地方自治ジャーナリスト 相川俊英
男性議員が少数派となった日本唯一の地方議会
「よく聞かれますが、分かりません。たまたま（そうなったの）ではないでしょうか。（女性議員が多いことが）もう当たり前になっていまして、特に意識していません。ただ、過去にいろいろご苦労なさった先輩方がいたので、今、私たちは何の違和感もなくいられるのだと思います」
こう語るのは、神奈川県葉山町の土佐洋子・町議。プロのウィンドサーファーでもある土佐さんは2008年の町議補選で初当選し、現在、３期目である。
土佐さんが新人議員時代、葉山町議会の定数は17で、このうち６人が女性議員だった。その後（2011年から）、議員定数は14に削減されたが、女性議員は７人に増加し、男女同数となった。男女比は2015年の町議選後も変わらず、男性議員が圧倒的多数を占める地方議会の中で、葉山町議会は稀有（けう）な存在となった。2015年当時、全国の地方議会の中で女性議員が５割を占めるのは、葉山町と神奈川県大磯町、それに大阪府島本町のわずか３議会。いずれも議員定数14のうち女性議員が７人だった。
女性議員比率で全国トップスリーとなった葉山町議会はその後、単独首位に躍り出ることになった。もっともそれは、不名誉な出来事によるものだった。
2015年の町議選でトップ当選した新人議員（40歳の男性）が、2016年２月に覚醒剤の所持で現行犯逮捕された。議員控室での覚醒剤の使用も認めたその男性議員は、執行猶予付きの有罪判決を受けたが、自ら職を辞することはなかった。それどころか葉山町議会が下した失職決定に異を唱え、県知事への不服申立てを行った。この申立てが自治紛争処理委員に認められて復職決定が下されたため、町は大騒ぎとなった。結局、葉山町議会が全会一致で除名処分を決め、議席を取り上げることになった。男性議員の現行犯逮捕から５か月余りたってのことだった。
こうして葉山町議会は女性議員の数が男性議員を上回る、全国で唯一の議会となったのである。現員13のうち女性７に対し男性６なので、女性議員比率は約53.9％。ちなみに全国の市区町村議会の女性議員比率は、平均で約12.8％にすぎない。女性議員がゼロという地方議会は352にも上る。なお、島本町議会は2017年の選挙後、女性議員が６人に減少し、大磯町議会も辞職により女性議員は６人となった。
「正副議長が女性で、常任委員会の委員長も全員女性というときもありました。そのときは他所から視察に来られた議員さんたちがとても驚いていました。（葉山町議会の）議会運営委員会で男性議員が１人だけということもありました」（土佐町議の話）
土佐洋子葉山町議
三浦半島の西北部に位置する葉山町は、人口３万3,294人（2018年４月１日時点）。一般会計の予算規模（2018年度当初予算）は約96億7,500万円で、財政力指数は0.903（2017年度）だ。美しい海岸線を誇る葉山はマリンスポーツのメッカとして知られ、日本におけるヨット発祥の地でもある。明治中期に御用邸が建設されてから多くの名士が別荘や居宅を設ける「保養のまち」となっている。東京から50キロメートル圏内という利便性の高さも魅力の１つであった。1889年の町村制施行の際、６か村が合併して葉山村となり、1925年に町制を施行して葉山町となり、現在に至っている。
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この記事の著者
地方自治ジャーナリスト。1956年群馬県生まれ。地方自治の取材を四半世紀以上にわたって続ける。2019年7月に「議員NAVI」にて連載中の「自治の担い手の再生」を加筆してまとめた『自治体職員のための住民と共につくる自治のかたち』（第一法規）を出版。この他に、『地方議会を再生する』(集英社新書、2017年)『奇跡の村 地方は人で再生する』(集英社新書、2015年)『反骨の市町村 国に頼るからバカを見る』(講談社、2015年)など多数。
