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2018.05.25 議会改革

全国市議会議長会の会長コメント──『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その3)──

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 総務省に設置された「町村議会のあり方に関する研究会」(以下「研究会」という)の報告書(以下『報告書』という)の評釈を開始している。前回は、当事者でもある全国町村議会議長会の意見について紹介した。オブザーバーとして団体関係者が無言の陪席者として議論を聞いていたとしても、当事者の意見を聴取することなく進められた研究会の『報告書』に対して、当事者から異論が提示されるのは、ある意味で自然である。では、それ以外の関係者、すなわち、全国都道府県議会議長会と全国市議会議長会は、どうであろうか。
 全国都道府県議会議長会は、特段の意見・コメントを発表していないようである。あくまで基礎的自治体の議会のあり方に関する問題であって、ある意味で他人事として捉えているのかもしれない。前回紹介したように、全国町村議会議長会は、『報告書』の提起する論点は、全地方議会に関わる問題という『意見』を発表したわけであるが、全国都道府県議会議長会の心には、必ずしも直ちには届かなかったようである。
 これに対して、全国市議会議長会からは『「町村議会のあり方に関する研究会」報告書に対する全国市議会議長会会長コメント』(以下『コメント』という)が、『報告書』公表と同日(2018年3月26日)に出されている。組織としての議長会ではなく、会長コメントという形態ではあるが、意見表明がなされたことは重要である。そこで、今回は『コメント』を検討してみよう。ただし、会長コメントということからも分かるように、整理された意見というよりは、「所感」に近いものである。

課題・回答への違和感

 研究会は、高知県大川村から町村総会に係る課題が提起されたことが契機となって設置されたはずである。しかし、「町村総会の可能性については早々に実効的な開催は困難であると結論付けされている」(下線筆者)と言及されている。『コメント』が、町村総会に賛成であるかどうかは不明である。しかし、結論はどうなるにせよ、少なくとも研究会のもともとの契機が町村総会にあったのにもかかわらず、充分な検討をしていないという不満が、「早々に」という副詞に込められていよう。
 また、これまで議会運営の改革に主体的に取り組んできた町村議会などが要望してきた議員の請負禁止の緩和や選挙公営の拡充などの諸課題についても、「掘り下げて検討がなされた経緯は見当たらない」とされている。町村総会の論点と同じく、自治体から提起された課題には、研究会が応答をしなかった、ということを問題視しているといえよう。実際に研究会が行ったのは、自治体側が要望したこともなければ課題として挙げたこともない、「集中専門型議会」と「多数参画型議会」という、「二つの新たな議会を自主的に選択できる制度の創設とその附帯的課題」になったことを指摘する。
 簡単にいえば『コメント』は、自治体側から投げかけられた問題には回答せず、自治体側から投げかけられてもいない課題を問題として設定し、それに自問自答する形でとりまとめていることを、えぐり出しているのである。

市町村議会の一体性

 『コメント』は、「自主的な選択を前提とする制度提言」とはいえ、「小規模市町村における議会のあり方を大きく変容させる抜本的な改革を求めるものである」とし、それにもかかわらず、「提言に当たって事前に関係市町村議会など地方自治の現場の意見聴取がなされていない」とする(下線筆者)。
 この『コメント』は、まず第1に、当事者の意見を聴いていないという手続問題への批判である(後述)。しかし、第2に、同時に重要なことは、『コメント』が、町村議会と市町村議会を区別することなく、「市町村」として一体として捉えていることである。この点は、前回、全国町村議会議長会が指摘したように、町村と市を区別する、あるいは、人口規模別に小規模市町村とその他市とを区別するような国の方向性に対して、基礎的自治体として分断を警戒しているということであろう(かつても、基礎自治体と基礎的自治体とに分断しようという考え方はあった)。
 そもそも、研究会自体が「町村議会のあり方」に限定して設定したこと自体への、異議申立てといえる。もちろん、地方自治法上の町村総会は、町村にのみ認められた制度であり、町村と市を分断する法制である。いわば、町村総会という課題提起を契機として、総務省は町村と市を分断する検討を始めたかのようである。『コメント』は、こうした動きに違和感を持っているのだろう。もっとも、研究会の分断は、町村と市との間ではなく、小規模市町村とそれ以外の中大規模市との間に引かれたようである。『コメント』の警戒感は、その限りで妥当であろう。

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金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授)

この記事の著者

金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授)

東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。 東京都立大学助教授、オランダ国立ライデン大学社会科学部行政学科客員研究員、東京大学助教授を経て、06年より現職。 専門は自治体行政学・行政学。主な著書に『自治制度』(2008年度公共政策学会賞受賞)、『原発と自治体』(2013年度自治体学会賞受賞)等。

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