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2018.08.27 政策研究

議員のなり手不足の要因分析 ──『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その6)──

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 総務省に設置された「町村議会のあり方に関する研究会」の報告書(以下『報告書』という)の実体的な評釈を行っている。今回は、「Ⅰ 社会状況の変化と小規模市町村における議員のなり手不足」の「3 議員のなり手不足の要因」のうち、「(3)要因の分析」について検討することとしたい。『報告書』の分析によれば、要因は以下の諸点である。

議決事件の多さ

 第1は議決事件の多さである。現在の自治体議会は、地方自治法施行当初に比べ、また、国会に比べても、広範な事項を議決対象としている。それゆえ、議員には専門性がより強く求められ、時間的にもより拘束されるようになる。そうなれば、一般有権者が議会に参画しにくくなる、というわけである。この点はかなり重大な指摘である。ブラック労働だからなり手が乏しい、ということである。そうであるならば、議決事件を減らして、楽な仕事にすればなり手が増える、と『報告書』では期待されるわけである。
 もっとも、議決事件を減らして楽な仕事になって議員のなり手が増えても、そのような議会は充分な権限を持たない。無用の長物のようになるのであれば、本末転倒な対策になるかもしれない。そもそも、楽な仕事とは、やりがいのない仕事であり、そのようなどうでもいい議員になり手が増えるのかも疑問である。
 実際、町村長は決して楽な仕事ではない。少なくとも、議員と同等以上の負担感はあるはずである。しかし、だからといって、議員に比べてなり手不足が進行しているのかといえば、必ずしもそうではない。今のところ、町村長のなり手不足/後継者不足が問題視されることは多くはない。仕事の負担感に応じて、役職返上が生じているわけではないともいえる。もっとも、無投票当選が多いという点では、なり手不足/後継者不足の問題は、議員と大差はないのかもしれない。

議員定数の少なさ

 第2に、議員定数の少なさである。小規模市町村議会では議員定数が少ないので、議員の負担感が増加したから、なり手不足が進行した、とする。この点もかなり重大な指摘である。というのは、多くの小規模市町村議会では、議員立候補者が不足するので、見込まれる候補者数に合わせて、無投票を回避すべく、議員定数を減らしてきた側面がある。しかし、そうした定数削減が、さらに議員1人当たりの負担を増やすこととなり、さらになり手不足を促進してきたのであれば、これは悪循環である。
 この悪循環を断ち切るには、議員定数を大幅に増やして、議員1人当たりの負担を減らすという、『報告書』のような処方になるだろう。しかし、現実的にいって、住民が議員を「軽い片手間でできる無責任で適当な仕事」と位置付けない限り、議員の負担感は解消されない。議員定数を増やしたからといって、住民代表としての議員個人の負担は減らないのである。とするならば、議員定数を大幅に増やすことは、なり手を増やすことなく、大量の欠員を生じさせるだけにもなりうる。
 ここでも、首長と議員を比較すると不思議なことになる。定数の少なさが負担感の大きさにつながり、なり手不足になるのであれば、定数1の首長は、議員以上になり手不足になるはずではないか、という疑問もあろう。

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金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授)

この記事の著者

金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授)

東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。 東京都立大学助教授、オランダ国立ライデン大学社会科学部行政学科客員研究員、東京大学助教授を経て、06年より現職。 専門は自治体行政学・行政学。主な著書に『自治制度』(2008年度公共政策学会賞受賞)、『原発と自治体』(2013年度自治体学会賞受賞)等。

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