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2018.04.25 議会改革

全国町村議会議長会の意見──『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その2)─

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 前回から、総務省に設置された「町村議会のあり方に関する研究会」(以下「研究会」という)の報告書(以下『報告書』という)の評釈を開始しようとしてきた。しかし、前回の原稿締切りまでに『報告書』の公表がなされなかったので、前回は研究会の審議過程を論じたところである。2018年3月26日に『報告書』が公表されたので、今回から実体内容についての評釈をすることができるようになった。

全国町村議会議長会の異見

 『報告書』公表の同日、全国町村議会議長会(以下「町村議長会」という)は、『町村議会のあり方に関する研究会報告書に対する意見』(以下『意見』という)を公表した。町村議長会が、『報告書』の公表に時をおかずして『意見』を公表したということは、町村議長会の並々ならぬ関心を示しているとともに、『報告書』の内容に強い異論があることがうかがえる。
 『報告書』と同日に『意見』を公表するには、事前に『報告書』の内容を承知している必要がある。ところが、すでに論じたように、今回の研究会では、研究会の資料として『報告書』(案)が提示されていないので、公式の資料に基づいて『意見』をとりまとめることは容易ではないだろう。もちろん、すでにリークに基づくかもしれない新聞報道で、『報告書』の内容は報じられていたわけであるが、町村議長会という公式団体が新聞報道だけで『意見』をとりまとめるわけにはいかない。よく、裁判が提訴されたときにコメントを求められる行政機関が、「訴状が届いていないのでコメントできない」などというが、本来ならばそのような状況であったはずである。逆にいえば、それだけ即時にコメントして反論しなければならなかった内容だったのであろう。
 もっとも、報道機関は、公表当日に紙面を形成するために、行政機関から事前に報告書の提供を受け、さらには説明会を持つのが普通である。もちろん、このとき事前に提供される報告書は、公表又は報告書手交後に解禁されるという約束である。こうして見れば、町村議長会も、数日前には『報告書』を入手していたとしても不思議ではない。とはいえ、『報告書』を精査する時間的余裕はなかったであろう。
 ともあれ、『意見』は5項目にわたってとりまとめられている。以下では、まずは町村議長会の異見を見てみよう。

現場の要望に応えていない

 第1に、研究会設置趣旨であるところの「町村総会のより弾力的運用」について研究すべきである、という。高知県大川村などで町村総会についての提起がある以上、まずは現場自治体の要望と需要に応じて、国では町村総会という現行制度の可能性を論じるべきだとしている。もちろん、町村議長会としても、町村総会には問題があると認めている。とはいえ、町村総会の弾力的運用方策について、「ほとんど議論されていない」という不満を表明している。要するに、研究会が現場の要望に真摯に応答していないことを問題視しているのである。
 第2に、現場からの声、自主的な取組みを重視すべきである、という。実際の地方議会では自主的な取組みがなされており、これを踏まえて制度改革を行うことが重要だという。例えば、北海道浦幌町議会では、議員のなり手不足の解消を真摯に考え、その中で具体的な提言・要望をしている。例えば、兼業禁止規定の緩和、補欠選挙の改正、公営選挙の拡大、手当の拡充、休暇・休職・復職制度などである。こうした現場の提言・要望を優先的に検討し、実現するべきという。要するに、現場の提言・要望にまず応答するべきなのに、研究会がそれと無関係な検討をしているのが、不満なのである。
 つまり、研究会が、現場の要望に応えるボトムアップで分権・自治的な検討を行うのではなく、それとは無関係に、あるいは、現場の要望を逆手にとって、トップダウンで集権・官治的な検討をしていることに、異論があるのである。

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金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授)

この記事の著者

金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授)

東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。 東京都立大学助教授、オランダ国立ライデン大学社会科学部行政学科客員研究員、東京大学助教授を経て、06年より現職。 専門は自治体行政学・行政学。主な著書に『自治制度』(2008年度公共政策学会賞受賞)、『原発と自治体』(2013年度自治体学会賞受賞)等。

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