しする勢いと熱気に満ちており、今後の活動成果が期待されます。

 

『議員NAVI』編集部

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